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2010年4月 5日 (月)
宇宙怪人しまりす医療統計を学ぶ (岩波科学ライブラリー (114))
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佐藤 俊哉 / 岩波書店 / 2005-12-06
いま俺は主にサーヴェイ調査のデータ解析の仕事をしているが,そこで心理統計の華麗なる(?)知識が活躍するかというと,これが案外そうでもない。むしろ役に立つのは,意外にも,医療統計の知識である。従属変数が質的で,かつひとつしかなくて,独立変数がいっぱいあって,実験的統制ができないのに因果的推論が求められる,という状況では,医療統計学の精緻な議論に勝てる分野はないと思う。もっとも,たとえば従属変数の数が増えたり量的になったりすると,心理畑の知識が俄然役に立つのだが。
この本の著者は有名な医学統計家で,俺も学会で何度かナマで拝見し,俺のようなど素人にもわかりやすく説明する手腕に感銘したことがある。この本の存在も前から知っていたのだけれど,この妙な題名にちょっと二の足を踏んでしまい,本屋でぱらぱらめくって,まあこれは読まなくてもいいや,と放っていた。アサハカであった。。。これはスゴイ。たくさん買って周囲に配りたいくらいだ。
観察データに基づく因果的推論では,もしこの人が別の状況にいたら...という反事実的な発想が必要になると思う。そこが初心者にとってのハードルのひとつだと思うのだが,その点をこの本は革命的アプローチで乗り越える。生徒役の宇宙怪人しまりすは(後半で「宇宙怪人」が姓であることがあきらかになる),タイムマシンと服従装置「イエッサー」を持ち,平和を愛するが自由意志は尊重しないので,たとえば喫煙者を捕まえ,過去にさかのぼって喫煙をやめさせて,肺ガンになる確率の変化を実証的に調べる,といった暴挙が可能なのである。
このしまりすも危険な生物だが,宇宙の果てのりすりす大学に招かれ,卒業発表会で思わず正論を述べてしまりすの卒業を阻止してしまう京大の先生も,恐れを知らぬ危険な男であるといえよう。爆笑しつつ読み進めるうちに,いつのまにか感度・特異度やリスク比・オッズ比といった概念まで頭に入ってしまう,という寸法である。恐るべき読み物。続編を書いてくださらないかしらん?
データ解析 - 読了:「宇宙怪人しまりす 医療統計を学ぶ」