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2009年11月25日 (水)

Bookcover 戦略の不条理 なぜ合理的な行動は失敗するのか (光文社新書) [a]
菊澤研宗 / 光文社 / 2009-10-16
軍事戦略論からみた経営戦略論,という本。えーと,戦略論にはクラゼビッツから新古典派経済学を経てマイケル・ポーターへといたる物理的アプローチと,リデル・ハート(軍事史家)からトヴァツキー&カーネマンを経て行動経済学へといたる心理的アプローチと,ロンメル将軍から取引コスト理論へと至る知性的アプローチがあって,この3つはカール・ポパーのいう世界1, 世界2, 世界3と対応している。これら3つのアプローチを立体的に展開することで,合理的なはずの行動がなぜか非適応的になってしまう「戦略の不条理」を乗り越えることができるのです,云々。という大変に大きな話でありました。

ノンフィクション(-2010) - 読了:11/24まで (NF)

2009年11月19日 (木)

Neijens,P., Smit, E., Moorman, M.(2009) Taking up an event: Brand image transfer during the FIFA World Cup. International J. of Market Research, 51(5), 579-591.
たまたまみつけて,息抜きに読んでみた論文。多少なりとも会社での仕事の役に立つかと思ったけど,そうでもなかった。

[イントロダクション]
スポーツ・イベントに協賛することで,ブランドイメージをどの程度変化させることができるか? そのイメージ形成過程はどのようなものか?

[背景]
ブランドと他のなにか(例, スポーツ・イベント)との間に連想関係をつくると,イメージの転移が起きることが予想できる。しかし,スポーツ・イベント協賛に関する実証研究は少ない。イベント前・中・後の広告の効果についての研究は見当たらないし,スポーツ協賛についての研究は,協賛によって強化できるのは既存のブランド・イメージだけだとか(Javalgi,et al.1994J.Adv),協賛の効果はない(Pope&Voges,1999J.Mktg.Comm)といった結果を示している。 本研究では,イメージの転移に影響する3つの要因について検討する。

  1. イベントとブランドのあいだの一致性の知覚(両者が同じイメージを持っている程度)。(Gwinner&Eaton,1999J.Adv; Gwinner,1997Int.Mktg.Rev; Smith,2004J.Mktg.Mng)
  2. 協賛の程度。(Gwinner,1997; van Reijmersdal et al.,2007Psych.Mktg.)
  3. イベントへの関与の強さ。(Levin et al.,2001J.CurrentIssues&Res.Adv.; Wann&Branscombe,1990J.Sports&SocialIssues; Fisher&Wakefield,1998; Madrigal,2000; Jones et al.,2004)

先行研究の多くは実験研究で,外的妥当性が限られていた。また,イベント直後のイメージのみを調べ,イメージへの持続的効果を調べなかった。本研究では実生活における長期的効果について検討する。

[データ収集]
オランダで調査。SSIのパネルからランダム抽出してオンライン調査。2006ワールドカップ直後に調査(N=1299),3ヶ月後に同一対象者で再調査(N=638)。

[指標]

  • イメージ: 協賛広告主であった3ブランド(金融,通信,小売)と,同カテゴリで広告主でなかった3ブランド,計6ブランドについて聴取。イメージ項目は「スポーティ」「フットボール」「オレンジ」の3つ(オレンジはオランダのチームカラー)。項目を行,ブランドを列としたマトリクスを提示し,ブランドにあてはまる箇所をチェックさせた。(※オランダではこれをASSPAT法というらしい)
  • 接触時間: ワールドカップの情報を得るのにかけた時間を,TV, ネット, 新聞, etc. について聴取。ここから2指標を作成。(1)試合接触時間(TVで試合中継を観た時間)。(2)メディア接触時間(試合中継以外の総時間)
  • イベント関与: スポーツ関与尺度(Shank&Beasley,1998)から以下の8項目の7件法SD項目を選び,ワールドカップについて聴取。{関心ある-ない,価値ある-ない,魅力的である-ない,有用である-ない,必要である-ない,自分と関連する-ない,重要である-ない,関与がある-ない}。ここから1指標を作成。
  • 広告評価:広告親近性尺度(Smit&Neijens,2000J.Adv.Res)から項目を選び(すべて5件法),以下の3指標を作成:面白さ(4項目),情報性(2項目),魅力(2項目)。
  • 背景変数:性別,年齢,教育,フットボールファンである程度(5件法)
  • CFの特性:すべてのCFを録画し,以下をコード化:ブランド名,製品カテゴリ,長さ,スポーツイベントについて言及するやりかた(画像,文章,音楽,バーゲン)。

