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2012年10月 1日 (月)

 先日、勤務先の仕事の関係でお会いした方に、突然にこんなことを云われて面食らった。「フィッシュバイン・モデルをご存知ですか?」え、えーっと、それ、なんでしたっけ... と、数秒間アタマが真っ白になった。すいません、すいません。
 心理学者Fishbeinの名前は、社会心理学の厚めの教科書を探せば出てくるかもしれないけど(たぶん態度のところで)、あまり有名とはいえないだろう。しかし、マーケティング系の人が関心を持つ消費者行動論の文脈では、ブランド選択・購買の背後にある態度形成についての古典的なモデル(多属性態度モデル)の提唱者として、それはもう大変なビッグネームなのである。

 思わぬ名前が思わぬところで勤務先の仕事と関係してきたので、これを機に、以前非常勤先の講義でFishbeinモデルについて触れた際に疑問に思ったことを、ちょっと調べてみようと思った次第。ほんとは、こんなことしてる場合じゃないんだけど...

 態度形成のモデルとしてのFishbeinモデルは、どのように説明されているだろうか。
 たとえば、いまgoogleで最初の頁に出てきた解説はこうだ。日本の伝統ある市場調査会社のひとつ、マーケティング・リサーチ・サービスの方による解説である。

ある商品例えばケーキに対する態度Aは、このモデル式によれば「栄養価が高い」という認知Pと「そのことは価値がある」という 重要度Iとを掛け合わせた値を、他の属性(味、見栄えなど)についても求めて、それらを加算した結果A=ΣPIで決まるとする。 提唱者の名をとってフィッシュバイン・モデルとも呼ばれる。

書き手のかたが云わんとしているのは、おそらくこういうことだろう。いまここにケーキがある。話を単純にするために、ケーキの属性として「おいしさ」と「見栄えの良さ」だけを考えよう。花子さんからみて、このケーキの「おいしさ」の認知は20, 「見栄えの良さ」の認知は10。いっぽう花子さんにとって、「おいしさ」の重要度は+1, 「見栄えの良さ」の重要度は+3。このケーキに対する花子さんの態度は、20*(+1)+10*(+3)=50。
 Fishbeinモデルは大筋このように説明されている。ところが。。。さまざまな説明をよく見比べてみると、説明の仕方が微妙に、しかし決定的に、異なるのである。

1. 教科書におけるFishbeinモデル

 ためしに、いま書棚にある消費者行動論の教科書をめくって、Fishbeinモデルについての説明を抜き書きしてみよう。
 どの説明も、ある対象とその属性群についての、ナニカとナニカの積和がその対象に対する態度である、という点では共通する。説明の間の主な相違点は3つある。

 抜き書きにあたっては、もしその本のなかにFishbeinモデルを数式でフォーマルに説明している箇所があったら、その部分を優先的に抜き書きすることにする。

タイプA. 対象×属性についての「信念の強さ」と、属性への「評価」 の積和
対象がある属性を持っているという「信念の強さ」と、その属性そのものに対する「評価」(対象間で共通)の積和、という説明。このタイプの説明が一番多い。

タイプAの説明に従えばこういうことになる。いまここにケーキがある。花子さんの、このケーキがおいしいという信念の強さは20, 見栄えが良いという信念の強さは10。いっぽう花子さんにとって、任意のケーキが「おいしい」という属性を持っているということに対する評価は+1, 「見栄えの良さ」については+3。このケーキに対する花子さんの態度は、20*(+1)+10*(+3)=50。

杉本徹雄(編著)(2012)「新・消費者理解のための心理学」p.119 (執筆: 杉本徹雄)

$A_j = \sum_{i=1}^n a_j b_{ij}$
ただし、
$A_j$ = ブランド$j$ に対する全体的態度
$a_i$ = 属性 $i$ の評価的側面
$b_j$ [原文ママ] = ブランド $j$ が属性 $i$ を有することについての信念の強さ
$n$ = 属性の数

