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2011年6月 1日 (水)
Fader, P.S., Hardie, B.G.S., Huang, C.Y. (2004) A dynamic changepoint model for new product sales forecasting. Marketing Science, 23(1), 50-65.
個々人の購買速度が動的に変化するような新製品販売予測モデルをつくりました。という論文。
ええと。。。まず,新製品販売予測の核心はmultiple-event-timing processであり,問題はマーケティング・ミクス変数をコントロールしようがなにをしようがこの過程が本質的に非定常であるという点だ,との仰せである。multiple-event-timing processという言葉の意味がよくわからなかったのだが、おそらく、新製品の購買データとはtime-to-eventデータのeventが複数になったやつ、いわば「患者が何度でも死ねる生存データ」だ...ということではないかと思う。たぶん。
著者いわく、古典的なトライアル・リピート・モデル(購買を初回購買=トライアルとその後の購買=リピートに分けて予測するモデル)には以下の問題がある。
- リピートの過程も定常ではない。たとえば、初回リピートは実は「もう一回だけトライアル」かもしれない。
- トライアルとリピートは独立ではない。たとえば、初期のトライアル購入者はカテゴリ・ヘビー・ユーザで、だからいったんリピートしはじめるとスゴイ、とか。
- ふたつモデルを作る分、パラメータ数が多い。
いっぽうこの論文の作戦は:
- ある対象者の j 回目の購買について、マーケティングミクス変数を共変量とした比例ハザードモデルをつくる。つまり、まずは瞬間死亡率、じゃなかった瞬間購買率について考えるわけだ。基準ハザード(つまり平均的マーケティングミクスにおける瞬間購買率) を \lambda_j とする。これは個人ごとに異なる。
- 基準ハザードは一回購買が起きるごとに変わったり変わらなかったりする、と考える。j 回目の購買の直後に基準ハザードが変わる確率を \gamma_j とする (どう変わるかは別にして)。これは個人間で同じ。
- なんどもリピートするうちに、購買速度はだんだん安定してくるだろう (速くなるか遅くなるかは知らないが)、というわけで、\gamma_j = 1 - \psi ( 1 - e^{-\theta(j+1)}) と考える。つまり、変化点が起きる確率が減少する曲線を考え、その形状を2つのパラメータ \psi, \theta で表す。
- 基準ハザード \lambda_j は同一のガンマ分布に従うと考える。基準ハザードがたくさん入った、みんなで使う大きな壺がひとつあり、ある人に変化点が訪れるたび、その人はいま持っている基準ハザードを未練なく捨て去り、壺から新しい基準ハザードをランダムに一個引く、というわけだ。著者らも認める通り、ここが一番現実離れした部分なのだが、まあとにかく、消費者間異質性はガンマ分布の2つのパラメータで表される。
こうして、購買データをたった4つのパラメータ(と、マーケティングミクス変数の係数)だけでモデル化できたことになる。パラメータはちょっと工夫すれば最尤推定できる由。いったん推定すれば,その先の販売予測が可能。なお,このモデルでは配荷や競合のことは一切考えていない。
もうちょっとシンプルに、「個人の基準ハザードが購買のたびごとに少しづつ変わる」と考えたほうがいいんじゃないかと思ったのだが、著者らはそういうモデルも作っているらしい(Moe&Fader,2003)。はあ、さいですか。
論文では、テストマーケットのホームスキャンデータを使い、上市後26週を学習データにして52週の売上ボリュームやリピート率を予測している。で,学習期間をためしに12週まで減らしてもどうにかなったそうだが、そのあたりの体系的な検討は今後の課題である,とのこと。
いやいや,ちょっと,あなた!そこが肝心な所じゃない! とずっこけたのだが,よく考えてみたら,この論文が想定しているのは,上市後少し経った新製品のその先を予測するというようなせせこましい使い方ではなく,もっと壮大な使い方であろう。ホームスキャンデータを持っている会社が,あらゆる新製品にこのモデルを当てはめて片っ端から4つのパラメータを求め,カテゴリ別のノームをつくる,というような。あーあ,だんだんどうでもいいような気がしてきた。
論文:マーケティング - 読了:Fader, Hardie & Huang (2004) 新製品販売予測の動的変化点モデル