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2009年12月21日 (月)
植草甚一・木島始編「全集・現代世界文学の発見 12. おかしな世界」,學藝書林,1970.
高校生の頃だから,もうずいぶん昔のことだが,NHK-AMの第二放送に戦後のラジオドラマを再放送する枠があって,熱心に聞いていたものであった。内村直也「マラソン」,佐々木昭一郎「おはようインディア」といった放送史上に残る傑作を,この番組のおかげで聞くことができた。
当時聞いたなかで特に印象に残っている作品に,チェコスロバキアのラジオドラマの翻訳があった。ずっと昔からNHKは,海外のラジオ作品の秀作を翻訳し放送する,という企画を続けていたようだが(いまでもやっているのかしらん?),この作品もそのひとつで,電話相談員の一夜の出来事を電話での会話だけで描くという,ラジオドラマの教科書のような対話劇だった。主演は若き日の山岡久乃だったから,昭和40年代の作品だろう。絞られた台詞のなかに,都市生活の哀歓がはっきりと浮かび上がる,大変な傑作であった。
ふと思いついて,そのタイトル「電話救急本部」をGoogle様に入力してみたところ,一件だけ気になるページがあった。どこの誰とも知れない本好きの方による紹介によれば,とうの昔に絶版になった海外文学のアンソロジーに,「電話救急本部」という短編が収録されている,と書いてある。著者名にも聞き覚えがある。
神田で探そうか,非常勤先の図書館で取り寄せてもらおうか,などと考えていたら,なんと近所の図書館の書庫に入っているのを発見した。果たして収録作品はあのラジオドラマのオリジナル脚本であった。小さなことだが,ちょっとした感動である。これも検索技術の発展のおかげ,そして充実した区立図書館のおかげである。ありがたや,ありがたや。
ここまでが2006年の話。なかなか分厚いアンソロジーなので,一度借りただけでは読み終わらなかった。このたびふと思い立って再度借り出し,ようやく読みおえた。正確には,ゲイ・タリーズのエッセイ「ニューヨーク」を読み終えていないけど,ま,いいや。
すでに言い尽くされたことだが,webに載せた情報は誰がどのように利用するかわからないものだ。このページもどこぞの誰かのお役に立つかも知れないから書いておこう。チェコの作家ミロスラフ・ステリック(Miloslav Stehlik)のラジオドラマ「電話救急本部」(1966年イタリア賞)に関心をお持ちのかたはこの本をお探し下さい。他にもチャペック「最後の審判」,カルヴィーノ「不在の騎士」,ランドルフィ「ゴーゴリの妻」などが収録されており,なかなかお得な一冊です。
フィクション - 読了:12/20まで (F)