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2012年5月14日 (月)

Baltas, G., & Doyle, P. (2001) Random utility models in marketing research: A survey. Journal of Business Research, 51, 115-125.
 離散選択のランダム効用モデルについてざざざーっと概観する論文。長く積読リストに入っていたのを、ようやく読了。
 ここでいうランダム効用モデルというのは、てっきり属性の部分効用が消費者間で異なるような離散選択モデルのことを云っているのだと思ったのだが(だって、回帰分析におけるランダム係数モデルってのはそういうのじゃないですか)、そうじゃなくて、選択肢の全体効用に確率的な項が入っているモデルはなんであれランダム効用モデルなのであった。

 著者いわく... そもそも、選択モデルの誤差項がIID(独立に同一の確率分布に従うこと)でなくなる理由は、おおきく3つある: (a)観察されていない製品属性, (b)観察されていないtaste heterogeneity(個人間ないし個人内で)、(c)個人内ダイナミクス。この3つを区別することが大事である。
 そんなこんなで、著者らはランダム効用モデルを次の4つの観点で分類する。

 (a)に対する対処をみると、ランダム効用モデルはIIA型モデルと非IIA型モデルにわけることができる。(a-1)前者は事実上、多項ロジット(MNL)モデルのこと。後者としては、まず一般化極値(GEV)モデル。そのなかで標準的で使いやすいのは(a-2)入れ子型ロジット(NMNL)モデルだが、選択肢の階層をアプリオリに与えなければならない。(a-3)分散不均一極値(HEV)モデルは製品間の誤差分散・共分散を製品間で変えることができるモデルだが、あんまり使われていない。いっぽう、もっとintellectually appealingなのは(a-4)多項プロビット(MNP)モデルなのだが、あいにく計算が大変。

 (b)に対する対処には、観察されている属性についてのtasteにおける異質性への対処という面と、選択肢そのものへのtasteにおける異質性への対処という面がある。つまり、対象者 i の選択肢 j の効用をV_{ij}, 共変量を X_{ij} として、V_{ij} = \alpha_j + X_{ij} \beta + \epsilon_{ij} と書いたとき、\betaが人によって違うかもしれないという話と、\alpha_j が人によって違うかもしれないという話があるわけだ。さて対処法としては、

にわけられる。
 個人の係数を固定効果として推定する方法には3つある。

 個人の係数をランダム効果として推定する方法は2つに分けられる。

 (c)の問題はさらに次の2つに分けられる。

... このくだりもよくわからなかったのだが、属性の部分効用がなにかの要因によって時間的に変化しちゃうようなホンモノの個人内異質性のモデル化は、この2つとはまた別の問題だ、という理解であっているだろうか。Roy, Chintagunta, Haldar(1996, Market. Sci.)をみよとのこと。

 (d)について。選択集合の異質性の問題をランダム効用モデルに統合すべきかどうかは意見が分かれるところで、最近のトレンドは、選択集合を観察不能な潜在変数とみて確率的に定式化するアプローチである由。

 先行研究例の列挙を主眼においた、ざざざーっとした書き方だったので、ついついざざざーっと読んじゃいましたが、頭の整理になりました。

論文:データ解析(-2014) - 読了:Baltas & Doyle (2001) ランダム効果モデルレビュー

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