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2010年11月22日 (月)
新宿駅最後の小さなお店ベルク 個人店が生き残るには? (P-Vine BOOks)
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井野朋也(ベルク店長) / ブルース・インターアクションズ / 2008-07-04
JR新宿駅東口地下改札を出て丸ノ内線方向に歩くと,ちょっと古ぼけた雰囲気のコーヒーショップがある。何度か入りかけたが,芋を洗うような混雑,注文カウンターから店外にまで伸びる行列をみてあきらめた。で,土曜夕方の中途半端な時間に通りかかった際,のぞきこんだらさすがに多少はスペースに余裕がある様子だったので,入ってみたところ,メニューが異常なまでに充実しており,なんと旨そうなビールまである。たまたま空いていた座席を確保して店内を見回すと,壁の掲示といい客層の広さといい,一癖も二癖もありそうな風情である。
東口のルミネエスト(旧マイシティ)に大家と揉めている店子があり,存続の署名運動まで起きているという話は聞いたことがあったのだが,その記憶とこのコーヒーショップ「ベルク」とが,頭の中ですぐには結びつかなかった。店主の手によるこの本を書店で見かけてようやく気がついた次第。
特に面白かった箇所を抜き書き:
- 「低価格の店をご利用になるお客様は [...] しょうがなしにいま自分はここにいる,という感じでいらっしゃる方が多いのです。とくに,初回の方に。そのどこかなげやりな,諦めきったお顔に少しでもひるんだら,こちらの負けです」「満面の笑みが,接客の最大の武器になります。ただ,その笑顔を裏付けるものがないと,長く続けるのはしんどいですね。笑顔を裏付けるもの。それこそが商品です。自身を持ってお出しできる商品。それさえあれば [...] にっこり笑い,「あなたはついている」と一言いえばすむ。その笑顔は,ただの愛想笑いではない,自信に満ちた最強の笑顔です」
- 「どうみてもホームレスの常連さんが,しばらく見えないと思ったら,突然こざっぱりした姿でいらっしゃいました」「かと思えば,背広姿のお客様が[...] だんだんホームレスの雰囲気を漂わせるようになり,ある日またもとの背広姿に戻られたこともあります」「ホームレスっていう人種がいるのではない,というごく当たり前のことに思い当たりました」店主のパートナーである副店長は西口の段ボール村に通うことになる。「店でも彼らへの対応が変わりました」「ホームレスだから特別扱いしたり,拒絶したりするのではなく。当たり前ですね。その当たり前のことに気がつかなかった」「『ベルクは老人も子どもも排除しない。イタリアのバールに一番通じる雰囲気を持っている』と評されたこともあります」
- 素人の著者らが飲食店を立ち上げるためには,さまざまな人の助けが必要だった。たとえば経営コンサルタント。「先生の考えやこだわりが大企業でどこまで通るかというと,難しいものがあるでしょう。現場への普及はさらに絶望的かもしれません。そのうっぷんを晴らすかのように,ベルクではさまざまなアイディアを惜しみなく出してくださいました。私たちも頭をまっさらにして,いわれたことはすべてやりました」「コンサルタント料は[...] いまだから明かしますか,本当に気持ちだけお包みしました。その代わり,先生の憂さ晴らしの場所にどうぞベルクを自由にお使いください,という感じですね」なるほど,人の力を集めるということは,時にはこういうことかもね。
というわけで,山手線なみの混雑と煙草の煙に耐えつつ,最近時々この店に寄っている。ビールどころか,なぜか旨い日本酒まで置いているのである。面白いなあ。立ち退き問題は国会の質問で取り上げられるまでになっているようだが,なんとかお店を続けてほしいものだ。
うつ病新時代 ― その理解とトータルケアのために (最先端医療の現場から3) (平凡社新書)
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張 賢徳 / 平凡社 / 2010-10-16
ブラック企業、世にはばかる (光文社新書)
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蟹沢 孝夫 / 光文社 / 2010-04-16
失礼な言い方になっちゃうけど,かなり散漫な内容に思えた。
中世神話 (岩波新書)
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山本 ひろ子 / 岩波書店 / 1998-12-21
助けてと言えない―いま30代に何が
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NHKクローズアップ現代取材班 / 文藝春秋 / 2010-10
ヤマダ電機の暴走
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立石泰則 / 草思社 / 2010-10-13
時間と自己 (中公新書 (674))
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木村 敏 / 中央公論新社 / 1982-01
82年刊のロングセラー。正直言って内容の半分くらいはわからないのだが(特にハイデガーとデリダが出てくるあたり),それなりに興味深く読んだ。
そういえば学生のころ,この著者の「あいだ」という本を,一頁一頁食いつくようにして読みはじめ,ほどなく挫折したことを思い出す。あの頃とは本の読み方が随分変わってきている。あんな風に真剣に本を読むことがなくなって久しい。
ノンフィクション(-2010) - 読了:「新宿駅最後の小さなお店ベルク」ほか