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2015年8月10日 (月)
Dekimpe, M.G., Hanssens, D.M. (2000) Time-series models in marketing: Past, present and future. International Journal of Research in Marketing. 17, 183-193.
マーケティング・モデルにおける時系列モデルについての概観。仕事の都合で時系列データについて勉強していて、細かい話にうんざりしてしまったので、ラフな見取り図のようなものが欲しくて手に取った。
しっかし、2000年のレビュー論文をいま読むなんて、我ながら風雅というか、なんというか。
歴史。
時系列モデルが用いられる問題は大きく3つあった。
- 予測。
- 変数の時間的順序の特定(グレンジャー因果性が用いられる)。
- マーケティング変数の効果の特定(伝達関数分析)、ないしあるイベントの効果の特定(intervention analysys)。[←なにを指しているのかわからない。インパルス応答関数の分析かなあ]
こういう研究はデータ・ドリブンであった。つまり、標本ベースの自己相関関数とか交差相関関数とかで関数形を同定した(天下りにKoyckモデルを使うとかいうのではなくて)。
時系列モデルを使う研究の数はあまり多くなかった[著者らによる表によれば論文23本]。その理由は:
- 研究者が時系列モデルをよく知らなかった。
- データドリブンであることへの抵抗感があった。Koyckモデルなんかだと背後に広告効果についての実質的理論があるけど、時系列モデルにはない。
- 縦断データは手に入れにくかった。
- 時系列モデルが優勢になるような特定の分野がなかった。つまり、SEMにとっての顧客満足研究、離散選択モデルにとってのプロモーション研究のような分野がなかった。
最近の動向。
時系列モデルの使用は増えてきた。理由:
- ソフトの普及。
- 共和分分析と構造VARXモデルの登場。ただし、共和分分析はいまんところ探索的使用に限られている(長期均衡が成立しているかどうかに関心が向けられており、理論的に導出される特定の関係性があるかどうかを検証する例は少ない)。構造VARXモデルも同様で、理論ドリブンなモデリングはみあたらない。
- 時系列データが増えてきた。スキャナ・データとか。
- 長期変動から短期変動をうまく切り離す手法が整備された。単位根検定、共和分モデル、誤差修正モデル、persistence estimation[21本の論文を挙げている]。詳しくは以下を見よ:Franses(1998 IJRM), Bronnenberg et al.(2000 JMR)[←面白そう], Dekimpe & Hanssen (1999 JMR)。
研究アプローチも、単一データセットに基づく長期変動の記述から広がってきた:
- 複数カテゴリへの一般化、効率性の変動と理論ベース記述子との関連付け[理論に基づく説明変数系列を導入する、ということかなあ]。
- マーケティング支出の規範的ガイドラインの構築。
- マーケティング分野特有の検証の登場。市場シェアモデルにおける論理的整合性とか、プロモーション下での多重外れ値の存在とか[どういう意味だろう...?]
今後の動向。4点について論じます。
その1、スキャナ・データなどの充実に伴い、データのサイズがでかくなるだろう。これには4つの面がある。
(1)変数の数が増える。
グレンジャー因果性検定で変数を選択することが増えるだろう。ふつうグレンジャー検定は2変量でやるけど、そうすると検定の繰り返しになって重要な変数が落ちちゃうという点が危惧されるので、多変量モデルでやったほうがよい。でも今度はモデルの倹約性が失われる。
同時的な因果的効果については、事前知識で順序付けすることが多いけど、変数の数が多いとどうしても再帰的になってしまう。VAR残差をMVNと仮定して、関心ある変数へのショックの効果を推定する、というのがよいだろう。
長期的効果の解釈も難しくなる。N本の単位根時系列の間にはN-1個の共和分関係がありうるわけで、困ってしまう。
意識・選好などの態度変数が同じ間隔で手に入っちゃう場合も増えてくる。変数によって誤差の構造が違ったりして、難しくなるけど、新しい問題設定もでてくるだろう。短期的顧客不満は長期的売上に効くか、とか。
(2)時系列が長くなる。
推定は改善され、戦略的示唆はリッチになり、レジーム・チェンジについての検討が容易になる。Moving-window方式の回帰なりVARモデル、ないし時変パラメータのモデルが活躍するようになるだろう。
(3)時間間隔が短くなる。
その有用性は分野によって違うけど、たとえば、TV-CFへの反応の1時間ごとのデータをつかった伝達関数がつくれたら、広告管理へのインパクトは大きいだろう。
(4)累積のレベルが低くなる。
個々の消費者レベルとか、店舗レベルとか、SKUレベルとか。なお、同様の動向は選択モデルの分野にもある。新しい可能性が開けますね、云々。
[ここ、ちょっと面白いので細かくメモ] 累積のレベルが長期的推論に与える影響についてはよくわかっていないことが多い。Pesaran & Smith (1995 JEconSurveys) は、異質性のあるパネルを通じて累積して得た時系列について、仮にミクロのレベルで共和分関係があっても、共和分係数に異質性があるせいで、累積すると長期均衡の存在がわからなくなってしまうことがある、と指摘している。いっぽう、異なる店舗を線形に累積したデータにlog-logモデルを適用した上で得たインパルス応答関数が、線型モデルを適応した場合のそれと強く相関していたという報告もある(線型モデルのほうが累積によるバイアスに強いはず)。
その2、市場環境の変化が速くなるだろう。
市場反応についてのこれまでの知見はたいてい、定常だと想定されるデータに基づいていた。これからはそうはいかなくなる。とくに競合反応についての研究へのインパクトが大きい。たとえば、最近のメタ分析によれば、価格プロモーションへの競合反応においてもっとも支配的な形式は「なにもしない」である。21世紀のamazonとかの時代にそんなこといってられるか。
その3,マーケティングとファイナンスの関係に注目が集まるだろう。
たとえば、広告投資は売上に長期的インパクトをもたらすが短期的には利益を下げる。投資家側はマーケ活動への企業の関与を促進すべきか止めるべきか。企業価値については長期の時系列データがあるんだから、これからはこういう問題で時系列分析が使われるようになる。
その4,インターネット・データソースの勃興。云々。
最後のほうは話も駆け足、私も斜め読みになっちゃったけど、まあ読了ということで、次に行こう。
それにしても、ここでいう時系列モデルというのは基本的にはVARモデルというか、経済時系列分析の話なんですね。状態空間モデルのジョの字も出てこない。そういうもんすか。
論文:マーケティング - 読了:Dekimpe & Hanssens (2000) マーケティングにおける時系列モデルレビュー