下から2行目の $b_j$ は$b_{ij}$ の誤りであろう。

上記引用のほか,Sheth & Mittal (2004) "Consumer Behavior: A Managerial Perspective", 2nd edition., Blackwell, Miniard, & Engel (2006) "Consumer Behavior", 10th edition., 井上崇通(2012)「消費者行動論」, 守口剛・竹村和久(編著) (2012)「消費者行動論」の説明もこのタイプであった。

タイプB. 対象×属性についての「信念の強さ」と、対象×属性への「評価」 の積和
対象が属性を持っているという「信念の強さ」と、その対象におけるその属性に対する「評価」の積和、という説明。A.とのちがいは,「評価」が対象ごとに異なるという点である。

タイプBの説明に従えばこういうことになる。いまここにケーキがある。花子さんの、このケーキがおいしいという信念の強さは20, このケーキは見栄えが良いという信念の強さは10。いっぽう花子さんにとって、このケーキのおいしさに対する評価は+1, 見栄えの良さに対しては+3。このケーキに対する花子さんの態度は、20*(+1)+10*(+3)=50。

田中洋(2008)「消費者行動論体系」pp.96-97.

Attitude = $f(\sum_{n=1} b_i e_i)$
態度は態度の対象への感情(affect)の独立変数である。
$b_i$は信念の強さであり、主観的な度合いとして表現される。態度の対象が i 番目の属性について持っている信念。たとえば、コカコーラの味が甘いと思っている程度。
$e_i$はその $i$ 番目の属性について持っている評価的側面。たとえば、コカ・コーラの味が甘いことがどの程度良いあるいは悪いか。
$n$ は態度対象の顕出属性 (salient attribute) の数である。
[...] ある対象に対する態度はその新商品を学習する過程で自動的に修得されるものであり、その学習の結果は商品属性についての信念という形で表されるのである。[...] さらに、消費者はこれらのブランド属性についてある評価を持っている。これらは「ミニ態度」とでも呼ぶべき存在であり、こうしたミニ態度は感情(affect)である。[...]
フィッシュバインの理論における信念の強さと属性評価は、たとえば、つぎのような質問によって測定される:
 
信念の強度を説明する質問の例:「パブロンには風邪の解熱成分が含まれている」
選択肢の例:まったくそう思う~まったくそう思わない(7段階あるいは5段階評価)
 
属性評価を測定する質問の例:「パブロンに含まれる風邪の解熱成分についてあなたはどう思いますか」
選択肢の例:とても良い~とても悪い (7段階あるいは5段階評価)

上の説明をよく読むと、「評価」のほうは、属性そのものについての評価(風邪薬に解熱成分が含まれていることの良し悪し)ではなく、対象が含んでいる属性についての評価(パブロンに含まれている解熱成分についての評価)となっている。ただし、この本では上記の説明のあとに、属性の「評価」が対象間で共通であるような分析例も紹介している。

 上記引用のほか,Peter & Olson (2001) "Consumer Behavior and Marketing Strategy", 6th editionもこのタイプであった。

タイプC. 対象×属性についての「信念の強さ」と、属性の「重要度」 の積和
A. と似ているが,属性の「評価」が「重要度」と言い換えられている。

タイプCの説明に従えばこういうことになる。いまここにケーキがある。花子さんの、このケーキがおいしいという信念の強さは20, このケーキは見栄えが良いという信念の強さは10。いっぽう花子さんにとって、任意のケーキにおいておいしさという属性が持つ重要度は+1, 見栄えの良さという属性が持つ重要度は+3。このケーキに対する花子さんの態度は、20*(+1)+10*(+3)=50。

清水聡(1999)「新しい消費者行動 」pp.123-124.

