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2007年8月 4日 (土)
現代の消費者は賢いから云々,という言い方をよく聞くのだけれど,あれ,ほんとだろうか。
もちろん,現代の消費者というのが誰のことかも,賢いというのがどういうことかも明確でない以上,生産的な議論などできるわけがない。だからこれはただの印象論にすぎないのだが,我が身を振り返って,ああ消費者は案外賢くないねえ,と思うことが,最近何度かあった。
最近Youtubeのアクセスランキングに「ベンディングマシン・レッド」という一連の動画が登場している。清涼飲料水の自動販売機が擬人化されていて,二昔前くらいの戦隊アクション番組風の演出の下,脱力的なエピソードが展開する。いま検索したら,現時点で11本の動画がつくられているようだ。
さらにこの自販機ロボットは,mixiで日記を書いたり,他人のblogに丁寧にコメントをつけてまわったり,webページをつくったり(これが風俗営業店のwebページのパロディになっていて,ちょっと可笑しい),インタビューに答えたり,なにかとまめに活動しているようである。ブログを検索すると,アキバでベンディングマシン・レッドの撮影をやってるのをみた,という記事がたくさんみつかる。わざわざ人出の多い日曜日に,秋葉原駅前で。
動画はたしかに面白いと思う。なんだかシュールな味わいがあって,実に良い。俺も知人に紹介した。ライバルは黒い自販機「ゼロ」だ,というところもなかなか洒落ている。ともあれ,世の中に楽しいものがあることは素晴らしいことだと思う。
そのいっぽうで,なんだか喉に小骨が引っかかっているような気がする。自販機の着ぐるみの内側にいるのは誰か。この動画はいったい誰がなんのためにつくっているのか。どうみたって,これはバイラル・マーケティングにちがいない。相当に金をかけ頭をつかったキャンペーンである。しかし動画にクレジットはないし,自販機くんのwebページをみても,社名は全く書かれていない。
広告会社の見当をつけることはできる。自販機くんを一目見るだけで,クライアント企業の名前はあきらかだ。しかし,推測が容易かどうかは本質的な問題ではないだろう。これは要するにステルス・マーケティングだ。広告であることを明示していない広告活動なのである。
うろ覚えだけれど,新聞広告の掲載基準のひとつに,広告主が明示されていること,という項目があったと思う。バイラル・キャンペーンの場合はどうだろうか。きっと法的な規制はないのだろう。アメリカでは口コミマーケティング業界の倫理綱領ができたそうだが,そのような動きも,日本にはまだないらしい。というわけで,このキャンペーンがなにかの基準に反しているとはいえない。社会が許す範囲内でのイノベーティブな取り組みは,賞賛されてしかるべきだと思う。
しかし本来,メディアのルールは受け手を守るためにつくられているものだ。だからここで本当に問うべきなのは,それが許されているかどうかではない。我々が許すのかどうか,なのである。いまここにとても面白い動画があります。察するにそれはなにかの宣伝なのですが,でもなんの宣伝なのか,誰がなんのためにつくった動画なのか,どこにも書いてありません。ただ面白がっていてもよいものでしょうか? 疑ったり,気味悪がったり,怒ったりしたほうがよいのではないでしょうか?
現代の消費者は賢い,とみんながいう。消費者は企業の意図をかんたんに見抜いてしまう,踊らされているようで実は冷めている,云々。確かにそうなのだろう。でも,意図を偽った広告を防ぐ仕組み,知らぬ間に誰かに踊らされるのを防ぐ仕組みを求めるほどには,賢くないようである。
世の中にはクールな人がいっぱいいて,時代を鋭く捉え,斬新なコミュニケーション戦略を立案し実践している。素晴らしい。でもそんな人たちだって,一人の消費者にはちがいない。
というわけで,自販機ロボットの活躍を楽しみながら,俺は賢い消費者なのかしらん,消費者はほんとに賢いのかしらん,あのクールな人たちは本当に頭が良いのかしらん,と考え込んでしまう。
雑記 - ベンディングマシン・レッド