elsur.jpn.org >

« 読了:駒木(2016) 経済センサスと商業統計 | メイン | 読了:Axley (1984) 経営・組織研究者よ、導管メタファに注目せよ »

2017年9月17日 (日)

Kappes, H.B., Morewege, C.K. (2016) Mental simulation as substitute for experience. Social and Personality Psychology Compass, 2016, 1-16.
 社会心理学分野でのメンタル・シミュレーション研究レビュー。仕事の役に立つかと思って読んだ。
 聞いたことない誌名だし、webをみてもIFが書いてないし、不安だったんだけど、2007年発刊のオンライン・ジャーナルなのだそうだ。ScimagoというScopusがやってるランキングでは社会心理で27位だったので、じゃあ目を通してみるか、と。
 
 Taylor et al. (1998 Am.Psy.)いわく、メンタル・シミュレーションとは一連の事象のimitative なエピソード表象である。それはふつう特定の事象(現実かどうかは別にして)の詳細な心的表象を含む。
 メンタル・シミュレーションに関わる神経システムと概念システムは、シミュレート対象の行動に関与する知覚運動システムと重なっている。[イメージング研究とかをいくつか引用...] メンタル・シミュレーションは経験の代替物として働くことがあると思われる。

 代替効果について。
 これは人間の資源が有限だという認識に由来する概念である。経済学とかマーケティングとかだと、複数の選択肢に対する時間なり金銭なりの支出は負の関連を持つことがある。これが代替効果。目標志向的行為はモチベーショナルな特性を持っているから代替効果が生じる。[...しばらく社会心理系の研究の引用が続き...]

 行為じゃなくてメンタル・シミュレーションでも代替効果が起きる。以下では4つのカテゴリ(網羅的じゃないけど)にわけてレビュー。

A) 物理的エビデンスの代替をシミュレーションが提供する
事象のシミュレーションが価値を持つ:

シミュレーションで期待が変わる(cf.期待-価値モデル):

 シミュレーションが期待に影響するのは利用可能性を高めるからだと考えられてきた。でもそれだけではない。
 一般に人は、自分が行為者であるときよりも観察者であるとき、行為の原因を傾性に帰属しやすい。これがシミュレーションにもあてはまる。Libby & Eibach(2011 Adv.ESP), Libby, Shaeffer, Eiback, & Slemmer (2007 Psych.Sci.), Vasques & Bueler(2007 PSPB). [←なるほどね...シミュレートされた行為の原因を自分の傾性に帰属するって訳か。面白い説明だ]

B) 物理的練習(practice)の代替をシミュレーションが提供する
 [本項、いま関心ないのでかなり端折る]
 この現象はimaginary practice, covert rehearsal, symbolic rehearsal, introspective rehearsalなどと呼ばれている。
  認知課題や運動課題でスキルが必要な奴にメンタル・シミュレーションが良く効く。このタイプの研究はいっぱいあってメタ分析まである。とはいえメンタル・シミュレーションだけだとあんまり効かず、実際の練習との併用が必要。
 なぜ効くのか。2説ある。(1)複雑な行為の表象的枠組みが作られたり再構築されたりして、行為の単位のチャンキングと関連づけが起き、計画が促進されるから。(2)実際と同じ視覚・筋運動プログラムが活性化されるから。最近の研究は(1)を支持。

C) 実際の消費の代替をシミュレーションが提供する
 [ここは関心があるので丁寧にメモると...]
 食刺激に関連する感覚手がかりを想像すると、実際に接触したときと類似したsensitizationが生じる(初回接触における刺激への反応性が増す):

 実際の刺激への繰り返し接触が引き起こすhabituation(モチベーショナルな反応が減ること)やsatiation(ヘドニックな反応が減ること)が、刺激接触の想像でも起きる:

食経験のメンタル・シミュレーションは自発的に起きる:

自発的シミュレーションが実際の行為を促進する:

 背後のプロセスについて直接示した研究はないけれど、記憶における心的表象が、初期状態→活性化→減衰→初期状態と移行しているからだろう。cf. Epstein et al.(2009 Psych.Rev.)。

D) 実際の達成の代替をシミュレーションが提供する
 未来を想像することで満足の先延ばしを可能にしその場の行為を抑制するのは、実際にその場で満足を手に入れようとするのがまずい場合には有益だけど、達成の代替物になっちゃって目標追求を阻害することもある。

 背後のプロセスは2つある。(1)想像上の成功が現実とごっちゃになっちゃって努力しなくなるから。(2)想像上の成功がプランニングを阻害するから。

統合
 このように、メンタル・シミュレーションは経験の代替となり、さまざまな代替効果を引き起こす。

云々、云々...

 ...オンライン・ジャーナルと思って正直なめてましたが、きちんとしたレビューであった。疲れた。

 読んでいる途中で気がついたんだけど... メンタル・シミュレーションって、なんとなく技能学習の文脈のなかで捉えていたのだが(この辺は伝統的な心理学の体系に知らないうちに縛られているのかも知れない)、質問紙調査法の研究でいうところの質問-行動効果とか、いま流行の身体化認知とか、いろんな問題の基盤として考えることができる。
 調査手法研究の文脈でいうと、メンタル・シミュレーションは回答時課題であって調査者にとってポジティブなもの、質問-行動効果は回答行動がもたらす予期せざる影響であって調査者にとってネガティブなもの、身体化認知は意外な回答方略でありポジティブともネガティブといえない... という漠然とした思い込みがあったけれど、著者らが最後に述べているように、認知的プロセスはかなり共通しているのだろう。
 なんだかなあ。面白そうでいやになるなあ。

 もう一点、面白かったのは、こういうレビューはべつに網羅的でなくていいんだな、ということ。
 率直にいって、著者らが選んだ4つのテーマがメンタル・シミュレーションの研究史をどこまで包括しているのかわからないし、なぜこの4つを選んだのかという点にも、ちょっと恣意的な感じを受ける。でも、いいんだなあ、これで。4つのテーマを統合して、あるビジョンを示したわけだから。

論文:心理 - 読了:Kappes & Morewedge (2016) メンタル・シミュレーションが引き起こす代替効果レビュー