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2012年2月 1日 (水)

Palmer, S.E. & Schloss, K.B. (2010) An ecological valence theory of human color preference. Proceedings of the National Academy of Sciences, 107(19), 8877-8882.
 第一著者はUCBの知覚心理の先生。いま研究室のwebページを見たら、日本の超有名な知覚の先生と同じ顔をしてたのでビックリした。もちろん別人で、単に一緒にスナップ写真に写っていただけでした。

 32枚の色チップを用意し、(1)被験者に各チップを提示、その色をしているモノの名前を挙げさせる。赤なら「いちご」とか。(2)別の被験者に、集めたモノの名前を提示し、感情価(ネガティブかポジティブか)を評定させて集計する。「いちご」はポジティブだそうです。(3)また別の被験者に、モノの名前と色を提示し、類似性を評定させて集計する。赤はいちごとそこそこ近い。(4)各色チップについて、モノの感情価を類似性で重みづけ平均した値を求める。これを著者らは重みづけ感情価推定値(WAVE)と呼んでいる。赤のWAVEは結構高めになる。で、このWAVEと、別の被験者で調べた色チップそのものに対する好意度評定の間には、すごく高い相関がありました。という論文。
 なんでこんな不思議な実験をやっているのかというと、もともと色の選好は進化的選択で決まっているという壮大な説明があって(女性が赤を好むのは果実を採集してたからだ、というような奴)、それに対して著者らは、まあそういう基盤もあるかもしんないですが、色の選好は学習によっても決まるでしょう、一言でいえばその色を持っているモノに対するvalenceで決まるのです、と主張しているのである(ecological valence theory)。ここでいうvalenceをなんて訳せばいいのかわからないけど、適応上の価値とでも訳すのが近いだろうか。実験手続き上は、まあ要するに好き嫌いのことである。
 集計値レベルの分析しかせず、かつモノの名前を被験者から集めているところにトリックがあるなあ、と思いながら読んでいたのだが(人は好きな色に対して好きなモノを挙げる傾向があるのかもしれないから)、そんな突っ込みは先刻御見通しのようで、さらに別の被験者を用い、WAVEと色選好を同一の被験者から採っておき、WAVEのパターンで被験者を2群にクラスタリングする、というのもやっている。モノのセットは群間でほぼ同じ、WAVEと色選好の相関は同一群内のほうが高い。巧いなあ。
 さらにecological valence theoryの補強証拠として、学生の愛校心の高さと自校のスクールカラーへの選好に相関があったという話と、モノの写真を事前提示して直後の色選好をプライミングできたという話も報告している。ふうん。

 ナイーブな疑問で恥ずかしいのだが、読んでて不思議だったのは、「色チップへの評定」という課題がなにを測定している(と考えられている)のか、という点である。色チップへの好意度評定がその色と結びついたモノへの好意度と関係している、というのは、人の色選好を規定する一般的メカニズムについての大きな主張なのか? それとも、「人は色チップへの好意度評定という奇妙な課題を与えられたとき、どう答えたらいいのか困っちゃうので、仕方がなくその色と結びついたモノへの好き嫌いで判断してしまう」という小さめの主張なのか? どちらにしても価値ある知見だと思うけど、理論的含意の及ぶ範囲が全然異なる。著者らの意図は前者だろうが、後者の説明のほうがparsimoniousだという気がする。
 この疑問がほんのわずかでも当たっているとして、ここからの個人的教訓は、測定の妥当性はholisticに捉えないといけないなあ、という点である。ある指標が測りたい概念をうまく測れているかと考えるとき、我々はついその指標と概念の関係だけに目を向けてしまうけれど(「色チップへの好意度評定は色選好の指標として妥当か」というように)、実はその周りの理論ネットワーク全体に目を向けないといけないなあ... なんて考えたのだが、自分でもなんだかよくわかんなくなってきたので、このへんでストップ。

 などとつらつら書きつつ、実はご研究そのものには全然関心がなくて(すいません)、単に色の選好実験で色をどう定量化し色刺激をどう設計しているかに関心があって読んだ論文であった。CIELAB色空間を使っている。こういうときにマンセル色空間を使うのはまずいのかしらん。

論文:心理 - 読了:Palmer & Schloss(2010) 好きな色、それは好きなモノの色のことだ

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