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2018年7月31日 (火)

Powers, D. (2018) Thinking in trends: The rise of trend forecasting in the United States. Journal of Historical Research in Marketing, 10(1), 2-20.
 ちょっと用事があって手に取ったやつ。アメリカのトレンド予測企業BrainReserveの創立者にして、アメリカのお茶の間でも知られているという有名人Faith Popcornさんを中心に、70-90年代の米トレンド予測産業の勃興と繁栄を振り返るというマーケティング史の論文。研究としての価値は全然分かんないんだけど、面白く読んだ。

 アメリカでトレンド予測が産業として成立したのは70年代初頭なのだそうだ。アルビン・トフラーの本がベストセラーになり、人々が未来の不透明さに対する恐怖に突き落とされた時代である。当時の主要な未来予測手法はシナリオプランニングとデルファイ法。いずれもマクロレベルの要因に焦点を当てていた。いっぽうマーケターたちは、消費者のなかのイノベーターやアーリー・アダプターに注目しはじめた。ところが現実には、誰がイノベーターやアーリー・アダプタ―なのかを決めるのは難しい。というわけで、いま起きている文化的現象をわかりやすく翻訳してくれる専門家が求められるようになり、Feith Popcornをはじめとしたトレンド予測家たちや各種サービスが繁栄を謳歌する時代がやってくる...

 いまとなっては、Popcornがある種の予言者だったのか、それともただの商売人だったのかはあまり大した問題ではない。むしろ重要なのは、彼女とその仲間たちの成功が、文化予測の役割と影響についてなにを語っているかである。70年代、トレンド予測は未来という脅威を未来という好機へと変換した。まず企業と文化の間の壁を打ち壊すことによって、次に文化の未来を覗き見る小窓としての「トレンド」を提供することによって。20年後、ニューズウィーク誌はこの数十年間でもっともホットであった職業のひとつとしてトレンド予測を挙げたが、それはもはや一般化しすぎてしまい、縮小を余儀なくされているとも示唆している。いまや、冷酷なまでの変動がアメリカ人の生活における標準となり、ビジネスの基本要素となった。未来を予測するという行為は、この不安定性を和らげることを意図していたのだが、実際には、未来をひとくくりにして名前を付け文化へと送り返すことによって、むしろ不安定性を加速する役割を果たした。[...]トレンド予測家の未来論について考えるとき、正しいか正しくないかは良い物差しではない。トレンド予測家たちは文化を分析し、世界がそれに乗って進んでいくと想定されているトレンドへと変換した。それは未来の予測でもなければ未来のでっちあげでもなかった。彼らは未来を生み出していたのである。

 ...なるほどねえ。トレンド予測には予言の自己成就のような側面があったわけね。
 存じ上げなかったんだけど、Faith Popcornさんは御年71歳。たくさんの流行語を世に送り出したマーケター・著述家らしい。いまの日本で言うとどういう人なんですかね。三浦展さんとか?

論文:マーケティング - 読了:Powers (2018) トレンド予測産業とその時代

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