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2018年6月17日 (日)

Ozimec, A.M., Natter, M., Reutterer, T. (2010) Geographical Information Systems-Based Marketing Decisions: Effects of Alternative Visualizations on Decision Quality. Journal of Marketing, 74, 94-110.

 差し迫った原稿の準備のために集めた論文のひとつ。アブストラクトを眺めた段階で「これはちがう... いま探してる奴じゃねえ...」と気が付いたのだが、しかしあまりに面白そうで、ついつい最後まで読んでしまった。なにやってんだか。こういうことだからダメなんだろうな。

 マーケティング分野でのトップ誌 Journal of Marketing に載ってはいるが、これ、Applied Cog.Sci.とかに載ってても全然おかしくない。要するに、地図上での情報視覚化についての実験研究なのだ。

 先行研究。
 意思決定支援において視覚情報は大事だ。その効果は視覚表現によってもちがう。
 先行研究には大きく3つある。

 本研究は3番目に属する。マーケティングでGISを使うという文脈に注目する。Clevelandらの研究をそのままあてはめることはできない。なぜなら、

 概念枠組み。
 GIS上で主題図を見て、いろんな基準に基づき、それぞれの位置における収益レベルを評価する、という場面について考える。
 マーケにおいて用いられるGIS上の主題図のうち、以下の4種類に注目する。

ここでsqueezing/overlap/dislocationのちがいは、過負荷のハンドリングのちがいと捉えられる。
 これらが意思決定のパフォーマンスの測度に与える効果を調べる。測度として、決定の正確性(決定者が選んだ位置の収益が最適位置の何パーセントだったか)、決定の効率性(所要時間)、決定者の確信度、課題の容易性の知覚、を用いる。
 さらに、効果のモデレータとして、課題の複雑性(決定基準の数、選択肢の類似性)、ユーザ属性(空間能力、地図の経験)、時間圧力に注目する。
 
 仮説。

  1. 色の濃さより、円や柱を使った方が、決定課題の成績が良くなる。なぜなら、Bertin(1983)のサインシステム論によれば...[とひとしきり理屈が書いてあるが、要するに色の濃さを比べる際には「こっちのほうが何倍大きい」という読み方ができないから、という話]
  2. 色の濃さと歪みを併用すると[カルトグラムのこと]、単一のシンボル化を複数種類使うよりも成績が良くなる。なぜなら、Wolfe(1994)のGuided search理論によれば、単一のシンボル化の場合はひとつづつ系列的に処理するようになるから。
  3. 柱を使うよりも円を使った方が成績が良くなる。Clevelandらとは逆の仮説だけど、地図研究では先行研究がある。柱は狭くて視覚的に不安定だから[←この説明もよくわからん]
  4. 円の重複よりも柱の重複のほうが悪影響をもたらす。なぜなら...[面倒くさいので省略するけど、理屈が縷々述べてある。ゲシュタルト心理学まで引き合いに出して]
  5. 柱をずらすと重複しているときより成績が悪くなる。場所との関係をつかみにくくなるから。
  6. 決定課題において選択肢間の類似性が高くなると、色の濃さだけを使うのと比べて、色の濃さと歪みを併用するほうが成績が良くなる。なぜなら、色の濃さだけ使っている場合、面積は(実際には意味がないのに)その地域の重要性として受け取られてしまい、決定課題が複雑なときには特にそのバイアスが効いてくるから。[面白い理屈だ]

 お待たせしました、実験です。
 オンライン実験。被験者数1349、うち3割強が仕事でGISを使っている[←どうやってリクルートしたんだ...]。
 課題は、GIS主題図をみせて、「家具小売の新規出店候補地5つのなかから、もっとも魅力的な場所をひとつ選べ」。GIS主題図には決定の基準となる変数が全部載っているんだけど、コロプレス図と比例シンボルは地図一枚あたり1変数しか表せないし、カルトグラムは2変数、ダイアグラム図は3変数までにしたので、たとえば決定基準の数が6ならば、コロプレス図と比例シンボルは6枚、カルトグラムは3枚、ダイアグラム図は2枚を並べてみせることになる。
 要因は次の4つ:

 要するに、被験者間が7x2=14水準、被験者内が2x2=4水準である。

 結果。どの仮説もだいたい支持。

 考察。
 シンボルのタイプは、円、色の濃さ+歪み、色の濃さ、柱の順に優れている。柱は重複に弱いし、重複を避けるためにずらすのもやはり良くない。マーケターのみなさん、円をもっと使うといいよ。
 云々、云々。
 
 ... いやー、楽しいなあ。
 正直なところ、仮説を導入する際の理屈の長さに閉口したが(仮説自体はそりゃそうだろうよというようなものなので特に)、論文たるものかくあるべきだよな、という気もする。全く同じ実験データを得ていても、仮説を先に述べずに結果を後づけで解釈してたら、きっと大変にしょぼい感じの論文になっていただろう。もちろん、実際には結果を先にみてから仮説を考えてるんだろうけど、これがお作法の美しさというものだ。

 というわけで、マーケティング研究の皮を被った人間工学的実験研究を堪能した次第だが、課題状況を実務場面に近づけましたと主張するタイプの実験研究が往々にしてそうであるように、この課題状況が本当に実務場面に近いのか、実は誰にもわからんのではないかという気がする。
 早い話、BIツールの担当者が「なるほど、出店候補地を比較する上で検討したい変数が6つあるんですね、わかりました、じゃ地図を6枚並べて表示しますんで眺めて下さい」なんてことをいってると、出店計画の担当者は「てめぇふざけんな」と怒り出すのではないか。ふつうは、6変数をなんらか組み合わせて収益性を予測し一枚の地図上に表現するか、地図でみせるのを諦めるんじゃないかと思うのだが、そんなことないですか?
 このへんが「実務場面に近い」という言い方の怖いところで、「実務」というのはあいまいで幅が広く、それがなんなのか、実は誰も知らないのである。

論文:心理 - 読了:Ozimec, Natter, Reutterer (2010) マーケティング実務家のみなさんのために、地図上でなにかの変数を表現する際の良い描き方について調べました