elsur.jpn.org >

« 読了:Cattelan (2012) 一対比較データのための統計モデル・レビュー | メイン | 読了:Agresti(1992) 一対比較への順序尺度型回答を分析するための2つのモデル »

2017年8月24日 (木)

 仕事の都合でBradley-Terryモデルを使っていて(←そういう古典的モデルがあるのである。大儲けとはおよそほど遠い地味な分野の地味な話題なのである。世のデータサイエンティストたる皆様はもっと他の金になる話について知識を誇ったほうがよいだろう)、これって学部生のときに習ったサーストンのモデルと実質的にどうちがうんだろう?(←そういう超古典的なモデルがあるのである。計量心理の先生がなぜかそういう黴臭い話を延々と続けて止まなかったのである。もっと他の話をしてくれりゃよかったのに)、とふと疑問に思ったので、適当に検索して、出てきた魅力的な感じのPDFを印刷して、筒状に丸めて片手に持って外出した。
 で、移動中にパラパラめくったら、これは... 俺の読みたかった話と違う... いや、まあ、いいけどさ...

 Stern, H. (1990) A continuum of paired comparisons model. Biometrika, 77(2), 265-73.
 というわけで、途中からうとうとしながらパラパラめくっただけだけど、一応メモ。
 既存の一対比較モデルを、ガンマ確率変数を使ったモデルで包括的にご説明します、という話。

 $k$個の刺激(プレイヤー)のトーナメント戦について次のように考える。
 プレイヤー$i$のスコアは率$\lambda_i$のポワソン過程に従い、スコア獲得のプロセスはプレイヤー間で独立とする。2個のプレイヤーの勝敗とは「どっちが先にスコア$r$を獲得するか」であるとする。[←なんというか、一対比較課題への回答を生成する認知モデルとしては非常にナンセンスな気がするが、そういうご主旨の論文ではないのだろう]。
 このとき、プレイヤー$i$がスコア$r$を獲得するまでにかかる時間は、形状$r$, スケール$\lambda_i$のガンマ分布に従いますね。$i$が$j$に勝つ確率を$p^{(r)}_{ij}$は、形状はどちらも$r$でスケールは$\lambda_i, \lambda_j$である2つの独立なガンマ確率変数$X_i, X_j$を考えると
 $p^{(r)}_{ij} = pr(X_i < X_j)$
中略するけど、これは結局
 $\displaystyle p^{(r)}_{ij} = f(r, \frac{\lambda_i}{\lambda_j})$
と書ける[← 原文には$f$の中身が書いてあるけど面倒なので省略]。

 このガンマ確率モデルの枠組みで、既存のいろんなモデルを扱える。
 たとえば$r=1$とすると、これは
 $\displaystyle p^{(r)}_{ij} = \frac{\lambda_i}{\lambda_i + \lambda_j}$
となる由。この系統のモデルはいっぱいあって(convolution type linear model)、Bradley-Terryモデルもそのひとつ。
 また、たとえば$\displaystyle \frac{\lambda_i}{\lambda_j} = \frac{1}{1+\Delta r^{-1/2}}$とすると、これは
 $\displaystyle \lim_{r \to \infty} p^{(r)}_{ij} = \Phi \left( \frac{\Delta}{\sqrt{2}} \right)$
となる由。ただし$\Phi(\cdot)$は標準正規分布の積分。これはThurstone-Mostellerモデルに近い。[...後略...]

 データへの適合度でモデルを比較してもいいけど、$n$がすごく大きくない限りどっちもみな様な結果になるのよ。昔の研究で、Bradley-TerryモデルでもThurstone-Mostellerモデルでもデータへの適合は似たようなもんだという指摘が多いが、それはこういうことなのよ。云々。

論文:データ解析(2015-) - 読了:Stern(1990) 一対比較データを扱ういろんなモデルを「2つの刺激がそれぞれ謎の得点を稼いでいきある得点に先に達したほうの刺激が勝つのだ」モデルで包括的に説明する

rebuilt: 2020年11月16日 22:54
validate this page