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2017年12月 5日 (火)
Naik, P.A., Raman, K. (2003) Understanding the impact of synergy in multimedia communications. Journal of Marketing Research. 40(4), 375-388.
仕事の都合で大急ぎで読んだ奴。
いわく。
本論文の目的は、マルチメディア・コミュニケーションにおけるシナジーの効果を実証し、理論的に分析すること。ここでいうシナジーとは、複数のマーケティング活動(たとえばテレビCMと雑誌広告)を併せた効果が、個々の効果の和を上回ることである。
先行研究。
- マーケティング変数間の交互作用は、そもそもマーケティング・ミクスという概念そのものの基盤となるテーマであった。実証研究の歴史も長い。広告の効果と製品品質改善の効果の交互作用とか。Gatignon(1993, in Handbook of OR and MS)のレビューをみよ。
- いっぽうマルチメディア・コミュニケーションにおける交互作用については研究が少ない。Montgomery & Silk (1972, MS)はコミュニケーション・ミクスという概念を打ち出していて、交互作用に注目しているんだけど、あいにく実証はしていない。実証研究の最初期はJagpal(1981, JAR)だが、あいにくキャリーオーバーを無視している。
- かつて英国でラジオ局のコンソーシアムが"Image Transfer Study"というフィールド研究をやって、テレビCMで作られたイメージをラジオ広告が強化するという結果を示している。また実験室実験ではEdell & Keller(1999, MSI Working Paper)がテレビCMと紙媒体の広告との交互作用を調べている。
- 広告投資の研究では、営業と広告の交互作用を組み込んだ規範モデルもある。Gatignon & Hanssen (1987 JMR), Gopalakrishna & Chatterjee(1992 JMR)。
モデル。
とりあえずはAR(1)からスタートします。時点$t$における売上を$S_t$, 広告投資を$u_t$として
$S_t = \alpha + \beta u_t + \lambda S_{t-1} + \nu_t$
とする。$\alpha = E[S_o] | u_{t < 0}=0$, $\beta$は短期効果, $\lambda$はキャリーオーバー効果。$\nu_t$は正規誤差としましょう。
かつてMontogomery & Silkはこう考えた。活動が$u$と$v$の2種類あるとして
$S_t = \alpha + \beta_1 u_t + \beta_2 v_t + \lambda S_{t-1} + \nu_t$
JagpalやGopalakrishna & Catterjeeはさらに交互作用を入れた。
$S_t = \alpha + \beta_1 u_t + \beta_2 v_t + \kappa u_t v_t + \lambda S_{t-1} + \nu_t$
本論文ではこの路線で行きたい。ここでいくつか注釈。
- 最初にAR(1)なモデルを組んだけど、その背後にあるメカニズムとして2通り考えられる。(1)Koyckモデル。最初の効果は$\beta$, 次の期の効果は$\lambda \beta$, 次の期の効果は$\lambda^2 \beta$, ...と考える。(2)partial adjustment model。マネージャは目標売上$S^\#_t$を目指して広告を打つ。その結果、売上は$S_t - S_{t-1} = (1-\lambda)(S^\#_t - S_{t-1})$だけ伸びる。ARモデルはこの結果を$S^\#_t$なしで見ているのだ、という説明。どちらの理屈を採るかで誤差項が変わってくる。前者だと誤差は系列相関を持つが後者だと持たない。
- Gatignon&Hanssensの発想は、マネージャーのアクションはマーケットのアウトカムに影響するだけでなく、マーケティング活動の効率性にも影響する、というものであった。そこで彼らはプロセス関数$\beta_1 = \beta_1' + \kappa v_t$を考え、これをモデルにいれた。そのせいで交互作用項が生まれたのである。この発想でいうと交互作用項には誤差項がない。[←ちょっと待って、このくだり、よくわからない...]
- ラジオ局のフィールド実験などを鑑みるに、いろんなメディアがお互いにイメージを強化しあって、交互作用が生まれているんでしょうね。
- もしかすると「どのメディアによって作られた$S_{t-1}$か」でキャリーオーバー効果$\lambda$が変わってくるのかもしれないじゃん、と査読者に指摘されたんだけど[...中略...]
- 広告の目的は顧客のリテンション率を上げることだろう、というわけで、$S_{t-1}$と広告の交互作用を考えるという拡張もありうる。これは実際に検討します。
- このモデル、OLSじゃだめなんで、カルマンフィルタで推定します。
実証分析。
リーバイスにご協力いただき、Dockersというブランドの"Nice Pants"広告キャンペーンについて分析する。1994-1997の47ヶ月のデータを貰った。
上述のモデルに6月効果、7月効果、12月効果、1月効果の4つのダミー変数を追加したモデルを推定する。
具体的にはどうやるかというと... [以下、ちょっと細かくメモする]
季節効果のダミー変数は観察方程式のほうに入れる。以下では遷移方程式[状態方程式のことね]について説明する。
売上個数$S_t$を、TV広告による売上$S_{1,t}$, 紙媒体広告による売上$S_{2,t}$, シナジーによる売上$S_{3,t}$の3つに分解しておいて[つまり売上という一本の観察時系列の背後に3本の状態時系列を考えるわけね]、
$S_{1,t} = \lambda S_{1,t-1} + \beta_1 u_t + \nu_{1t}$
$S_{2,t} = k\lambda S_{2,t-1} + \beta_2 v_t + \nu_{2t}$
$S_{3,t} = \lambda S_{3,t-1} + \beta_3 \kappa u_t v_t + \nu_{3t}$
ただし$\nu_{it}$も$N(0, \sigma^2/3)$に従うとする。
2つめのキャリーオーバー効果に$k$を入れたのは、キャリーオーバーがメディアによって違うかもしれないから。3つの$S_{i,t}/S_t$と3つの$S_{i,t-1}/S_t$がすべて等しいという制約をつけて$k$をグリッドサーチして尤度が最大になる$k$を得た。
$u_t, v_t$はTV支出, 紙媒体支出の平方根とした。
[以下、観察方程式・状態方程式の誤差の分散行列の話と、モデルの対数尤度の式。めんどくさいのでスキップ]
というわけで、推定しました。
シナジー効果$\kappa$は有意でした。
AICとかBICとかでモデル選択したら...[略]
残差の診断したら...[略]
交差妥当化では...[略]
ここからは規範的分析。
時点$t$における利益を$\pi_t$とする。正味現在価値は、割引率を$\rho$として
$ J = \sum_{t=1}^{\infty} \exp(-\rho t) \pi_t$
である。$J$を最大化する媒体計画$\{(u_t, v_t)\}$を考えたい。
[...ここから、決定論的最適制御理論というのでもって解を出すという話になる。読んでも理解できそうにないので大幅に中略して...]
