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2015年7月18日 (土)

Marinovic, I., Ottaviani, M., & Sorensen, P.N. (2011) Modeling idea markets: Between beauty contests and prediction markets. in Williams, L.V., "Prediction Markets: Theory and Applications". Routledge.
 買ったまま積んであった予測市場の論文集のなかの一篇。このたび調べものをしていて、タイトルに惹かれて読んだんだけど、たいそうマニアックな論文であった。

 予測市場では市場参加者の報酬を最終的結果を予測できたかどうかで決めるけど、 アイデア市場では他の参加者の選択を予測できたかどうかで決めざるを得ない。でも人気のみに基づく純粋なアイデア市場は美人投票になってしまい、私秘的情報を集約できなくなってしまう。では、最終的結果に基づく報酬と人気に基づく報酬とを混在させたらどうなるか。

 アイデアの価値を$\theta$とし、事前分布を実数直線上の一様分布とする。いま、エージェント$i(=1,\ldots,n)$に$\theta$についての情報が渡されている。そのシグナルは2種類あって、

誤差項は互いに独立に$\eta \sim N(0, 1/\alpha), \epsilon_i \sim N(0, 1/\beta)$とする。

 市場設計者はシグナルを観察できない。そこで、参加者のみなさまに同時かつ独立に$\theta$を予測していただく。$i$さんの予測を$a_i$とする。全員の予測の平均$\bar{a}_n$をconsensus forecastと呼ぶことにする。
 参加者には公表した報酬ルールに従って報酬を払う。$i$さん以外のすべての人の予測のベクトルを$a_{-i}$として、報酬ルールを次式とする。
 $u_i (\theta, a_{-i}, a_i) = -\delta(a_i - \theta)^2 - (1-\delta)(a_i - \bar{a}_n)^2$
 第一項が予測の正確性の項、第二項が美人投票の項である。$\delta$を予測市場強度、$1-\delta$をアイデア市場強度と呼ぶ。$\delta$は定数だと考えてもいいし、確率だと考えてもいい。

 強度をどう設定したらconsensus forecastがどうなるか。次の指標を市場の情報性と呼ぼう。[←えーっと、$\theta$の事後分布の分散の小ささですね]
 $\gamma = 1 / var(\theta | \bar{a}_n )$
 以下では線形な戦略、対称的均衡について考える。[← ううむ。このようにセッティングすることの実質的な意味がよくわからない。対称的均衡ってのは、つまり全員が同じ解を選ぶような均衡ということだと思うけど、エージェントが直面している状況がエージェント間で同じだったら、対称的均衡だけについて考えればいいのかなあ。だけどさ、たとえばタカ・ハト・ゲームだと、純戦略のナッシュ均衡解はすべて非対称ですよね? 勉強不足でよくわからないぜ]

 [本文ではここでまず、$\delta=0$すなわち純粋なアイデア市場と、$\delta=1$すなわち純粋な予測市場について述べているんだけど、省略して...]

 報酬の期待値を最大化させる予測値は
 $a_i = \delta E_i(\theta) + (1-\delta) E_i(\bar{a}_n)$
 つまり、consensus forecastの期待値が必要になる。そこで、次のような線形均衡が存在すると仮定しよう:
 $a_i = \phi y + (1-\phi) x_i$
 このときconsensus forecastの期待値は
 $E_i (\bar{a}_n) = \frac{a_i + (n-a) E_i (a_{-i})}{n}$
 これをもとの式に代入してごりごり変形していくと、結局
 $\phi = \frac{(n-1+\delta) \alpha}{(n-1+\delta) \alpha + n\delta \beta}$
 となる。予測市場強度$\delta$が高くなると下がり、私秘シグナルの精度$\beta$が高くなると下がり、エージェント数が多くなると上がり、共有シグナルの精度$\alpha$が高くなると上がる。

 情報性はどうなるかというと、
 $var(\theta | \bar{a}_n) = \phi^2 / \alpha + (1-\phi)^2/(n\beta)$
 その性質について。

 というわけで、市場による予測は、特に美人投票的な要素が入ってくるといろいろ直観に反する情報特性を持つので、気をつけなさいね。という話であった。へへーっ。

 いろいろ難しい話だったので、シミュレータなんぞ作成しつつ頑張って読んだ。勉強になりましたですが...
 著者らが考える状況は、「市場運営者は予測対象の真の価値$\theta$をいずれ知り、それに基づいて私たちへの報酬を決める」と市場参加者たちにある程度まで信じてもらえる状況なのである。云うまでもなく、アイデア市場運営者にとっての真に深刻な問題とは、参加者のその信念をどうやって確保するか、という点だ。
 Skieraたちであれば「嘘でもいいから専門家委員会を開くと云え」というだろう。LacombたちやDahanたちなら「まあ人気投票でもどうにかなるよ」というだろう。この論文の面白さは、外的基準と人気投票をミックスした報酬ルールを想定し、その下での市場の振る舞いを調べる、という発想である。しかしその混在をどのように実現するかは、読み手の私たちに丸投げされている...

論文:予測市場 - 読了:Marinovic, Ottaviani, & Sorensen (2011) 予測市場と美人投票のあいだで

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