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2015年6月17日 (水)

ホントはこんなことしている場合じゃないんだけど、メモが出てきたので...

Mikulic, J., & Prebezac, D. (2011) A critical review of techniques for classfying quality attributes in the Kano model. Managing Service Quality, 21(1), 46-66.
 久々に狩野モデル関連の論文。著者らはクロアチアのツーリズム研究者で、狩野モデル関連でよく名前を見かける。
 4年くらい前、狩野法に関する資料を集めまくり朝から晩まで読み倒したことがあったのだけど、その際には未読のまま時間切れになっていた奴だ。先日仕事の都合で掘り出してメモを取ったんだけど、記録するのを忘れていた。

 マーケティング・経営の文脈での品質属性の分類手法をレビューする。発想としては、狩野モデルでいう"must-be", "attractive", "one-dimensional" の3分類が前提となっていて、実際に品質属性をどうやって分類するか、というのがお題である。
 イントロは飛ばして...

狩野法。個々の対象者に、「もし(属性)が充足されていたらどう思うか」「もし(属性)が充足されていなかったらどう思うか」と尋ね、2問への回答をカテゴリ化して集計し、属性を分類する。狩野らの元論文に沿って紹介(つまり属性分類まで、Better-Worseマップはなし)。
 ここでなかなか面白い議論になるので、細かくメモしておくと...
 著者いわく。仮に、ある特定の製品・サービス属性が充足している(いない)ということがどういうことかが明確に定義されているならば、その属性についての顧客の感覚を評価する手法として、狩野法の理屈は論理的に妥当である。しかし、「充足」「非充足」の定義があいまいな場合は、深刻な問題が生じる。[←そうそう、そうなのよね... となぜかオネエ言葉に]
 たとえば次のようにいう人がいる。<「魅力的」な品質属性とは、それが達成されたときには顧客満足が引き起こされ、しかしそれが達成されていていなくても不満は引き起こされない属性だ>と。しかし、同じ人が舌の根も乾かぬうちにこんな云い方をする。<「魅力的」な品質属性とは、そのパフォーマンスが高いときにそれが顧客満足に与えるポジティブな影響が、そのパフォーマンスが低いときにそれが顧客満足に与えるネガティブな影響よりも強い属性である>と。さらには、これらの定義を一緒にして次のように述べる人もいる始末である。<「魅力的」な品質属性とは、それが存在するときないしそのパフォーマンスが十分なときには顧客満足を引き起こすが、ぞれが存在しないときないしそのパフォーマンスが不十分であっても不満を引き起こさない属性である>と。
 ここには、ある属性が供給(provision)されているか否かについての消費者の評価は、その属性のパフォーマンスの高さ/低さについての消費者の評価と同一だ(ないし少なくとも類似している)、という暗黙的な仮定があるわけだ。この仮定を受け入れるならば、「充足」「非充足」を存在という観点から定義しようがパフォーマンスという観点から定義しようが、狩野法が提供する属性分類は同じだ(ないし少なくとも類似している)、ということになる。
 さあ、ほんとだろうか。学生を被験者にして次の設問文を試してみた。お題は携帯で使うネット銀行サービス。

a.の設問文だと魅力反応・無関心反応が増え、b.の設問文だと一元的反応・当たり前反応が増えた[つまり、bだとdysfunctional項目でdislikeが増えたわけね]。
 二つの点を考慮する必要がある。(1)「充足」概念の操作的定義をパフォーマンス型で行うとすごくバイアスがかかる。(2)a.とb.はそもそも状況がちがう。a.では属性のパフォーマンスが良いことが含意されているが、b.ではパフォーマンスは良いかもしれないし悪いかもしれない。
 本来、狩野法の属性分類を決めるのは、属性のパフォーマンスではなく、(多かれ少なかれ)期待されているベネフィットが提供されているかいないかである。また、狩野モデルが問題にしているのは客観的パフォーマンスであって知覚されたパフォーマンスではない。パフォーマンス型の方法では狩野法の分類の信頼性が失われてしまう。本来、狩野法の設問文はこうであるべきだ。