[結果]

  • イメージ転移 ... 協賛ブランドは非協賛ブランドに比べ,イメージ3項目への反応率が著しく高かった。
  • 接触時間の効果 ... 金融機関では,接触時間とイメージ3項目への反応率との相関が,協賛ブランドで正,非協賛ブランドで負になった (つまり,競合が協賛したせいでイメージが下がっている)。この傾向は小売・通信ではみられなかった。
  • イベント関与の効果 ... 金融機関では,イベント関与とイメージ3項目への反応率との相関が,協賛ブランドで正,非協賛ブランドで負になった(この効果は接触時間の効果を統計的に除外しても残った)。この傾向は小売・通信では明確でなかった。
  • 効果の持続 ... イメージ3項目への反応率を直後と3ヶ月後で比較すると,協賛ブランドではわずかに低下,非協賛ブランドではわずかに向上した。

[結論]

  • ワールドカップ協賛広告によってブランドイメージが変化した
  • その効果は接触時間が長いときに大きく,イベント関与が高いときに大きい
  • 効果は3ヵ月後も持続している

[議論]

  • イベント関与が高い人は,協賛広告への接触時間が長いだけでなく,協賛広告により注意を払いやすく,協賛広告を情報的だとみなしやすいのだろう。
  • 金融機関で効果が大きかったのは,この金融機関がオランダチームのスポンサーでもあったことによるシナジー効果ではないか
  • 小売と通信で接触時間・イベント関与の効果がみられなかったのは,TV CF以外にコミュニケーション・チャネルがあるからだろう (店頭とか)。

へー,こういう研究があるんですね,ふーん。という感じだが,ま,あるブランドがスポーツのスポンサーになると,その競合ブランドとそのスポーツとの連想関係が下がる,というのはちょっと面白いっすね。

それにしても,マーケティング関係の論文の書き方にはいまだに慣れない。この論文でいうと,質問紙でとった指標のところを細かく説明しているのに,結果の報告ではそのほとんどが使用されていないのである。そんなら書かなくてもよいのではなかろうか?

論文:マーケティング - 読了:11/18まで (A)

