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2017年12月 5日 (火)

Naik, P.A., Raman, K. (2003) Understanding the impact of synergy in multimedia communications. Journal of Marketing Research. 40(4), 375-388.
 仕事の都合で大急ぎで読んだ奴。

 いわく。
 本論文の目的は、マルチメディア・コミュニケーションにおけるシナジーの効果を実証し、理論的に分析すること。ここでいうシナジーとは、複数のマーケティング活動(たとえばテレビCMと雑誌広告)を併せた効果が、個々の効果の和を上回ることである。

 先行研究。

 モデル。
 とりあえずはAR(1)からスタートします。時点$t$における売上を$S_t$, 広告投資を$u_t$として
 $S_t = \alpha + \beta u_t + \lambda S_{t-1} + \nu_t$
とする。$\alpha = E[S_o] | u_{t < 0}=0$, $\beta$は短期効果, $\lambda$はキャリーオーバー効果。$\nu_t$は正規誤差としましょう。
 かつてMontogomery & Silkはこう考えた。活動が$u$と$v$の2種類あるとして
 $S_t = \alpha + \beta_1 u_t + \beta_2 v_t + \lambda S_{t-1} + \nu_t$
 JagpalやGopalakrishna & Catterjeeはさらに交互作用を入れた。
 $S_t = \alpha + \beta_1 u_t + \beta_2 v_t + \kappa u_t v_t + \lambda S_{t-1} + \nu_t$
 本論文ではこの路線で行きたい。ここでいくつか注釈。

 実証分析。
 リーバイスにご協力いただき、Dockersというブランドの"Nice Pants"広告キャンペーンについて分析する。1994-1997の47ヶ月のデータを貰った。
 上述のモデルに6月効果、7月効果、12月効果、1月効果の4つのダミー変数を追加したモデルを推定する。
 具体的にはどうやるかというと... [以下、ちょっと細かくメモする]
 季節効果のダミー変数は観察方程式のほうに入れる。以下では遷移方程式[状態方程式のことね]について説明する。
 売上個数$S_t$を、TV広告による売上$S_{1,t}$, 紙媒体広告による売上$S_{2,t}$, シナジーによる売上$S_{3,t}$の3つに分解しておいて[つまり売上という一本の観察時系列の背後に3本の状態時系列を考えるわけね]、
 $S_{1,t} = \lambda S_{1,t-1} + \beta_1 u_t + \nu_{1t}$
 $S_{2,t} = k\lambda S_{2,t-1} + \beta_2 v_t + \nu_{2t}$
 $S_{3,t} = \lambda S_{3,t-1} + \beta_3 \kappa u_t v_t + \nu_{3t}$
ただし$\nu_{it}$も$N(0, \sigma^2/3)$に従うとする。
 2つめのキャリーオーバー効果に$k$を入れたのは、キャリーオーバーがメディアによって違うかもしれないから。3つの$S_{i,t}/S_t$と3つの$S_{i,t-1}/S_t$がすべて等しいという制約をつけて$k$をグリッドサーチして尤度が最大になる$k$を得た。
 $u_t, v_t$はTV支出, 紙媒体支出の平方根とした。
 [以下、観察方程式・状態方程式の誤差の分散行列の話と、モデルの対数尤度の式。めんどくさいのでスキップ]

 というわけで、推定しました。
 シナジー効果$\kappa$は有意でした。
 AICとかBICとかでモデル選択したら...[略]
 残差の診断したら...[略]
 交差妥当化では...[略]

 ここからは規範的分析。
 時点$t$における利益を$\pi_t$とする。正味現在価値は、割引率を$\rho$として
 $ J = \sum_{t=1}^{\infty} \exp(-\rho t) \pi_t$
である。$J$を最大化する媒体計画$\{(u_t, v_t)\}$を考えたい。
 [...ここから、決定論的最適制御理論というのでもって解を出すという話になる。読んでも理解できそうにないので大幅に中略して...]
 というわけで、ここから次の示唆が得られる。

 メディアの数がN個に増えた場合への拡張。[めんどくさいのでパス]

 考察。

 結論。
 近年のIMCフレームワークというのはシナジー効果を前提にしているし、マーケターや代理店もシナジーという考え方を受け入れているのに、実証研究が少ない。みなさん、メディアの効果を調べるだけでなく、クロスメディア・シナジーも調べましょう。
 云々。

 。。。いやー、これ、完全に市場反応モデルの話であって、個人レベルでの態度変容における広告媒体間の交互作用の話は全然出てこなかった。思ってたとの違ったんだけど、ま、それはそれで勉強になりました。
 2つのメディアの交互作用をカルマン・フィルタで推定するだけかよ、なんだかなー、と思いながら読み進めていたのだが、モデルから逆に最適な投資配分を決める式を導出し、そこから教訓を得る、ってのがこの論文のミソなのね。今時はそんなことができるんすか、すごいっすね、でも正直ついてけない、って感じだ。

論文:マーケティング - 読了:Naik & Raman (2003) 広告媒体間のシナジー効果をカルマン・フィルタで華麗に推定するぜ

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