もっともこのやり方だと、属性が全体満足に与える影響についてはわからなくなってしまう。つまり、モバイルサービスが不満よりも満足をつくりだす可能性が高いということはわかっても、その属性が口座についての全体的判断においてどのくらい重要かはわからないし、他の属性とどう関連しているかもわからない。

penalty-reward constrast analysis (PRCA)。Brandts(1987) が提案した。個々の対象者に、全体満足と属性のパフォーマンスを聴取する。で、属性のパフォーマンスを「すごく低いか」「すごく高いか」の2つのダミー変数にコーディングしなおす(たとえば、7件法で訊いておいてTopBoxとBottomBoxだけをコーディングする、とか)。で、全体満足を従属変数にし、単回帰なり重回帰なりシャープリー値なりを求める。属性数が多いときは先に因子分析しちゃおうなどという提案もある由(著者は否定的)。
 利点: 属性をその相対的重要性で区別できる。欠点: 存在しない属性は調べられない。また、狩野法が結局は属性の物理的パフォーマンスと属性への満足の関連性を調べているのに対して [←著者の立場からいえばそうなりますね]、PRCAは属性の知覚されたパフォーマンスと全体満足との関連性を調べているわけで、比較にならない。

importance grid (IG)。IBMのコンサルタントが考え出したといわれている。重要性の直接評定を横軸、統計的な重要性 (標準化偏回帰係数とか)を縦軸にとって、属性の散布図を描く。右下はmust-be, 左上がattractive, 右上・左下がone-dimentional。
 利点:直接評定は期待の指標、統計的重要性は満足へのインパクトと捉えられ、その点では狩野法の精神に合致している。欠点:満足-不満の非対称性を捉えていない。相対的な分類であり、属性セットに依存する。

質的データ手法。クリティカル・インシデント・テクニック(CIT)や"analysis of complaints and compliments" (ACC)のこと。信頼性は疑わしいが、特定の製品・サービスに対する満足・不満の源を同定するためには有効。

直接分類。対象者に直接分類してもらう[ははは]。実現しにくいし、信頼性に欠ける。

 というわけで、(狩野法を客観ベースと知覚ベースにわけて) 計6個の手法の星取表を示す。

 考察。属性のパフォーマンスを客観ベースで捉えるか知覚ベースで捉えるかでいろいろ違ってくる。

 。。。うーむ。いろいろ勉強になる内容であったが、著者がいわんとするところがいまいちよく理解できていない。
 狩野法において属性の充足を認知的に捉えるか物理的に捉えるかが論者によって違うという点は、著者は引用してないけどLilja & Wilkund (2006)も指摘していた点であった。ふたつの視点を混在させると困ったことになる。それはわかる。
 これに対して著者らは、狩野モデルにおける属性の充足は物理的概念として捉えるのが「正解」だ、というスタンスを取る。当然ながらそれはさまざまな運用上の問題を引き起こす(物理的充足/非充足を記述するのは結構難しい)。著者らにいわせれば、つきつめていえばそれは狩野モデルの概念的欠陥なのだが、狩野モデル属性の充足/非充足をベネフィットの提供の有無として記述することで克服できる... ということになるのだろう。

 よくわからなかったのは、なぜ属性の充足を客観的に捉えるのが「正解」なのか、という点である。それは分析手法のユーザが決める問題であろう。ここで測定の信頼性の話をするのは本末転倒なのではないか。人は測れるものを測るのではなく、測りたいものを測ろうとすべきではないか。
 物理的品質と知覚品質は異なる。顧客の知覚品質に介入するマーケティング・アクションは製品改善以外にもありうる(コミュニケーションによる期待の操作とか)。だから、著者が何と仰ろうが狩野先生がなんと仰ろうが、私は属性の充足を認知的概念として捉えたい、つまり私がやりたいのは、(期待に依存しない)ベネフィット提供の有無と全体評価との関係という観点からみた属性分類ではなく、(期待からの差異としての)知覚品質と全体評価との関係という観点からみた属性分類なのだ... という人がいても、ちっともおかしくない。この人に向かって「あなたがやろうとしている品質分類は真の狩野モデルじゃない」ということは可能だろう。「あなたがやろうとしていることは真の意味での品質分類じゃない」ということも、もしかすると可能かもしれない。でも、この人に向かって「あなたがやろうとしていることは間違っている」といえるのか、どうか...?

論文:マーケティング - 読了:Milukic & Prebezac (2011) 狩野モデルに基づく品質属性分類手法レビュー

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