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2007年12月 5日 (水)

Bookcover 啓蒙主義 (ヨーロッパ史入門) [a]
ロイ ポーター / 岩波書店 / 2004-12-21
薄い本なのに,時間がかかってしまった。歴史音痴の俺にも面白い本であった。印象に残った箇所をいくつか抜き書き(長くなりそうだ...):
「啓蒙の改革がいつも計画通りいったとは限らない。同じように,本当の意味での改良の功労者がいつも啓蒙主義の人々であったとは限らない。奴隷制度の場合がそうだ。植民地のプランテーションにおいて展開する奴隷制度を,すべてのフィロゾーフ[啓蒙主義者のこと]が嘆き悲しんだ。[...]ところが,大英帝国においてまず奴隷貿易,ついて奴隷制度そのものの廃止まで達成する運動を指導したのは,英国国教会の福音派とクウェーカー教徒だった。トマス・ジェファソンは啓蒙主義の申し子であり,人権の提唱者であり,アメリカ第三代の大統領にもなるが,生涯,奴隷所有者だった。いつの場合も,原則と実践,心構えと行動との間の関係は入り組んでいる」
「理念が社会よりも先を走るということはけっしてない。[...]社会のダイナミズムや,人口の増大や,生産活動などを分析する大胆で新しい啓蒙主義の人間科学は,19世紀になれば実証主義の『陰鬱な科学』と化し,統治する側が,資本主義的な生産関係はなぜ不易であり不可避であるのか,貧困は貧者自身の責任であるのはなぜかを説こうとするさいに,イデオロギー上の理想的な材料を提供することになる。コンディヤックやエルヴェシウスの挑戦的な心理学は,人間とは可能性を孕む存在だとするものだった。それが,学校であれば児童,職場であれば成人の間で従順さや規律を確保することに易々と利用されることになる。現在から自由である『人間機械』というヴィジョンも,かつては刺激的なものだった。それが,機械の時代における工場の現場での陰鬱な現実となり,のちには行動主義心理学の条件づけにもなる」
「たしかに啓蒙主義は人間を過去から解放することには貢献した。とはいえ,あらたに束縛の条件が作られるのを予防するまでにはいたらなかったのである。現代の都市化された工業社会が直面する諸問題。啓蒙主義はまさしくその産婆だったのであり,[ ...それを解決しようと努力している] 私たちは,フィロゾーフが創造した社会分析の技術,ヒューマニズム的な価値観,科学の専門知識にかなりの程度まで依存している。このように,今日もなお私たちは啓蒙主義の申し子なのである」

ノンフィクション(-2010) - 読了:12/05まで (F)

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