« 読了:「鮫島の顔」 | メイン | 読了:Pauwels, Hanssens, & Siddarth (2002) 値引きの長期的功罪 »
2012年4月12日 (木)
Dillon, W.R., Frederick, D.G., Tangpanichdee, V. (1985) Decision issues in building perceptual product spaces with multi-attribute rating data. Journal of Consumer Research, 12(1), 47-63.
消費者調査の分野でよく登場する,製品ないしブランドの知覚マップのつくりかたについての解説。製品の多属性評価データに基づくマッピングを前提に,データ入力,データの相(mode),事前処理,選好のモデル化,技法,解,の6つの段階に分けて,問題と注意点を列挙している。
仕事の足しになるかと思って読んだ。なにぶんにも20年近く前の論文なので,いささかout of dateなところもあるのだが,こういうレビューは頭の整理になるような気がする。
列挙されている注意点をメモしておくと:
- 属性選択に関して:
- 双極尺度や同意度尺度では,属性の値が連続体上に落ちるという暗黙の想定がなされているが,これは必ずしも正しくない。
- 因子分析のようなデータ縮約指標で手に入れた軸は,消費者がどんな特徴を大事だと思っているかではなく,単に属性セットによって決まっている。
- アクショナブルな製品空間を得ようとしているなら(常にそうとは限らないが),属性はマーケティング・マネージャーが制御できる事柄に変換できないと困る。
- 製品空間で製品選好を説明するためには,選好が属性の関数なのか軸の関数なのかが問題になる。前者の場合,"attributes must be scaled so that they will load on the reduced space dimensions in the same way that they influence preference judgments."
- データ配列に関して:
- データとして対象者x製品x属性の3相データが用いられることが多いが,他の相を導入してもよい。製品使用の文脈とか。
- データ入力に関して:
- 相関行列ではなくローデータ行列を入力したほうがいい場合もある,注意せよ(←うーむ,なんだか昔のはなしですね...)
- データの相が空間に与える効果に関して:
- 製品 x 属性の集計表の分析は,知覚過程における個人差を無視している点に注意。
- 属性間相関には製品間の平均・SDの差異が複雑な影響を及ぼしていることに注意。
- 因子分析の場合,ふつうは属性のみが因子に負荷を持ち,製品は因子得点に基づいて布置されている。理想的には,属性における因子と製品における因子の同時分析が望ましい。
- 慣用的に用いられている2相分析よりも(←ここでは,製品と属性の同時布置のことであろう),製品と対象者の同時布置や,対象者・製品・属性の同時布置のほうがよいかもしれない。
- データの累積(aggregation)に関して:
- 対象者ごとの製品 x 属性データを縦積みしてつくった行列(extended data matrix) を分析するアプローチはよくない。なぜなら,属性間の相関が,(1)属性間の整合性と対象者間異質性の両方を反映するから。(2)外れた製品や外れた対象者によって影響されるから。
- 2相因子分析モデルにおける前処理に関して:
- 良く用いられる前処理には,normalization(列ベクトルの二乗和が1になるようにすること), standardization, centering, ipsative scaling(行=個人内の合計を一定にすること), bounding, null scaling(期待値からの差を取ること)があるが...(以下,因子分析に絞ってごちゃごちゃ書いてある。省略)
- 3相データの前処理に関して: (面倒なので省略)
- 製品の知覚空間のための前処理に関して:
- 良く用いられる前処理には,個人xブランド別のstandardization, 項目別のstandardization, 個人x項目別のnormalizationがあるが...(以下,extended data matrixの因子分析についてごちゃごちゃ書いてある。省略)
- 選択・選好のモデリングに関して:
- 理想点モデルとベクトル・モデルがある。なにかの属性で極端に高い/低いブランドがある場合は前者が,ない場合は後者がうまくいく。この二つを属性によって使い分けるモデル(Shocker & Srinivasan, 1974, 1979)もある。
