« 読了:Min & Agresti (2002) ゼロがやたらに多い非負データの分析方法レビュー | メイン | 読了:池谷・長坂(1993) スーパーを地図にプロットしてみた »
2018年6月12日 (火)
尾崎久仁博(1993) エリア・マーケティングの理論と実際:市場細分化,流通管理,組織強化の観点から. 同志社商学, 45, 52-90.
えーと、著者は流通の研究者らしい。同じ紀要誌で2001年に追悼号というのが出ている。
遡れるだけ遡ろうという好奇心から読んだ古い紀要論文なので、全然期待してなかったんだけど、これがすごく勉強になった。
前半は文献レビュー。後半は著者による、企業への聞き取り調査。松下電器、資生堂、花王、サントリー、ハウス食品に聞き取りに行っている。で、5事例を通じた考察。
いくつかメモ:
- 米田清紀さんという方が1993年にこう書いているそうだ。エリア・マーケティングには3つの段階があった。(1)70年代、言葉先行の時代。(2)80年代、新手法期待の時代。(3)90年代、企業経営・組織運営全体の枠組みの中で捉える時代。
- いっぽう著者いわく、エリア・マーケティングが日本で実際にブームになったのは2回。(1)70年代中ごろから80年代初頭。背景にあったのは高度成長の崩壊。80年にブレーン編集部編「実戦的エリア・マーケティング」という本が出た。(2)90年代初頭、バブル崩壊直前。新製品開発ラッシュへの反省から、価格維持と競争への強い志向が生まれた。[←へええ!]
- 最初期の研究書は高橋潤二郎(1972)「エリアル・マーケティング」。この人は79年の本で「エリア・マーケティング」と呼び換えている。
- 高橋いわく、エリア・マーケティングは日本独自の概念。「マーケティング地理学」ってのは前からあるけどこれとはちょっとちがう。著者いわく、最近はアメリカでも日本でいうエリア・マーケティングに関心が高まっている由。
- これまでの主要研究として著者が挙げている書籍は次の通り。80年代は、室井鐵衛、米田清紀、牛窪一省。90年代は、加藤智紀、流通政策研究所、佐川幸三郎。
- エリア・マーケティングと全国マーケティングの関連のしかたが4つ考えられる。(1)あるエリアで、そのエリアの特性に適合したマーケティングを展開する。シェアや知名度が向上して他のエリアにも好影響を及ぼすだろうという考え方。(2)あるエリアについてきめ細かく分析する。そこで得た知見は全国マーケティングにも役立つだろうという考え方。(3)シェアの低いところで頑張る。とにかく地域格差をなくすのが目的だという考え方。(4)製品と価格には触れず、プロモーションとチャネルの資源配分を最適化するという考え方。近年有力なのは(3)と(4)。[←なるほど... なんとなく(4)が自明であるような気がしていたよ...]
- エリア・マーケティングをマーケティング戦略としてみたとき、「エリア」の概念があいまいである点に注意。理屈の上からいえば、エリアは市場細分化によって摘出されたセグメントなのだが...(1)実際には市区町村をそのまま使ってたりする。だから、競争度x魅力度のポートフォリオ上にエリアをマップするというような分析にとどまってしまい、「地域差を解消しよう」という標準化の発想へとつながっていく。(2)いっぽう、エリアとして小売店の商圏をそのまま使うこともある。この場合、ふつうは各小売店の商圏のなかに複数のセグメントがあるわけで、エリア・マーケティングは、各小売店のセグメント対応を支援するか、(チャネル別に製品ミックスを変えたりして)各小売店を特定セグメントにターゲティングさせるという形になる。この場合、エリア・マーティングは細分化の発想へとつながっていく。
論文:マーケティング - 読了:尾崎(1993) エリア・マーケティングの理論と実際 in 1993