Fishbeinは、過去の態度形成の理論から、①消費者は、ある対象に対して多くの信念を持ち、その信念は、対象に関連したコンセプト・価値・目標で、対象とその信念の間との繋がりの強さが重要であること、②その信念のなかでも、評価的反応を持つ信念のみが、態度を形成すること、従って、③対象と信念の結びつき、その信念に対する評価の積和が、ある対象への全体的態度を引き出す、ということを導いた。式で示すと、
$A_o = \sum_{i=1}^n B_i a_i$
ただし、
$A_o$: 対象 $O$ に対する全体的態度
$B_i$: 対象 $O$ とその信念(属性) i の繋がりの強さ。即ち対象 $O$ が属性 $i$ とが [ママ]、どの程度結びついているのかを示す尺度
$a_i$: $B_i$の評価側面、即ち信念(属性) $i$ の重要度
となる。

ここでは「重要度」という言葉が「評価」と同義に用いられている。説明事例からみて、$a_i$は対象間で共通である。

上記引用のほか,Solomon (2009) "Consumer Behavior: Buying, Having, and Being", 8th editionもこのタイプ。

タイプD. 対象×属性についての「信念の強さ」と、「重要度」(何についてのかはっきりしない)の積和
「重要度」が対象によって異なるか,対象間で共通なのか、解説だけではわからないケース。

タイプDの説明に従えばこういうことになる。いまここにケーキがある。花子さんの、このケーキがおいしいという信念の強さは20, このケーキは見栄えが良いという信念の強さは10。いっぽう花子さんにとって、(任意の、ないし、この)ケーキにおいておいしさという属性が持つ重要度は+1, 見栄えの良さという属性が持つ重要度は+3。このケーキに対する花子さんの態度は、20*(+1)+10*(+3)=50。

青木幸弘ほか(2012)「消費者行動論」pp.72-73 (執筆: 青木幸弘)

このモデルでは、ある対象に対する個人の態度は、ある属性を当該対象が有すると思う個人の確信度(=期待)と、その属性の重要度(=価値)との積を、すべての属性について合計した総和に等しいと考えている。これを数式で表せば、
$A_o = \sum_{i=1}^n b_i a_i$
ただし、
$A_o$: ある対象 $O$ (製品やブランド) に対する評価 (全体的評価)
$b_i$: 対象 $O$ が属性 $i$ を備えている確信度 (信念の強さ)
$a_i$: 属性 $i$ の評価的側面 (重要度)
$n$: 属性の総数

上記引用のほか,杉本徹雄(編著)(1997)「消費者理解のための心理学」の説明(執筆:中谷内一也)もこのタイプ。つまり,この定評ある教科書におけるFishbeinモデルの説明は,1997年に出版された際はこのようにDタイプだったが,2012年の改版では上述のようにAタイプとなったわけだ。

タイプE. 対象×属性の「評価」と、属性の「重要度」の積和
ここまでの解説と大きく異なるのは,対象×属性の「信念の強さ」が「評価」と言い換えられている点。

タイプEの説明に従えばこういうことになる。いまここにケーキがある。花子さんの、このケーキのおいしさについての評価は20, このケーキの見栄えの良さについての評価は10。いっぽう花子さんにとって、任意のケーキにおいておいしさという属性が持つ重要度は+1, 見栄えの良さという属性が持つ重要度は+3。このケーキに対する花子さんの態度は、20*(+1)+10*(+3)=50。

平久保仲人(2005)「消費者行動論」pp.218-219

同じ地域のレストラン3店が検討集合に選ばれたとしよう。ある購買者が意思決定に影響を及ぼす属性として、内装、サービス、駐車場の広さ、レストランまでの距離、そして味を挙げたとする。まず、各属性の重要度を決める(1-5: 1=重要でない、5=とても重要)。次に各店をそれぞれの属性で評価する(1-5: 1=劣っている、5=優れている)。最後に属性の重要度と評価値を掛け合わせて、それら合計の最も高いブランドが選ばれるのだ[...]

