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2014年1月 5日 (日)
原因を推論する -- 政治分析方法論のすゝめ
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久米 郁男 / 有斐閣 / 2013-11-13
政治学者が因果推論の方法論をエッセイ風に語る本。大竹文雄「経済学的思考のセンス」の政治学版といった感じである。政治学の面白いところがつまみぐいできるんじゃないかしら、と思って手に取った。アタリでした。楽しく読了。
いくつかメモ:
- マッキンゼーの人が昔書いた「エクセレント・カンパニー」という有名な本があるけど(読んでませんが)、その本の著者は後に「データねつ造して書きました」と告白しておられる由。へー。
- 誰かをあまり強く批判するタイプの本ではないのだけれど、中小企業論の中沢孝夫という方の本についてはかなりはっきりと批判している。「強い企業」の見聞録を読むくらいなら、ローゼンツワイグの「なぜビジネス書は間違うのか」を読みなはれ、とのこと。
- 無作為割り当て実験の例として紹介されていた著者らの実験。ネット調査で、最初にスーパーマーケットなどの写真を見せてから自由貿易の是非について質問すると、最初に工場の写真を見せていた場合に比べて、保護主義的な回答が減ったのだそうだ。それぞれ「消費者としての自分」「生産者としての自分」をプライムしたからだ、という説明らしい。へえ-。面白いなあ。
- 著者は科学的推論について基本的にポパー流の反証主義の立場に立っていて、主要仮説/補助仮説といった話題はほんの数行触れられる程度。そういうものか。
- シングル・ケース研究におけるLeast likely case methodの例としてあげられている研究が面白かった。冷戦期の米ソ軍縮交渉で、科学者のようなtransnationalな行為主体が大きな役割を果たしていた、という指摘があるそうだ(軍事交渉においてさえ非国家アクターの役割が大きい、という意味で国際協調主義を支持するleast likely caseになっている)。Matthew Evangelista という人の"Unarmed Forces" という本が挙げられている。邦訳はなさそう。
- 「社会科学のリサーチ・デザイン」という有名な本があって、かつて論争を呼んだらしいが(「社会科学の方法論争」という本になっている)、著者のまとめによればその論争とは、現象を説明する一般原則の発見に重きを置くか、現象が生じるプロセス自体に関心を持ち、対象を限定した中範囲の理論を目指すか、という対立なのだそうだ。へー。いつかきちんと読まなきゃと思って積んではいるが、どうも大変面倒くさそうな本で。。。
- こういう本を書く政治学者の方は、きっと現実の政治へのコミットを嫌うんだろうなあ、と想像しつつ読んでいたのだが、最終章で日本の政治学の話になって、そうした話題が登場した。政治改革という価値判断に基づく啓蒙主義的な政治学と、経験的・実証的な政治学とは、これまで対立と行き違いを繰り返してきた、とのこと。民主党のブレーンであった山口二郎さんについても頁が割かれている(素人目に文字面だけ読めば、案外に好意的)。現実の政治に対して規範的立場をとるなとか、政策提言するなというわけではないけど、規範的判断と実証的分析とは独立な知的営為なのだ、とのこと。
データ解析 - 読了:「原因を推論する」