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2012年4月 3日 (火)
国語審議会─迷走の60年 (講談社現代新書)
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安田 敏朗 / 講談社 / 2007-11-16
国語審議会の歴史を批判的に辿る本。本屋で虫が知らせたのだが,案の定,とても面白かった。
敗戦後すぐに,ソビエト言語学の影響のもとで敬語消滅論が唱えられたという話は,(タカクラ・テルの名とともに) 漠然と知っていたのだが,その背景には,敬語が天皇制とセットにして考えられてきたという歴史があるんですね。そうかー。
この本のおかげで知ったのだが,2004年の文化審議会答申「これからの時代に求められる国語力について」というのはなかなかすごい。webで探して読んでみたら,後半部分になるとなるほどもっともなことが書いてあったりもするのだが(司書教諭の活動時間を確保するとか),前半の突っ走りかたがただごとではない。「国語力の向上を目指す理由」という見出しの下では,
さらに,近年の日本社会に見られる人心などの荒廃が,人間として持つべき感性・情緒を理解する力,すなわち,情緒力の欠如に起因する部分が大きいと考えられることも問題である。情緒力とは,ここでは,例えば,他人の痛みを自分の痛みとして感じる心,美的感性,もののあわれ,懐かしさ,家族愛,郷土愛,日本の文化・伝統・自然を愛する祖国愛,名誉や恥といった社会的・文化的な価値にかかわる感性・情緒を自らのものとして受け止め,理解できる力である。この力は自然に身に付くものではなく,主に国語教育を通して体得されるものである。
なあんて,ものすごいことが書いてあるのである。なんという精神主義。あれもこれも背負い込まされた国語教育には深く同情する。
この答申を出した国語分科会の委員名簿には,いやまあそれはかの藤原正彦大先生なども入ってんだけど,私が敬愛している翻訳家の名前や,私がとてもお世話になった,とても理知的な,尊敬すべき心理学者の名前も入っている。ううむ,世の中いろいろあるんだなあ。
ノンフィクション(2011-) - 読了:「国語審議会」