- 知覚空間においては表現されていない属性が,選好とは密接に関連している,という場合もありうる。
- 手法に関して:
- 2相の手法には,因子分析(FA),主成分分析(PCA),ratio MDS, 重判別分析(MDA)がある。PCAで項目x項目の共分散行列から製品空間をつくっても,RMDSで製品x製品のユークリッド距離行列から製品空間をつくっても,同じことである。いっぽうMDAは製品間分散が大きい属性を重視するので,ある意味でよりactionableである。云々。
- 3相の手法には,CANDECOMP, INDSCAL, PARAFAC, TUCKER3のような成分モデルと,共分散構造モデルがある。前者は3相をすべてを固定的に扱い,後者はひとつの相(ふつうはヒト)を確率的に扱う。前者はより探索的,後者はより確認的である。製品空間という観点からは前者に関心が持たれる。云々。
- 軸の方向に関して:
- FA, PCA, MDAでは(たとえば単純構造を目指して)回転が行われることが多い。Thurstoneはそんなのどうでもいいよと言っているが,それはデータの記述を目的としている場合の話であり,いっぽう製品空間をつくる目的は"to obtain novel information on the latent, but empirically real, processes that generatethe observed relationships"なのだから(←そ,そうかなあ...),回転はすごく大事だ。解が一意に決まるという点ではPCAが良いが,第一軸がいろんな要因の合成になっちゃうし,その軸でなぜある製品が高いのかわかんないので不便だ。云々。
- 得られた軸の確認に関して:
- PCAやFAの解は再現できても妥当とはいえない。いっぽうintrinsicな解(PARAFACなどのことらしい)は再現性が妥当性の証拠になる。
製品開発やブランドに関わるサーヴェイ調査データは,ヒト x モノ(製品ないしブランド) x コト(属性)の3相データになることが多い。測定値は立方体の形に並ぶわけだ。仕事の関係で調査データの分析レポートを目にする機会があると,ついつい「この業者さんは3相データをどう処理しているかな...」とチェックしてしまうんだけど,対象者xモノを行,項目を列にとった縦積みのローデータを因子分析して,因子得点で重回帰して... っていうの,非常に多いですね。Srinivasanらのいうtotal analysis, この論文でいう extended data matrixアプローチである。
それがまずいという指摘はこの論文に限らず時々見かけるし,仕事のなかで頻繁に議論になる問題である(月に一回くらいの頻度でこの話を誰かに説明しているような気がする)。以前,説明の際のネタにしようと思い,このアプローチを採用している(いわば悪役の)実証研究を探してみたことがあるのだが,うまくみつけられなかった。この論文では,Hauser & Koppelman (1979, JMR), Huber & Holbrook(1979, JMR)が挙げられているけど,うーん,もっと新しいのはないかしらん。
ところで... 以前,社内研修で3相データの扱いについて話す際,この立方体になんかステキな愛称がつけらんないもんかしらんと首を捻ったことがあったのだが(そういうくだらないことばかり考えているからいけないのかもしれない),この論文によれば,なんと! すでに50年代に,R. CattellがこれをBDRM(Basic Data Reduction Matrix) と呼んでいるのだそうだ。し・ら・な・か・っ・た! 70年前後にCattellが多相データについて論じる際,"Data Box"という言い回しを使っているのは見かけていたのだが。。。
Cattellは知能研究の話には必ず出てくるビッグ・ネームで,私も心理学の講義をやっていた時分には,あたかもその研究について知悉しているかのように紹介していたものだが,恥ずかしながら通り一遍の知識しかなく,院生のころに聞いた先輩の「キャッテル先生,ペット飼ってますか?」「うんキャッテル」という冗談だけが妙に印象に残っている。ごめんなさいごめんなさい。
それにしても,Cattellの名前にこんなに動揺したのが,我ながら可笑しい。仕事がらみの資料をフガフガと気楽に読んでいて,いきなり心理学者の名前が出てくると,ある町を散歩していたら不意に別の町に着いたような気がするのである。
論文:マーケティング - 読了:Dillon et al. (1985) 製品マップのつくりかた