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2012年5月24日 (木)

Dubow, J.S. (1992) Occasion-based vs. user-based benefit segmentation: A case study. Journal of Advertising Research, 32(2), 11-18.
 occasion-based segmentation について書いている資料を探していて見つけた論文。検索でヒットするのは食品関係の資料ばかりで,マーケティング一般の問題として紹介しているのはなかなか見つからない。
 ここでoccasion-based benefit segmentation といっているのは,対象者に製品カテゴリの使用オケージョンを聴取し,さらにオケージョンごとにベネフィットを聴取して,(対象者ではなく) 対象者とオケージョンの組み合わせを単位として分類する,というアプローチのこと。そういうアプローチが有益なのはどういう状況においてか,という点の一般化に関心があったのだが,常識的に思いつくようなことしか書いてなかった。ま,いいや。

 紹介されている事例そのものよりも,思い出話が面白かった。著者は食品マーケティングが専門の大学教員だが,前職は米コカコーラだった由。
 1973年,コカコーラでは自社ブランドのロイヤルティ低下に悩んでいた。ソフトドリンク飲用者が,一日のなかでさえブランドをどんどんスイッチしちゃうのである。
 で,調査チームのメンバーであるStephen Turnerという人が,のちに「ニード・ステーツ仮説」と呼ばれることになるアイデアを産んだ。彼いわく,生じているのはバラエティ・シーキングではない。消費の場面場面によって,ニーズの状態の「パッケージ」がちがうのだ。だから,ニーズ状態のパッケージ別にブランドシェアを調べ,ニーズ状態のパッケージによって人とオケージョンをセグメンテーションしよう。
 というわけで,調査対象者にオケージョンごとに動機の重要性を評定させ,その人のそのオケージョンでの消費ボリューム(オンス) を動機に割り振ってシェアを出し,対象者xオケージョンを行にとったシェアの行列をk-means法で分類する ... というような方法で分析した。どうみてもムリヤリな分析手法だと思うが,ま,肝心なのはテクニックじゃなくてアイデアですよね。著者いわく,Turnerさんはその後すぐに会社を辞めちゃったもので,世間には知られていないのだが,occasion-based segmentationという発想を産んだのは彼である。
 幸いこの調査プロジェクトは成功を収めた。このときのサプライヤーが,National Analyst (コンサルらしい) ,マッキャン・エリクソン,そして調査会社Market Factsであった(後のSynovate,いまではIpsosですね)。
 さて,コカコーラは当時Wine Spectrumという会社を持っていたので,ワインについても同じ調査をやった。その後コカコーラはWine Spectrumをシーグラムに売り,シーグラムはさらにVintnersという会社に売った。1989年,著者はコカコーラを辞めて大学に移り,Vintnersに問い合わせたら,あの調査はもう古いから公開しちゃっていいよ,とのことであった(それがこの論文で紹介されている調査結果)。で,著者は分析結果のファイルを追い求め,Market Facts の廃棄書類から無事回収することができた。数日後に焼却する予定だったのだそうである。
 というわけで,集計結果しか残ってないので,クラスタ分析を再現することはできない由。ちょっと笑ってしまった。

 えーっと,あとはGelman-Hills本のChap. 3を読了。まだ本題に入ってないんだけど,交互作用項入りの回帰モデルでは係数の解釈が難しい,というくだりがちょっと面白かった。でも,あの本,くどい。とにかくくどい,死ぬほどくどい。

2015/05追記:上記論文に登場する、occasion-based segmentationを最初に思いついたStephen Turnerさんという人、名声をつかみ損ねてかわいそうに... と思っていたんだけど、ひょんなことからその後が判明した。アメリカの市場調査実査会社の会長になっておられるようです。いやー、よかったですね。

論文:マーケティング - 読了:Dubow (1992) 消費オケージョン・ベースのベネフィット・セグメンテーション

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