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2012年6月12日 (火)
Plummer, J. et al. (2007) "Measures of Engagement." Volume II. Advertising Research Fundation.
市場調査会社や広告代理店が提供している、広告・ブランドに対する消費者の関与(engagement) の測定手法についての資料集、64頁。アメリカの広告業界団体ARFの分科会がまとめたホワイトペーパーらしい。この前年に出たVolume I の続編である由。いまみたら、どちらも結構な値段で売られている(なぜ私の手元にあるんだろう...いきさつが思い出せない)。
Chap.1. Engagement Framework: How do we predict attention and Engagement? (Heath, R.)
前文というか、巻頭言みたいな章。著者はIJMRとか J. Advertising Researchなんかに論文があって、どうやら広告の研究者らしいんだけど、むこうの人は研究者と実務家の区別がつきにくくて、どうもよくわからない。Heath, Brandt & Nairn(2006, J. Ad. Res)という研究の紹介から話が始まるのだが、測定手法に"TM"と添え字がついていたりなんかして、もうね、そういうの、やめてほしいなあと...
まあとにかく、ご研究によれば、ブランドへの好意に影響するのは広告の合理的内容ではなく感情的内容だ。ザイアンス先生いわく、感情は前認知的で回避不能で言語不要で測定困難だ。ダマシオ先生もザルトマン先生もそうおっしゃっているぞ。云々。
ソマティック・マーカー仮説でいえば、感情的反応が意思決定のゲートウェイになるはずだが、そういう健常者実験が消費者行動研究にもあって、Shiv&Fedorikhan(1999, JCR)という研究は時間制約下の決定が感情的になるということを示している由(この説明だけでは、精緻化見込みモデルとどう違うのかわかんないけど...)。
まあそんなこんなで、<感情→意識下での思考→潜在的ブランド態度変容→決定>という注意資源を必要としないルートと、<意識下での思考→意識的思考→顕在的態度→潜在的ブランド態度変容>という注意資源が必要なルートがあると考えましょう。で、関与水準を「広告が処理される際の意識下の感情の量」、注意水準を「広告が処理される際の意識的思考の量」と定義しましょう。云々。
後半は、アイカメラを使って新聞広告とTV CMを比較した話とか、感情的内容の広告は必ずしも注意を引かないけど(作業記憶を食わないから)でも好意度は高い、とかなんとか。
この文章の主旨じゃないんだろうけど、いかに実務家向けとはいえ、ある程度は厳密な議論をしてくれないと、はあさようですか、という感想しか持てない...
Chap.2. Engagement measures of brand message.
ここから先は、各社の手法の紹介。各社から集めた原稿をそのまま載せているようで、会社によってはただの宣材という感じだ。
- Ameritest 社(おお、日本法人もあるようだ)の ”Flow of Attention” と "Flow of Emotion"。CFの静止画像をソーティングさせる。感情と注意が両方高いシーンがbranding momentsである由。
- BrainJuicer 社 (いまブイブイいわしている会社ですね) の "FaceTrace"。エクマン流の基本感情説を踏まえ(←そういうの、いろいろご批判もあろうかと思うのだが)、広告を見せた後で7つの表情の写真を呈示し、あなたの気持ちはどれですか、と訊く。その気持ちの強さも、やっぱり写真の選択で聴取する。選択理由も自由回答させる。
- Gallup & Robinson社 の諸手法。いわく、"we conceive of Engagement as having cognitive and emotional dimensions that result from the interaction of a prospect, a brand, a mediaum/marcom channel and a message [...] We believe that Engagement measurement needs to be closely linked to the specific goals [...] Thus, we do not offer a single Engagement measure" というわけで、いろんな手法を紹介。"Impact Copy Testing" (広告内容の直後再生と一日後再生を測定)、"CERA (Continuous emotional response analysis)" (顔面筋の筋電反応を測る)、"Marcom 360 Campaign Tracking"(要するにトラッキングなんだけど、広告を再提示して再認を調べたりするらしい)。歴史の長い会社だからいろいろと過去資産があり、ひとつ挙げろといわれても困る、ということなんだろうけど、でも広告をEngagement指標ひとつで評価できるわけじゃなかろうというご意見は、なるほどごもっともかもしれない。
- Millward Brown社 (WPP傘下)。"ChannelConnect"(メディア消費の定性調査らしい)、"Link"(これがいわゆる広告テスト)、”Dynamic Tracking"と"Cross-Media"(ブランドの強度を記憶指標で測る由)、”D&A"(よくわかんないけど、タッチポイントの分析だろうか)。なんというか、まるきり宣伝資料みたいな文章で、中身はよくわからない。
- NeuroFocus社(Neilsen傘下の神経科学的測定の会社)の"ECS(Effectiveness Coordinate System)"。注意、感情的関与、記憶保持の3つの軸で広告を評価する。脳活動を測るって書いてあるけど、具体的にどうするのかは書いてない。
- Red Ball Tiger 社 (よくわからんが、小さな会社だと思う)。ケーブルテレビのオンデマンド・システムで視聴者の意図を測ります、というような話。すいません、ちゃんと読んでません。
- テレビ録画サービスのTivoってのがあって(日本にはそういうのがないのでピンと来ないが)、そこが広告測定部門を持っていて、Stop||Watchというサービスをやっている由。実際の視聴がわかる。IRIと組んで、スキャナ・パネルの購買データとの突き合せもできる。
Chap.3 Engagement Measures of Context.
- NewMediaMetrix社の"Emotional Attachment" (そんな名前で商標が取れちゃうんだ...)。ブランドなりTV番組なりについて、愛着の強さを11件法で聴取する。発達心理学者のボールビーの名前が挙げられていて、いや母子関係じゃないんだから、とちょっと笑ってしまったが、検索してみると、ブランド研究の文脈ではそんなに無理な連想ではないらしい。ふうん。
- Roy Morgan社(オーストラリア) の"TV Monitor"(シングル・ソース・パネル。番組への関与と好意を聴取)、"Reactor"(フィルムに対する秒ごとの好意度とか関心とか関与とかを測定。スライダーバーを使う由)、"Natural Exposure"(広告視聴前後の態度変容を測定)、などなど。パス。
- Scarborough Research (アメリカの調査会社。ニールセンの資本が入っているらしい)。手法紹介というより、メディア消費調査データの分析事例紹介だったので、パス。
Chap 4. Engagement Measures of Brand Idea.
- Cymfony社。Kantar傘下だったのが、今年になってVisibleという会社に買われたらしい(どっちみちWPPだ)。ソーシャルメディアによるブランド測定。
- Neilsen BuzzMetrics. 同上。良し悪しはわかんないけど、このアウトプットイメージはちょっとかっこいいなあ。さすがは業界最大手だ。
- ご存じ、SatmetrixのNet Promoter. 悔しいけど、やっぱり、圧倒的にわかりやすい...
- Synovate (現Ipsos). 名前は書いてないけど、当時この会社におられたJan Hofmeyr さんによるブランド価値測定の議論である。私は何度も読んだ話なので頭に入るが、初めて読んだ人がどう思うかはちょっとわからない。
- Taylor Nelson Sofres (こちらもWPP傘下)。"Brand Performance Optimization"(この会社はNeedScopeというモチベーション・リサーチの手法を持っているが、それをベースにしている由)。ついでに、Integrationからライセンス供給されている "Market Contact Audit"の紹介。
論文:マーケティング - 読了:Plummer, et al. (2007) 広告・ブランド関与の測定手法集