宮代隆平,松井知己 (2006) ここまで解ける整数計画. システム/制御/情報 : システム制御情報学会誌, 50(9).
 昨年,勤務先の仕事の都合で組み合わせ最適化について勉強する羽目になった。勉強するといっても,素人向け入門書を読みかじる程度なのだが,この入門書というのがどれもギリシャ語のような按配なのである。途中で何度か半泣きになった。
 そのプロセスでもっとも役に立ったのが,意外にも,ネットで拾ったこの文献であった。いまでもことあるごとに読み返している。感謝の意を込めてメモしておく。
 変数間の関係に線形な制約が課せられていて,それらの制約を満たす値の組を見つけるような課題のことを線形計画問題という。最近は技術が進歩して,ソフトウェア(ソルバー)が大変優秀だし,フリーのソルバーさえ存在する。で,変数(の一部)が整数であることが求められている場合を,特に整数計画問題という。普通の線形計画問題より,整数計画問題のほうがはるかに難しい。使えるソルバーはすごく高価だし,フリーのソルバーはオモチャ並みの性能しか持たない。
 資料を読みかじっていてびっくりしたのは,この分野には素人考えでは想像もつかないような不思議なノウハウがある,というところ。たとえば,制約式が少ないほど速く解けそうなものだが,そうともいえない。冗長な制約を重ねて定義すると遅くなりそうなものだが,これがそうでもない。また,この論文によれば,単に許容解がひとつわかればいいという場合でも,嘘でもいいからなにかの目的関数の最小化を目指したほうが速く解けるし,目的関数の係数がばらばらの値であるほうが速く解けたりするんだそうだ。わけわからんなあ。
 整数計画問題がうまく解けない場合の対処策には,大きく分けて(1)あきらめる,(2)あきらめない,のふたつの方法がある由。ははは。で,後者を選ぶ場合には,緩和課題(変数を整数ではなく実数にしてしまった課題ということだと思う)を解いて,(1)その最適解で,値が0ないし1になっている変数の個数をみる,(2)最適解発見までの時間をみる,(3)最適解が元の整数計画課題の何割くらいになっているかどうかをみる...のがお勧めだそうだ。(3)の意味がよくわかんないんだけど...すでに整数計画問題で最適解が得られている場合の話であろう。

2009/12/20追記
著者の松井先生からご教示を頂くことができました。上記(3)は,すでに小さめの整数計画問題で解を得ているとき,その目的関数の値に対して,その問題を実数に緩和した問題の目的関数の値がどのくらい小さいかを調べる,ということだそうです。なるほど。。。
松井先生,親切なご教示,誠にありがとうございました。

久保幹雄 (2006) 数理計画ソルバーを用いたメタ解法. システム/制御/情報 : システム制御情報学会誌, 50(9).
最適化の問題へのアプローチには,線形計画法で最適解を求めるやり方と,メタ・ヒューリスティクス(汎用的なヒューリスティクスのこと。局所探索とか焼きなまし法とか)を使って近似的な解を探索するやり方がある。本屋であれこれ探していて,線形計画の本には線形計画,メタ解法の本にはメタ解法のことしか書いてないことに気が付いた。なんでもいいから解き方を教えてくださいよ,というアサハカな立場からみると,この状況はかなり不思議であった。
 先週たまたま見つけたのが,上記と同じ特集号に載ったこの論文。内容は難しすぎて手に負えない部分が多いのだが,冒頭2ページの概観を読んで,霧が晴れるような思いであった。著者らによれば,整数計画ソルバーで解く方法のほうが実務的汎用性がある。メタ解法は問題の構造を正しく捉えないと設計できないし,ちょっと問題が変化しただけで位置からやり直しになってしまいかねない。いうなれば,ソルバーは万能ナイフ,メタ解法は日本刀や中華包丁のようなもの。で,このふたつの技術はほとんど独立のグループによって研究されており,あまり接点がないのだそうだ。
 なるほど。。。ことばから受ける印象では,メタ解法のほうが汎用的,という感じだが,現実にはそうでもないんですね。先週から遺伝的アルゴリズムの入門書を何冊か読みかじっていたのだけれど,どうやらポイントはアルゴリズムそのものより,課題の構造をうまく捉えた遺伝子型の設計にあるようで,これは案外に名人芸の世界なんじゃないか,と混乱していたところであった。この論文のおかげで,疑問が氷解した思いである。
(で,この著者の名前に惹かれて久保&ペドロソ(2009)を買い込んだら,その第三章がこの論文の中身と同じだった。やられたぜ)

思うに,こういう素人向け啓蒙論文を書いたところで,あまり業績評価にはつながらないのではないだろうか。そういう点でも,著者の先生方に感謝。それともORの世界では,こういう啓蒙も研究者の大事な仕事だと認められているのだろうか。そうだといいんですが。

論文:データ解析(-2014) - 読了:11/18まで (AS)

2009年11月17日 (火)