いやあ、ちがうもんですね。AからEまで、実に5タイプのバリエーションがみつかった。

まとめると、Fishbeinモデルについての説明は、次の3つの点で揺れ動いている。

  1. 態度を規定する一方の要素は、対象×属性についての「信念の強さ」(A,B,C,D)か、「評価」(E)か
  2. もう一方の要素は、「評価」(A,B)か、「重要度」(C,D,E)か
  3. 後者は属性についてのものか(A,C,E)、対象×属性についてのものか(B)、はっきりしないか(D)

 些細な違いにみえるかもしれないが、Fishbeinモデルは概念枠組みであるだけでなく、調査データを当てはめて活用するためのモデルでもある。調査項目を作る立場になって考えると、このちがいはなかなか馬鹿に出来ない。
 なんでこんな揺れが生じてしまうのだろうか。手元にある限りの資料で調べてみると...

2. 本家Fishbeinモデル

 まずはFishbeinさんご自身の定義から。このモデルの初出は、どうやらHuman Relationsという学術誌に載った1963年の論文らしい(もとは博士論文らしい)。この論文が手に入らないので、かわりにFishbein & Ajzen (1975)を探してみると、次のように説明されている(pp.222-223)。

[我々が提案したモデルは] さまざまな信念、そしてそれに関連している属性の評価が、結合ないし統合され、その対象の評価へと至る、そのありかたを記述するものである。[...] ある対象、行為、ないし出来事についての態度をAとする。その対象の属性についての信念、ないしその行為の帰結についての信念を b とする。その属性ないし帰結についての評価を e とする。統合のプロセスは下式で記述される:
$A = \sum_{i=1}^n b_i e_i$

 なお、この部分のすぐ後で、著者らはbを「対象がその属性を持っている主観確率」「行動がその帰結につながる主観確率」と言い換えている。
 ここでいう信念とは、その対象における顕著な信念(salient belief)のことである。それは人によっても対象によっても異なる。その数には限界があり、「全体での評価では、ふつう5個から9個の信念に落ち着く」。
 なお実証研究として、Fishbein(1963)は"Negroes"への態度について調査している(そ、それって...倫理的にどうなのかしらん...?!)。対象者群に、"Negros"の特徴を挙げるように求め、10個の属性を集める(dark skinとか、tallとか、uneducatedとか... エエエエ?!)。別の対象者群にそれらの属性を呈示し、

を求める。(a)を足しあげて「評価」、(b)を足しあげて「信念の強さ」、(c)を足しあげて"Negroes"への態度とする。評価と信念の強さの積和は、態度と高い相関を持ちました、とのこと(p.225)。いやあ... 現代の目からみると、あんまりな調査だなあ。

 というわけで、Fishbein先生みずからの説明は...

  1. 態度を規定する一方の要素は、対象×属性についての「信念の強さ」
  2. もう一方の要素は「評価」
  3. 「評価」は属性についての値

 ただし、ポイント3についてはよくわからない。Fishbein(1963)では、評価は属性名のみについてに対して聴取しているようだ("Negros"がdark skinであることについての評価ではなく、dark skinそのものの評価を聴取している)。これを真面目に受け止めればタイプA の説明 に合致する。しかし、この研究では対象は"Negroes"しかないので、どうもはっきりしない。もしかするとFishbeinは、ほかに複数の対象を扱う実験をやっていて、そこではタイプBの説明のように、対象と属性の組み合わせごとに「評価」を聴取しているのかもしれない。

3. 後続研究における"Fishbeinモデル"

 さて、Fishbeinのモデルはたくさんの後続研究を生んだ。清水(2006)によれば、Kassarjianという人は、Fishbeinモデルを用いた研究は1980年までに100件以上にのぼる、とレビューしているのだそうだ(Kassarjian, 1982, Annual Rev. Psychology)。ひゃー。
 そのなかのひとつに、当のFishbeinさんと揉めているのがある。Bass&Talarzyk(1972)は、Fishbeinモデルでブランドの選好を予測しますという論文で、こう述べている。

