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2013年8月27日 (火)
Fitzsimons, G.J., Shiv, B. (2001) Nonconscious and contaminative effects of hypothethical questions on subsequent decision making. Journal of Consumer Research, 28(2), 224-238.
調査が及ぼす効果についての実験研究。架空の前提に基づく質問に回答すると、調査対象者はその前提が架空であることを知っているにも関わらず、その後の意思決定でバイアスを被る、という現象に注目する。「ときに、仮にこの候補が犯罪者だったらあなたは投票しますか?」 というような状況ですね。
説明枠組みとして、Wilson&Brekke(1994, Psych.Bull.) のmental contaminationというのを採用する。これ、よく知らないんだけど、ステレオタイプの研究から来ているのだろうか。紹介を読んだ限りでは、表象のアクセス容易性に依拠するタイプの説明だと思う。
で、架空の前提の提示による心的汚染のモデレータとして認知的精緻化に注目するのだが、精緻化水準が高い方がアクセス容易性が高くなって汚染もひどくなるという仮説と、逆に低くなるという仮説がありうる。後者のほうは、まず命題の自動的な処理があって、そのあとで意識的な訂正処理がなされる、という二段階を想定した場合の仮説。Gilbert (1991, Am.Psych.)というのが引用されている。要するに、ひとことで精緻化っていっても、それがシステムIIによる修正を伴っているのかどうかで話が変わってくる、ということであろう。
実験1a. ペンシルバニア大の学生に実験。話題はカンザス州の下院選(そんなの誰も知らない由)。コンピュータ画面上で二人の候補者についての5つの新聞記事を読ませたのち、
- 架空質問条件: 「仮に、Bob Clark候補が1988年に選挙違反で有罪となっていたとしたら、あなたの彼に対する意見は変わりますか?」
- 事実条件: Bob Clark候補が1988年に選挙違反で有罪となっていた、という新聞記事を読ませる。
- 無情報条件: なにもしない。
でもって、最後に投票を求める。
気になってちょっと調べてみたんだけど、事実条件の新聞記事の日付となっている1998年にはたしかに下院選が行われているが、カンザス州第二選挙区の候補はJim RyunとJim Clarkという人だ。新聞記事の発行元となっているManhattan Mercuryのバックナンバーを調べてみたんだけど、類似の記事はみあたらない。どうやらこれ自体フィクションみたいだ。
結果: Bobの得票率は、無情報条件で79%, 事実条件で35%, 架空質問条件で25%。架空質問は意思決定に影響する。
実験1b. ほぼ同じ実験だが、最初の教示で認知的精緻化の水準を操作する:
- 抑制条件: 実験のあいだ中ずっと、画面の隅で変化する数字がすべて奇数だった回数を数え続ける。
- 通常条件: なにもしない。
- 促進条件: 良く考えて答えてくれ、あとで理由を尋ねるからな、と教示。
実験1aの事実条件を削って、3x2の2要因実験。
結果: 無情報条件でのBobの得票率は、精緻化の抑制, 通常, 促進の下で、83, 82, 92%。ところが架空質問条件では、55, 39, 10%。つまり、精緻化を促進すると、架空質問の効果は大きくなるわけだ。
実験2. 著者いわく、やりたいことは盛りだくさんで、
- 実験1の結果の対抗説明として以下が可能である。(1)架空質問じゃなくて、Bobについて質問したこと自体がBobの得票率を下げたんじゃないか(尋問効果説)。(2)対象者は架空質問が実は架空の話じゃないと意識的に解釈したのではないか(会話公準説)。これらの対抗説明を潰したい。
- 架空の投票じゃなくて実際の選択にしたい。
