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2012年2月28日 (火)
プロモーション効果分析 (シリーズ・マーケティング・エンジニアリング)
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守口 剛 / 朝倉書店 / 2002-12
仕事の都合で読んだ。著者はこの分野のすごく有名な先生。読む前はちょっと憂鬱だったのだが,とても勉強になりました。
1章~4章はプロモーション(販促)効果研究の概説。5章からは分析事例で、順に、
- ブランド選択の多項ロジットモデルの個人パラメータを潜在クラスで説明するモデル(5章)
- あるブランドに対する個人の内的参照価格を項目反応理論で説明して縦断で追うモデル(6章)
- 小売店のPOSデータに売上モデル(積乗モデル)を当てはめ所与の粗利率とプロモーションコストの下での最適価格を出す話(7章)
- ID-POSデータを使い各種プロモーションの有無で購買生起を予測する決定木(C5.0)をつくる話(8章)
9章は、価格プロモーションの弊害と、FSPなどをつかったダイレクト・プロモーションの考え方の紹介。
いくつかメモ:
- 横軸に価格プロモーション、縦軸に売上数量をとった反応曲線は、ロジスティック関数みたいなS字型になりそなものだが、「一般的な結論を得るには至ってない」由。へえー。Blattberg et al.(1995, Marketing Sci.)というのが引用されている。
- ブランドのマーケット・シェアを従属変数にしたモデルは、ブランドの魅力度を指数関数で表現すると多項ロジット型のモデルになる。いっぽう個人の選択確率のモデルでも多項ロジット型の定式化がされる。でもこの2つは導出過程が全然ちがうので注意するように、とのこと。なるほど、前者には誤差項が第1種極値分布に従うというような仮定がないですね。なんとなくごっちゃにしてました。
- 購買履歴の分析なんかで、ブランド・ロイヤルティ変数というのを使うことがあるけれど(ブランド論やCSの本に出てくるような心的概念ではなくて、単に選択モデル内で状態依存性を表すための変数のこと)、「それが一種の自己回帰過程であるにもかかわらずその点が推定上考慮されていないという指摘(片平・杉田, 1994)や習慣形成と選好とを混同しているという指摘(Blattberg&Neslin,1990)などがされている」のだそうである。へえー。勉強しておこう。
- 6章で紹介されているのはこんな話。あるブランドに対して消費者 $k$ が 時期 $t$ において持つ参照価格 $W^t_k$ が $N(\theta^t_k, \sigma^2)$ に従う確率変数で、購買機会において実売価格が参照価格を超えていたら購買が生起すると仮定する。$\theta^t_k$というのは製品の知覚価値みたいなものだろうけど、これを個人の潜在特性と捉えたら、これはもう項目反応理論の世界である。なるほどー。分析例についてよく考えてみると、2パラメータIRTでいうところの識別力が固定されていたり($\sigma^2$が集団レベルのパラメータだから。所与の$\theta$のもとで価格感受性に個人差がないということになる)、また$\theta^t_k$の分布は考えず、ある回数以上買っている人のデータだけで分析してたりで、あれ? と思ったのだけれど、分析の関心は継続顧客における参照価格の時間変動にあるので(実は価格プロモーションの研究なのだ)、これで全然良いのである。そうかー、こうやって使えばいいのか。とても勉強になった。
各章に実習課題がついていて、実に親切である。Excelのソルバーをつかって多項ロジットモデルの推定をしてみましょう、とか。きっと講義の教材だったのだろう。いいなあ、楽しそうだなあ、リア充っぽい感じの大学のおしゃれなキャンパスのパソコン教室で、女の子たちと一緒にわいわい実習してみたかったなあ。などと思ったのだが、自分の20代を振り返ると、このようなカネに絡む話はもうてんでバカにして小説と哲学書ばかり読んでいたから、そんな講義には出席してみようとさえ思わなかっただろう。どうもすみませんでした。そもそも、通った大学もあまりリア充っぽくなかったし。いやそもそも、大学にろくに行ってなかったし。重ねてすみませんでした。
マーケティング - 読了:「プロモーション効果分析」