For the purposes of this research, Fishbein's model is represented quantitatively as:
$A_b = \sum_{i=1}^N W_i B_ib$
where:
$A_b$ = the attitude toward a particular brand b
$W_i$ = the weight or importance of attribute i
$B_{ib}$ = the evaluative aspects or belief toward attribute i for brand b
$N$ = the number of attributes important in the selection of a given brand in the give product category

 平気な顔で Fishbein's model is represented as ... っていっているけど、よく見ると、本家と全然ちがう内容である。実証データをみてみると、対象×属性の「評価」「信念」は、たとえば「ミニッツメイドの味は?」という項目に対する「とても満足」から「とても不満」までの6件法で聴取されている。また属性の「重要度」は、オレンジ・ジュースのブランド選択における重要度の順に「味」「価格」などの属性を並べる、という課題で聴取されている。
 というわけで、Bass & Talarzyk (1972) が定式化するところの"Fishbeinモデル"はこういうモデルだ。

  1. 態度を規定する一方の要素は、対象×属性についての「評価」「信念」
  2. もう一方の要素は「重要度」
  3. 「重要度」は属性についての値

 ずいぶん変わったものですね。タイプEの説明に近い。
 「信念の強さ」が「評価」に、「評価」が「重要度」に変化している点もさることながら、「信念」という言葉がFishbeinとはかなり違う意味で用いられている点も面白い。Fishbeinの場合、「信念」は対象がどんな属性を持っていると思うかを指している。いうなれば、「信念の強さ」は事実判断であって価値判断ではない。価値判断は別途、属性の「評価」として得られるのだ。それに対しBass & Talarzykは、「信念」という言葉を「評価」とパラレルに用いている。事実判断と価値判断は切り離されない。
 
4. 本家,お怒りになる

 これに対して、ご本家はさすがにお怒りになり、批判論文を発表する(Cohen, Fishbein & Ahtola, 1972)。この論文はBass & Talarzyk(1972)のほかに、Sheth & Talarzyk (1972)という別の研究もひっくるめて批判しているので、前者に対する批判のみ抜き書き。

 単に「おまえらのモデルはもうFishbeinモデルじゃねえよ」と怒っているのではなく,モデルを構成する概念に踏み込んで批判している点が興味深い。「重要度」という概念が不適切である理由について,Fishbein & Ajzen (1975)の説明を聞いてみよう。
 著者らにいわせれば、態度のモデルに「重要度」の出る幕はない。そもそも、重要度という言葉の指すところには次の3つがある(p.211)。

 (1)の意味でいえば、「重要な属性はふつう、重要でない属性に比べてよりポジティブないしネガティブに評価される(すなわち、より極化する)。同様に、人々はふつう、自分たちにとって重要な物事についてより多くの情報をもっており、したがって、重要でない属性についてより重要な属性についてより確信があり、より強い信念を持っている。重要度、評価、信念の強度の間に一対一の関係はないが、近年の証拠によれば、$b_i e_i$ の絶対得点と重要度判断の間には高い相関があると示唆されている」(p.228)。
 (2)の意味の重要度は、対象と属性のあいだの結びつきの主観確率、すなわち「信念の強さ」に近い。
 (3)の意味での重要度評定は、(重回帰などで得られた)実際の決定における重みづけと対応していないことがわかっている。

5. 分家,反論する

 この批判に対し、Bass, Sheth, Talarzykはそれぞれ回答を寄せている。ほんとはSheth(1972)の回答がいちばん戦闘的で面白んだけど、話がそれるので省略して、Bass(1972)の回答は:

 Talarzyk(1972)の回答は:

 いずれにせよ、モデルのなかの重要な概念がすり替わっちゃっている点については反論しないわけだ。

6. 本家に忠実な使い方とは?