- 架空質問をすごく「ありそうにない」話にしたい。政治家がグレーだなんてありふれてるじゃないですか。
- 架空質問の効果が、信念の構造の変化に伴って生じるのかどうかをみてみたい。
とかなんとか。
というわけで、精緻化の水準(通常/精緻化促進)に加え、架空質問で提示された情報が意思決定に対して持つ関連性(関連性高/低)を操作する。2x2の被験者間計画、統制条件を追加して5セル。
手続きは以下の通り。学生に調査票のブックレットを渡す。まずケーキなどの消費頻度を聴取。次に架空質問を提示(ここで要因を操作する)。で、「全然別の実験です。環境が回答に及ぼす変化を調べたい」と称し、別の部屋に移動させる。その際、廊下でスナックのチケットをもらうように教示する。行ってみると、チョコケーキとフルーツサラダが並んでいて、好きな方をもらってよい(どちらも地元食料品店の「$1」という値札が貼ってある。芸が細かい)。次の部屋に入ってきたら、なんでそっちを選んだの、と問い詰め、それからケーキとフルーツサラダの健康に対する良し悪しを聴取。最後に、架空設問が自分の選択に影響したかどうかを聴取。
架空質問は:
- 高関連性: 「仮に、科学研究の結果、ケーキ類がこれまで考えられていたほどには健康に悪影響をもたらさず、むしろ健康に大きな利益をもたらすということがわかったとしたら、あなたの消費はもっと増えますか?」
- 低関連性: 「健康に大きな利益をもたらす」を「健康にわずかな利益をもたらす」に変更。
さらに精緻化促進群では、架空設問のあとに「良く考えて答えてくれ、あとで理由を尋ねるからな」と付け加える。なお、統制条件ではまるごと提示なし。別のサンプルで操作チェックする。
結果: 廊下でケーキを選んだ割合は、統制条件で26%。低関連性の場合、通常で26%, 精緻化促進で36%。高関連性の場合、通常で48%, 精緻化促進で66%。ロジスティック回帰で、関連性の主効果と、精緻化と関連性との交互作用が有意。つまり、精緻化による効果は関連性が高いときに大きい。
その他、Baron&Kennyの方法でもって、ケーキについての信念がケーキ選択のメディエータになっていると示唆。二番目の部屋での「なんでそっち選んだのよ」質問に対して誰も架空質問の話をしなかったということを根拠に尋問効果説を叩き、「架空設問に影響されたか」質問への回答が全員Noだったということを根拠に会話公準説を叩いている。
さらに、一部の対象者の事後インタビューに基づいてふたつの対抗説明を攻撃。なにもそこまでやんなくても... と思ったけど、これ、面白いから小理屈こねて無理に載せたんじゃないですかね。被験者はことごとく「最初の部屋の質問には全然影響されてない。だってあれ架空の話じゃん、ケーキが身体に良いわきゃないよ」と答えた由である。ははは。
えーと、本研究の理論的貢献は、まず心的汚染理論を(記憶課題じゃなくて)選択課題で再現した点。さらに、精緻化がバイアスの訂正を引き起こさず、むしろ汚染を促進してしまうことを示した点。実務的貢献は、第一に、架空質問によるpush-pollingのテクニックがほんとに効くことを示した点。熟慮してもバイアスを取り除けない。第二に、リサーチ手法としての問題点。フォーカス・グループ・インタビューではよく架空質問を使うし、意思決定の促進のために類推やストーリーなんかを使うことも多いが、ああいうのも皆まずいかもしれない。云々。
消費者行動研究の皮をかぶったバリッバリの心理学の研究で、いささか疲れました。こういうの、できればあまり読みたくないんだけどな。
架空質問を対象者の行動変容のテクニックとして使う例が増えている、というところで、Bowers(1996), NY Times(2000), Sabato & Simpson(1996)、というのを挙げている。順に、Marketing Newsの記事、96年のテキサス州知事選でブッシュの側近カール・ローブがそういうテクニックを使っていたという記事、政治学者が書いた一般向けノンフィクション、らしい。
論文:調査方法論 - 読了: Fitzsimons & Shiv (2001) 「仮に××だとしたら?」的質問による心的汚染