というわけで、ここから次の示唆が得られる。
- 活動の効率性に比例させて、多様な活動に予算配分すべし。
- シナジーが大きいほど、全体の予算を増やすべし。つまり、シナジーがない場合ならば過剰な広告投資だといえる金額でも、シナジーがあるとなるとそうでもない。
- シナジーが大きい程、効率性が高い活動への予算配分を減らすべし(簡単に言っちゃうと、仮に全体予算が1として、交互作用は半々に分配したときに大きくなるわけだから)。もし効率性が同じなら、シナジーの効果を問わず、均等に分配すべし。
- キャリーオーバーが大きいときには全体予算を増やすべし。
- シナジーがなかったら、予算配分の際にキャリーオーバーのことを考える必要はないが、シナジーがある場合は、キャリーオーバーが大きいときほど、効率的な活動に配分する予算を減らすべし。
メディアの数がN個に増えた場合への拡張。[めんどくさいのでパス]
考察。
- 競合の広告に対抗するための予算配分については別の枠組みが必要。
- こういう動的システムには2種類の不確実性がある。観察ノイズと遷移ノイズである[観察方程式の誤差項と状態方程式の誤差項、という意味かなあ]。前者は測定システムの改善に寄り低減できる。最近の研究ではブランド認知トラッキングにおける測定誤差の効果をウェーブレット・フィルタリングでどうにかしようというのがある[←へええ。Naik & Tsai (2000 JMR)というのを読むと良さそう]。いっぽう遷移ノイズは、モデル・パラメータの時間変動とか、ブランド売上に影響するたくさんの小さなイベントのせいで生じる環境的な不定性とかによって生じる。
- 観察された時間間隔がモデルの時間間隔と異なるとき(例, モデルは月次なのにデータは年次)、バイアスや推定効率低下が生じる。これも今後の課題。
- 最初にGatignon & Hanssens のモデルについて触れたけど...[なんだか面倒な話なのでパス]
- メディアの数の増加に増えてパラメータ数が増え、推定しにくくなるし汎化性能が落ちる。現実的な対策としては:キャリーオーバー効果はメディア間で一定とする。因子分析なり主成分分析なりで説明変数を縮約する。情報量規準でもって変数選択する。PLS推定する。[←おおっと... 著者らはPLSを支持する論文も書いている模様。Naik & Tsai (2000 JRSS)]
- 一般論としていえば、自己回帰過程はこういう風に特徴づけられるんだけど
$S_t = f(S_{t-1}, u_1, u_2, \ldots, u_N) + \epsilon_t$
これじゃ推定も分析もできないから、$f(\cdots)$についてなんらかの制約を掛けるわけだ。さて、上の式のすべてを線形に繋いじゃうモデルのことをsingle-indexモデルという(交互作用項なんかをいれてもいい)。これは解釈上便利なのだが、マーケティングへの応用例がない。今後の課題である。[←へえええ!? 意味がわからない。これってごく素直な、最初に思いつくモデルじゃないの? 私が話の趣旨を理解できていないだけだろうか。Naik & Tsai (2001, Biometrika), Leeflang, Wittink, Wedel & Naert (2000 "Building Models fo Marketing Decisions")というのが挙げられている]
結論。
近年のIMCフレームワークというのはシナジー効果を前提にしているし、マーケターや代理店もシナジーという考え方を受け入れているのに、実証研究が少ない。みなさん、メディアの効果を調べるだけでなく、クロスメディア・シナジーも調べましょう。
云々。
。。。いやー、これ、完全に市場反応モデルの話であって、個人レベルでの態度変容における広告媒体間の交互作用の話は全然出てこなかった。思ってたとの違ったんだけど、ま、それはそれで勉強になりました。
2つのメディアの交互作用をカルマン・フィルタで推定するだけかよ、なんだかなー、と思いながら読み進めていたのだが、モデルから逆に最適な投資配分を決める式を導出し、そこから教訓を得る、ってのがこの論文のミソなのね。今時はそんなことができるんすか、すごいっすね、でも正直ついてけない、って感じだ。
論文:マーケティング - 読了:Naik & Raman (2003) 広告媒体間のシナジー効果をカルマン・フィルタで華麗に推定するぜ