 BassやTalarzykがいうように、ブランドに対する態度の予測というマーケティング的課題においては、Fishbeinモデルはそのままでは適用しにくいのだろうか。いやいや、そんなことないわよ、というわけで、Tuck(1973)は本家Fishbeinモデルに忠実な適用事例を示している。
 その手続きは次のとおり。調査対象はHorlicksという"bedtime drink"。wikipediaによれば、欧米では有名な商品で、粉末の麦芽飲料で(ミロみたいなものかしらん)、寝る前にお湯に溶かして飲むんだそうだ。いまでも現役の商品らしい。へー。
 まず、Horlicksのヘビーユーザー、ライトユーザー、オケージョナルユーザー、ノンユーザー各50人に、「夜Horlicksを飲むことについて考えたとき、心に浮かぶことを教えてください」とインタビューし、顕著な信念(salient belief)の項目セットをつくる。各群ごとに6~7項目。たとえば「Horlicksを夜に飲むと安眠しやすくなる」というような項目であるとのこと。
 次に、別の対象者の4群に質問紙調査を行う。

 予測された態度と実際の態度の相関は、ヘビーユーザー群から順に.51,.55,.68,.68と、十分に高かった、とのこと。
 Tuckさんいわく、大事なのは次の2点である:

 前者の指摘は、Bass-Talarzykに限らず多くの人にとって耳が痛いところであろう。自分の身の回りを振り返ってみても、ブランド選好という言葉はあまりに柔軟に用いられているように思う。あるブランドが好きかどうかと、そのブランドを使用することが好きかどうかは、おそらくは異なる事柄なのだ。
 いっぽう後者の指摘に対しては、おそらくBassさんたちはちょっと異論があるのではないだろうか。ブランドによって信念リストを変えると、予測された態度をブランド間で定量的に比較するのが難しくなってしまいそうだ。

 ともあれ、Tuck(1973)が定式化するところの"Fishbeinモデル"は...

  1. 態度を規定する一方の要素は、対象×属性についての「信念の強さ」
  2. もう一方の要素は「評価」
  3. 「評価」は属性についての値

 当然ながら、Fishbein先生みずからの定式化に近い地点に引き戻されている。ポイント3については本家よりも明確になっており、タイプA の説明に合致する。

7. Fishbeinモデルってどんなんだっけ

 というわけで、"Fishbeinモデル"を名乗る実証研究のなかでさえ、モデルの定式化においてズレが生じていたことがわかった。
 Fishbeinモデルくらいに有名なモデルになってしまうと、Fishbeinさん本人がどういったかだけではなく、研究史のなかでどのように受け取られたかも大事になってくるだろう。消費者行動論の教科書におけるFishbeinモデルについての説明の揺れは、"Fishbeinモデル"を活用した実証研究における定式化のズレを、そのまま反映しているのかもしれない。

※読んだ論文は:
Bass, F.M., Talarzyk, W.W. (1972) An attitude model for the study of brand preference. Journal of Marketing Research, 9(1), 93-96.
Cohen, J.B., Fishbein, M., Ahtola, O.T. (1972) The nature and uses of expectancy-value models in consumer attitude research. Journal of Marketing Research, 9(4), 456-460.
Bass, F.M. (1972) Fishbein and brand preference: A reply. Journal of Marketing Research, 9(4), 461.
Sheth, J.N. (1972) Reply to comments on the nature and uses of Expectancy-value models in consumer attitude research. Journal of Marketing Research, 9(4), 462-465.
Talarzyk, W.W. (1972) A reply to the response to Bass, Tararzyk, and Sheth. Journal of Marketing Research, 9(4), 465-467.

2012/10/11追記: 毒を食らわば皿まで、というわけで、下記の論文も読んだ。これに伴って、「本家に忠実な使い方とは?」の項を追加。
Tuck, M. (1973) Fishbein theory and the Bass-Talarzk problem. Journal of Marketing Research., 10(3), 345-348.

2012/10/20追記: 読み返したらあまりに冗長なので,教科書の引用を絞りました。やれやれ。

2016/06/29追記: 数式をMathJax表示にしました。ついでに説明をちょっぴり追加。

論文:マーケティング - 読了:Bass & Talarzyk (1972) ほか:Fishbeinモデルってどんなんだっけ

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