elsur.jpn.org >

« 読了:Srinivasan, et.al. (1989) 三相データをどうやって二相に落とすか | メイン | 読了:「歌う国民」 »

2010年10月13日 (水)

Billy Wilder and I.A.L.Diamond, "The Apartment." Faber Classic Screenplay, Faber & Faber, 1998.
 先週の出張の帰りの夜行便で,英語が聞き取れなかったストレスのせいかなかなか眠れず,なにかのときの暇つぶし用にipodに入れてあったビリー・ワイルダー「アパートの鍵貸します」を極小画面で眺めて過ごした。で,ずいぶん前にこの映画の脚本を英語の勉強のつもりで買い込み,そのまま本棚に眠らせていたのを思い出した。ここ数日で読了。(いま気がついたんだけど,amazon.co.jpでは取り扱っていない模様で,残念ながら書影はなし。)
 この幸せなラブ・コメディの,細部に至るまでの完璧さといったら,もう。。。何度観たのかわからない映画だが,観るたびに深い感銘を受ける。この映画はジャック・レモンによるジャック・レモンのための映画という側面があって(初期「男はつらいよ」に似ている),前半部分の鼻水を啜りながら電話を掛けまくる一人芝居なんて,喜劇俳優の一世一代の見せ場!という感じである。驚くなかれ,ヒロインが物語に本格的に登場するのは中盤過ぎてからなのだ。にもかかわらず,「レモンの独演会」という印象は全く残らない。レモン演じるサラリーマン・バドが,いかに観客の共感を深いレベルで獲得しているかということの証拠だと思う。
 不思議なことに,これだけ徹底的に練りこまれたはずの脚本をもってしても,撮影時にさらに変更する余地が残されるものらしい。ラストシーン,アパートに駆け込んできたフラン(シャーリー・マクレーン)にバドが尋ねる:「シェルドレイクさんは?」 フランの返事は,たしか俺が見た字幕では「毎年ケーキを送るわ」だったと思う。不倫相手と別れることをひとことで示す名台詞だが,この撮影用脚本では"I'm going to send him a fruit cake every Christmas"となっている。いっぽう映画では,俺にははっきりと聞き取れないんだけど,フランは"We'll send him a fruit cake every Christmas"と云っているのだそうだ。Weのほうが絶対いいですよね。フランがすでに気持ちを固めており,したがって直後のバドの(いささか機を逸した)告白には目もくれない,ということがよくわかる。

最後のト書きは以下のとおり。ああ,この素晴らしい瞬間をなんと形容すべきか。ジン・ラミーでは札を10枚ずつしか配らないのに,などという余計なことを言う奴は死んでおしまいなさい。このまま永遠に配り続けてほしいくらいだ。

Bud begins to deal, never taking his eyes off her. Fran removes her coat, starts picking up her cards and arranging them. Bud, a look of pure joy on his face, deals - and deals - and keeps dealing. And that's about it. Story-wise. FADE OUT. THE END

フィクション - 読了:"The Apartment"

rebuilt: 2020年11月16日 23:02
validate this page