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2014年1月 5日 (日)
ガルブレイスを読む (岩波現代文庫)
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中村 達也 / 岩波書店 / 2012-08-18
数年前に「ゆたかな社会」を読んで、読んでいる最中はとても面白かったんだけど、読み終わったら結局どういう話だったのかわからなくなってしまい、自分の頭の悪さにうんざりしたのであった。
その仇討ちのつもりで読んだ本。著書をもう一冊読むとしたら「新しい産業国家」がよさそうだが、いずれにせよ体系を構築するタイプの研究者ではなく、むしろ「異議申し立て」型の学者であった由。なるほど。
章のあいまにコラム風に、ガルブレイス先生の名台詞集が挿入されていて、これがやたらに面白い。サムエルソンは「経済学者でない人たちはガルブレイスを重要視しすぎ、同じ分野の我々は彼を軽く扱いすぎる」と評したそうだが、たしかに先生の警句はあまりに面白すぎるのである。たとえばこんな台詞。
少なくとも経済学者にとって市場が魅力的に感じられる理由の大半は、市場がすべての事柄を単純化するようにみえるからにほかならない。こみ入った真理よりも秩序だった誤謬のほうがよいのだ。
忠臣蔵 もう一つの歴史感覚 (講談社学術文庫)
[a]
渡辺 保 / 講談社 / 2013-11-12
年末年始の息抜きに読んだ本。著者は高名な歌舞伎批評家で、私自身は歌舞伎には全然関心ないんだけど、この先生の文章はなんとなく味わい深いのである。
たとえばこんな箇所。「古今いろは評林」という江戸時代の研究書にあるという、仮名手本忠臣蔵についての評言を引いて、
「恋なくて恋の情を含みて」というのは名言だと思う。恋はもとより相手があって成り立つ。おかるには早野勘平がいて、おかるの恋は成り立っているが、実は勘平が死んだあとの七段目でもおかるは、恋をしている女の「恋の情」があざやかなのである。だから実際のラブ・シーンはないのに、あたかも恋があったような感じが見ているものにするのである。
これはおかるが勘平の死という現実を知らなかったからではない。おかる自身が恋をする女であり、おかるそのものが恋に生きる女だったからである。相手もいないのに恋する女なぞ世の中にいようがないが、つねに自分の体のうちに恋を持ち、恋に生きている女というのはいるだろう。おかるは、きびしい道徳の下の理想像だから、勘平一人との恋に生きたけれども、本当は師直が看破したように、恋の小間使いなのである。これは決して淫奔というのではない。そこがいわくいいがたく、むずかしいところであるが、恋に生きる、その恋を心にしている女の正体である。
こういう文章を読んで、20代の朧な記憶を振り返り、そういうことであったか、と感慨にふけったりして... 人生の先達の言葉は味読に値するなあ。などと思いながら読んだ。
で、いま気がついたんだけど、この本の初版は81年。数えてみたら、当時の著者はいまの私と同年代だ。あいたたた。。。
ノンフィクション(2011-) - 読了:「ガルブレイスを読む」「忠臣蔵」