Bookcover 近代日本文学案内 (岩波文庫) [a]
十川 信介 / 岩波書店 / 2008-04-16
この本を読んだせいで,妙に日本の近代小説を読みたくなり,漱石や室生犀星など,何冊か買い込んでしまった。ふと見ると,どれも岩波文庫。うまくのせられた。

Bookcover タイ 中進国の模索 (岩波新書) [a]
末廣 昭 / 岩波書店 / 2009-08-20

Bookcover 職業”振り込め詐欺” (ディスカヴァー携書) [a]
NHKスペシャル職業”詐欺”取材班 / ディスカヴァー・トゥエンティワン / 2009-10-03

Bookcover 職場は感情で変わる (講談社現代新書) [a]
高橋 克徳 / 講談社 / 2009-09-17
読みながら自分の勤務先を思い返し,あれこれと思いを馳せた。著者はさぞや腕利きのコンサルタントだろう。
 というわけで,良い本ではあると思うのだけれど。。。この本の示唆に基づき,あれこれ工夫して素晴らしい職場を作ろうとしたところで,売上低迷,利益低迷,リストラで同僚が次々と去っていく,ああ明日は我が身か,というような状況下では,「良い職場づくり」にも限界があろう。組織のソフトな側面も大事ではあるけれど,やっぱしハードな経営環境にはかなわないよなあ。

ノンフィクション(-2010) - 読了:11/17まで (NF)

Bookcover さべちん (WANI MAGAZINE COMICS SPECIAL) [a]
SABE / ワニマガジン社 / 2009-09-30
著者のSABEさんは,今年1月に亡くなっていたのだそうだ。本屋で帯に「SABE追悼本」とあるのをみつけ,これは際どい冗談だろうか,そうであってほしい,と思ったのだが,心のどこかでかすかに,こうなることを予期していたような気もした。
 ただの一読者がこんなことを書くのは礼儀に反することかもしれないが,このギャグマンガ家について俺は,才能を十分に生かすことができなかった人,という強い印象を持っている。この本にも収録された初期作品「BEAUTIFUL MONEY」を読み返し,改めてそう感じた。この人は,特殊なセンスを抱えこみ,身を削るようなギャグマンガを描きながら,暗闇で模索を続けた人だったのではないか,という気がする。
 享年41歳とのこと。お疲れさまでした。ゆっくりお休みください。

Bookcover 極道めし 5 (アクションコミックス) [a]
土山 しげる / 双葉社 / 2009-10-28

Bookcover レイモンド2 (ドラゴンコミックス 56-6) [a]
田丸 浩史 / 富士見書房 / 2008-05-09
Bookcover レイモンド (3) (ドラゴンコミックス 56-7) [a]
田丸 浩史 / 富士見書房 / 2009-10-23

Bookcover ラブやん(12) (アフタヌーンKC) [a]
田丸 浩史 / 講談社 / 2009-10-23

Bookcover 竹光侍 7 (BIG SPIRITS COMICS SPECIAL) [a]
松本 大洋 / 小学館 / 2009-10-30

Bookcover ギャラクシー銀座 1 (ビッグコミックススペシャル) [a]
長尾 謙一郎 / 小学館 / 2008-03
Bookcover ギャラクシー銀座 2 (ビッグコミックススペシャル) [a]
長尾 謙一郎 / 小学館 / 2008-07

Bookcover カラスヤサトシのでかけモン (まんがタイムコミックス) [a]
カラスヤ サトシ / 芳文社 / 2009-11-07

Bookcover カブのイサキ(2) (アフタヌーンKC) [a]
芦奈野 ひとし / 講談社 / 2009-10-23

Bookcover それでも町は廻っている 6 (ヤングキングコミックス) [a]
石黒 正数 / 少年画報社 / 2009-10-30

Bookcover 嫁姑の拳 2 (秋田レディースコミックスデラックス) [a]
函岬 誉 / 秋田書店 / 2009-10-28

コミックス(-2010) - 読了:11/16まで (C)

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