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2017年1月 5日 (木)
えーと、アメリカにMSI(Marketing Science Institute)というところがあって、年に2回、「実務家どもよ、最近の面白い論文はこれだ」というキュレーションをやっている。たまに目を通しては面白がったりうんざりしたりしてたんだけど、このたび都合によりメモをとってみた。
2016年10月のおすすめ論文12本についてメモ。元論文の要旨にしか目を通していないので、タイトルも内容もいいかげんです。
消費者の支出を予測する新手法
Jang, S., Prasad, A., Ratchford, B.T. (2016) Consumer spending patterns across firms and categories: Application to the size- and share-of wallet. International J. Research in Marketing , 22, 123-139.
複数のカテゴリを扱っている企業が、競合の売上がわかんない状態で消費者の支出を予測するための方法。潜在クラスつきのトービット・モデルをつかいます(つまりセグメンテーションしながら各セグメントにトービットモデルを当てはめるってことね)、支出の異質性も扱えます、企業間・カテゴリ間での支出の相互関係も扱えます、カテゴリ支出がないことによる打ち切りも扱えます、とのこと。ああ... メモをとっていてようやく意味がわかった。これ、すごく役に立つ話かも...
「はい/いいえ」形式だと人はクリックしやすくなる
Putnam-Farr, E., Riis, J. “Yes/No/Not Right Now": Yes/No Response Formats Can Increase Response Rates Even in Non-Forced-Choice Settings. J. Marketing Research, 53(3), 424-432.
そうそう、これは読まなきゃと思ってた奴。メールでフィールド実験をやって、伝統的なオプト・インの設問とyes-no設問のCTRを比べる。強制選択でなくたって、yes-no設問だと反応率が上がるのよ、とのこと。
消費者の参加が新製品開発の役に立つ場合とそうでもない場合
Chang, W., Taylor, S. (2016) The Effectiveness of Customer Participation in New Product Development: A Meta-Analysis. J. Marketing , 80, 47-64.
表題についてのメタ分析。製品開発における消費者参加が上市までの時間を長くしてしまう場合がある、効く分野と効かないかない分野がある、というような話らしい。興味深い話ではあるが、なんかすごく面倒くさそうだ。
ブランド知覚のリアルタイム監視
Culotta, A., Cutler, J. (2016) Mining Brand Perceptions from Twitter Social Networks. Marketing Science , 35(3), 343-362.
いっかにも誰かがやりそうな話で、題名を見ただけでちょっと笑っちゃったんだけど...表題の通り、Twitterでブランド知覚を監視しますという話。200ブランド以上について3つの属性を監視したんだそうだ。ふーん。
「決定したことの喜び」が顧客経験を向上させる
Parker, J.R., Lehman, D.R., Xie, Y. (2016) Decision Comfort. J. Consumer Research . 43(1) 113-133.
意思決定の後で、その決定自体についての評価とか後悔とか満足とかとは無関係に、人はソフトにポジティブな感情(decision comfort)を持つことがあるよね。というわけで、測定尺度を作るわ、その帰結について検討するわ、実験を9個もやっている忙しい論文(ちょっとやりすぎじゃないですかね)。よくわかんないけど、著者らが提唱するdecision comfortとは、選択肢の比較に由来する感情ではなく、決定時の情動関連的手がかりに対する反応なのだそうです。配送費はサービスしますよとか、お客様その財布の柄ステキですねとか、そういう話だろうか?
ハッシュタグは「ブランド・パブリック」の登場を告げているのか?
Arbidsson, A., Caliandro, A. (2016) Brand Public. J. Consumer Research . 42(5) 727-748.
