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2007年5月 4日 (金)
ロリータ (新潮文庫)
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ウラジーミル ナボコフ / 新潮社 / 2006-10-30
「テヘランで『ロリータ』を読む」という大変面白そうな本があって,もうとっくに買い込んであるのに,本家のナボコフ「ロリータ」を読んでないんじゃしょうがないよなあとペンディングにしていて,本棚の背表紙をみるたび,なんだか急かされているような気分だった。20世紀世界文学の記念碑的傑作,云々という中途半端な知識に邪魔されて,なんとなく億劫になっていたのである。
で,このたび本棚を整理したところ,なんと「ロリータ」の文庫版を二冊も持っていることがわかり(大久保康男訳と若島正の新訳),悪態をつきながら,さすがに仕方なく手に取った。
若島訳のほうを尻ポケットに突っ込んで駅前に出かけ,両手に買い物袋を下げて区民会館のベンチに腰を下ろし,何の気なしに読み始めて,たったの数十頁で(語り手が自分の嗜好についてあれこれ能書きを垂れるあたりで),ああしまった,ハイリコンデシマッタ,と思った。主人公の妄想の可笑しさ,馬鹿馬鹿しさといったら,もう例えようがない。娘の一挙手一投足に身も心もかき乱されるあたりなんて,志村けんの最良のコントだってかなわない。身をよじって笑いの発作に堪えるうち,突如として主人公の願望が成就してしまい,一転して索漠とした荒野が延々と広がる。このドライブ感! 世の中にこんな面白い小説があったとは!
本当に良い本を読んでいるときにだけ感じるあの奇妙な感覚,頁を閉じて飯を食っていても風呂に入っていても,頭のどこかがその本の世界に取り残されているような感覚から,いまだ抜け出ることができない。一読しただけなのに,何年間もの奇妙な経験をくぐり抜けたような心境である。恐るべき爆笑小説にして,涙も凍る絶望小説であった。
フィクション - 読了:05/04まで (F)