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2010年10月13日 (水)

Bookcover 歌う国民―唱歌、校歌、うたごえ (中公新書) [a]
渡辺 裕 / 中央公論新社 / 2010-09
日本近代を音楽の観点から描き出すという,大変面白い本であった。
文部省唱歌にみるように,音楽とは近代日本にとって「国民づくり」のツールであった。戦時体制下,「国民音楽」は国家主義の片棒をかついだ。時代変わって1950年代中盤,「うたごえ運動」が日本を席巻する。それは共産党の指導と密接に関連しており,政治的には戦前と正反対ではあるものの,音楽を通じて新しい国民文化の創出が目指されたという点では共通している。

[うたごえ運動の中で歌われた] 『美しい祖国のために』『祖国の山河に』などの曲に繰り返し出てくる,戦争によっても失われることのなかった豊かな自然のイメージは,言ってみれば,天皇に変わって『国民』の連帯の新たな中心として機能しているようにすらみえ,そのことによって,中心となるものを入れ替えただけで,『国民』の帰属意識や連帯意識自体は損なわれずに温存されている,そんな印象を持つのです。

日本近現代史 - 読了:「歌う国民」

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