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2017年8月25日 (金)
論文メモの記録。まだ5月分だ...
Loffler, M. (2014) Measuing willingness to pay: Do direct methods work for premium durables? Marketing Letters, 26, 535-548.
支払意思額(WTP)の聴取方法を比較した研究。PSM(price sensitivity meter)とCBC(選択型コンジョイント)を比べる。著者の所属はポルシェだそうである。
いわく。
WTP測定には、PSMのような直接法と、コンジョイント分析のような間接法があって、往々にして結果が違う。Steiner & Hendus (2012, WorkingPaper)の調査によれば、ビジネスでは直接法のほうが良く使われている(全体の2/3)。
WTP聴取方法を比較した先行研究をみると[...5本の論文を表にして紹介...]、消費財・サービスが多く、被験者は学生が多く、文化差研究がみあたらない。
仮説。自動車で実験します。
- H1.PSMの受容価格帯の左端は、特売価格についてのストレートな設問への回答と合致する。
- H2.PSMの受容価格帯の右端は、「期待市場価格」についてのストレートな設問への回答と合致する。
- H3.PSMの最適価格点は、CBC[選択型コンジョイントね] に基づく最適価格とは著しく異なる。
- H4a.PSMの受容価格帯の個人レベルでの幅は、成熟市場のドイツで広く発展市場の中国で広い。
- H4b. CBCに基づく価格帯は国間の差が小さい。
[結果次第であとからなんとでもいえる話ばかりで、いささか萎える。わざわざこういう仮説検証研究的なしぐさをしなくてもいいじゃんと思うのだが、まあ、この領域のお約束なのであろう...]
実験。
US, ドイツ, 中国でやった高級車の「カークリニック」で実験した。[←前職で初めて知ったのだが、調査会場で新車(ないしそのモック)を提示する消費者調査のことを「クリニック」と呼ぶ。車検のことではない。たぶん自動車業界に特有な用語だろう(白物家電の「クリニック」って聞いたことがない)。面白い業界用語だなあと思う。誰が医者で誰が患者なんでしょうね]
対象者は過去4年以内新車購入者で高年収で次回購入車を決めてない人, 各国約500人強で計1640人。新車と競合車(BMWとかMBとか)、計7台を提示。
いろいろ訊いた後にPSM(4問のうち「安い」設問を特売価格のストレート設問とみなす)、市場価格ストレート設問(「割引がないとしていくらだと思います?」)、CBC課題。[順序が書いてないぞ。カウンターバランスしてないとか?]
CBCは、属性は(1)メークとモデル、(2)エンジンタイプ, (3)馬力、(4)国産/輸入, (5)装備、(6)価格。それぞれ3~4水準。12試行、1試行あたり7台+「どれも選ばない」から選択。ホールドアウトは調べてないが、NCBS調査と照合して妥当性を検証しました、云々。[NCBS調査とは欧州車を中心とした新車購買者調査のこと]
結果。
H1, H2を支持。わざわざPSMで受容価格帯を調べなくても、ストレート設問の集計と変わらない。
CBCの各選択肢のコストを別のデータから調べておいて、利益を最大化する価格を求めた。これをPSMの最適価格点と比べると、後者のほうが低い。[モンテカルロ法で幅を出して... 云々と説明があるが、省略]。H3を支持。
国によるちがいは...[めんどくさくなってきたのでスキップ]
考察。高級耐久財でWTPの実験をやりました。手法は選ばなあきませんね。ちゃんと国別に調べんとあきませんね。云々。
わざわざ読まなきゃいけないほどの話じゃなかったけど(すいません)、PSMについてきちんと実験している研究はあまり多くないので、えーと、その意味ではですねー、参考になりましたですー。
それにしても... ちょっとこらえきれないので書いちゃうけど、PSMの最適価格点と、CBCの最適価格点を比べるのは、いくらなんでも無理筋でしょう。PSMは(妥当かどうかは別にして)消費者の価格知覚からみた最適価格を調べようとしているのに対して、CBCの最適価格点とはメーカーからみた利益最大化価格である。もしメーカーがPSMの最適価格で値付けしちゃったら、売上がどうなるかは知らないが、利益が最大化されないのは当っっったり前であろう。いったいなにを考えておられるのか。まあいいけどさ。
話はちがうが:
PSMの設問文については前に論文や書籍を調べたことがあるんだけど、4問の設問で毎回「品質」という言葉を使い、思い切り知覚品質にフォーカスした設問文を採用している人と(Monroe(2003), 杉田・上田・守口(2005)など)、「品質」という言葉をあまり使わず、単に安すぎ/安い/高い/高すぎな価格を訊く方向の人(Travis(1982), 朝野・山中(2010)など)がいると思う。この論文の設問文は後者の路線。この違いって、歴史的には何に由来してるんですかね。
論文:調査方法論 - 読了:Loffler (2014) 高級車の消費者支払意思額をPSMとコンジョイント分析で比較する