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2010年4月 5日 (月)

Bookcover OL進化論(30) (ワイドKC モーニング) [a]
秋月 りす / 講談社 / 2010-03-23
10年以上前だと思うが,竹書房の四コマ誌に新人賞の選評が載っていて,竹書房で連載を持っている10人近い現役マンガ家たちが,入選作に対して批評を寄せていた。真摯なコメントもあれば,「いいですねえ」などというたった一行のコメントもあるなかで,当時「かしましハウス」で看板作家の一人となっていた秋月りすさんの選評だけは異質だった。うろおぼえだけど,たしか動物園を舞台にした入選作品に対して,ギャグの質や絵柄を問うのではなく,なぜ動物園を舞台にしたのか,それはどんな読者に向けられたマンガなのか,そこにはどのような新しさがあり,どのような発展性があるのか,今後の量産は利くのか...と問いかけていたと思う。マンガ家というより編集者的,マーケティング的な発想に立ったコメントである。ああ,こういう人が,ハートウォーミングなファミリー・コメディの傑作「かしましハウス」を描いているだ,と意外の念に撃たれた。
 この人の最長期連載「OL進化論」を,俺はずっと読み続けているのだけれど,このマンガはある時期から同じ話を繰り返しているように思う。にもかかわらず,読むたびに新しく感じられるのは,描かれている話に普遍性があり,採り上げられている題材が時代に即しているからだろう。たとえば,「35歳で独身で」シリーズでは(連載初期は「28歳で独身で」でしたよね),<未婚の女性が,あるときにふと,いつのまにか自分は若い娘ではなくなっていたのだと実感する>という話が繰り返し描かれている。この最新刊では,結婚資金を貯めた通帳を母親から渡された娘が「じゃあ老後の資金ということで」と笑い飛ばすと,母親は真顔で「うん」とうなずき,娘はちょっと青くなる...という四コマとなっている。可笑しい。何度も聞いたメロディーなのに,ああ2010年だ,という感じがする。
 このマンガが,初期の面白可笑しい四コマから,バブル崩壊後の日本と伴走する鋭い観察者へと変貌しえたのは,この作家のクールな編集者的能力のおかげだと思う。連載開始から22年,「OL進化論」をリアルタイムで読みながら暮らしていけることに俺は感謝しているし,この幸せな連載が1年でも長く続いてくれればよいと思う。でもその一方で,この連載が終わったとき,その舞台裏,長期連載の方法論を,このマンガ家が明かしてくれたら...とも思う。

Bookcover 理系の人々 2 [a]
よしたに / 中経出版 / 2010-03-26

コミックス(-2010) - 読了:「OL進化論30」ほか

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