ブランド・コミュニティという概念があるけど、twitterの分析を通じて新たな概念「ブランド・パブリック」をご提案します、という論文。この雑誌には定性調査ベースの質的研究も載るんだけど、これもそういうのらしい。ブランド・コミュニティとのちがいは、(1)当該の関心事に焦点を当てていることによって形成されているだけで、相互作用に基づいているのではない、(2)議論ではなく感情で構造化されている、(3)ブランドはただの媒体に過ぎず、ブランドをめぐる集団的アイデンティティなんて形成されない。
「検索ビッグデータ」で競合マップを描く
Ringel, D.M., Skiera, B. (2016) Visualizing Asymmetric Competition Among More Than 1,000 Products Using Big Search Data. Marketing Science , 35(3), 511-534.
製品比較サイトの検索データから消費者の考慮集合と競合関係を導出します、という話。TV市場(製品数は1000を超える)で実例を示している由。なんと、第二著者は予測市場を研究してるSkieraさんだ。まじか。
ネットの評価は製品のほんとうの品質を表すか?
de Langhe, B., Fernbach, P.M., Lichtenstein, D.R. (2016) Navigating by the Stars: Investigating the Actual and Perceived Validity of Online User Ratings. J. Consumer Research , 42(6), 817-833.
1200以上の製品についてのネット上のユーザ評価を調べたところ、信頼あるConsumer Reports誌のスコアとは全然一致せず、よく見るとサンプルサイズは小さすぎ、リセール価格をも反映せず、プレミアムブランドで高くなってました。ユーザ評価への消費者の信頼は幻想に基づいております。というような内容らしい。はっはっは。先生方、夜道に気を付けたほうがいいですよ、IT企業の刺客がやってきますよ。
売上に対するネットクチコミの影響
Rosario, A.B., Sotfiu, F., de Valck, K., Bijmolt, T.H.A. (2016) The Effect of Electronic Word of Mouth on Sales: A Meta-Analytic Review of Platform, Product, and Metric Factors. J. Marketing Research , 53(3) , 297-318.
これもメタ分析。ネットクチコミと売上との相関は+.091、プラットホームによっても製品によっても大きく違う。クチコミの中身よりも量のほうが効く。云々。
オンデマンド・ストリーミング・サービスと音楽産業:Spotifyの教訓
Wlomert, N., Papies, D. (2016) On-demand streaming services and music industry revenues — Insights from Spotify's market entry. International J. Research in Marketing . 33(2), 314-327.
Spotifyみたいな定額or広告ベースの音楽サービスは、ダウンロード販売やCD販売とカニバるか?というのを大規模な縦断調査で調べた由(おお、調査手法がすごいっすね)。無料サービスはやっぱしネガティブな効果を持つけど、有料サービスまで含めて考えるとポジティブである由。
キャンペーンでマルチチャネル購買者を増やせるか?
Montaguti, E., Neslin, S.A., Valentini, S. (2016) Can Marketing Campaigns Induce Multichannel Buying and More Profitable Customers? A Field Experiment. Marketing Science , 35(2), 201-207.
マルチチャネル購買者は利益率が高いといわれているんだけど、じゃあどうすればマルチチャネル購買者を増やせるか。ランダム化フィールド実験をやった(まじか。すげえな)。結果、マルチチャネルでの買い物の利点を訴求する(金銭的インセンティブには頼らない)キャンペーンがうまくいった。傾向スコアでマッチングして、マルチチャネルだとやっぱり儲かるということが示せた。云々。
オンラインデータでTVについて予測する
Liu, X., Singh, P.V., Srinivasan, K. (2016) A Structured Analysis of Unstructured Big Data by Leveraging Cloud Computing. Marketing Science . 35(3), 363-388.
SNSみたいなオンラインデータから、TV番組の視聴率(?)をどうにかして予測しましょう、という話。使うのはtwitterだけど、事前にトピックを決めといて関連ツイートの量を追いかけるんじゃなくて、機械学習で事後的に分類する由。それは面白そうですね。これ、論文の題名が不親切だよな...
こうしてメモをとってみて気が付いたけど、MSIのキュレーションって、結構ミーハーかもしれない。もっと地味だけど大事な研究もあるような気がする。
雑記 - MSIが選ぶマーケティング論文:2016年秋