elsur.jpn.org >

« 読了:「国際メディア情報戦」 | メイン | Mplus 7.1 で多群因子分析をやるときの魅惑の新機能 MODELオプションについて »

2014年2月14日 (金)

Behar, R., Grima, P., Marco-Almagro, L. (2013) Twenty-five analogies for explaining statistical concepts. American Statistician, 67(1), 44-48.
昼飯のついでに読んだ記事。統計学を教えるとき、ちょっと気の利いたたとえ話なんかがあると、講義も面白くなり出席者も目を覚まそうというものですよね、そこで入門講義に便利なアナロジーをまとめてみました、という内容。American Statisticianという雑誌にはTeacher's Cornerというページがあって、ときどきこういうのが載る。適当に意訳しながらメモしておくと...

  1. 氷山。海面上の一角しか見えないけど、実は巨大である。統計学も同じこと。メディアに出てくるスポーツやらなんやらの統計ばっかりじゃないんですよ。
  2. 指名手配の似顔絵。あの絵を描く担当者は、あいまいな情報のなかから鍵になる要素を選び出して形にする術を知っている。データの分析も同じこと。データ全体をうまく記述する指標を選びましょう。
  3. 火星人の身長。その平均が50インチだったとして、さあ地球人より背が高いでしょうか、低いでしょうか。実は大多数は80インチ以上だったりするかもしれないですよね。平均だけでは不十分ですよ。
  4. 平均のことだけ考えているとひどい目にあうかもしれないよ、というジョーク集。台所で頭をオーブンに足を冷蔵庫に突っ込めば、体全体でみたら適温ですよ、などなど、いまいち笑えない冗談が4つ紹介されている。
  5. シーソー。大人と子供が両側に座ってバランスを取りたかったら、大人はずっと中心寄りに座らないといけないですよね。ドットプロットもこれと同じ。平均で支えられているシーソーのようなものです。
  6. 火星人のバスケット・チーム。火星人の身長が、平均55インチ、SD8インチの正規分布に従うとしましょう。地球人と試合したら勝つのはどっち? 地球人の選手が身長80インチくらいあったとしても(すなわち、地球人の身長が平均68インチ、SDが3インチの正規分布に従うとして、平均+3SD以上だったとしても)、もし火星人が平均+4SD以上の選手を送り出して来たら、きっと負けちゃいますね。(←このたとえ話、一体なにが面白いのかわからない...別に正規分布に従っていなくてもその通りですよね...)
  7. 高速道路のクルマの速度。速度制限サインの効き目を調べるために、通過する自動車の速度を測定しました。平均はだいたい時速50マイルでした。ところが10マイルで走る車が一台、90マイルで走る車が一台ありました。前者はきっとトラクターだからどうでもよい、問題は後者ですよね。異常値というのもそういうもので、値だけでは決められないのです。
  8. 音楽の種類。知っている人が聴いたら「あ、ボレロだ」とわかるけど、知らない人が聴いたらボレロもサルサもルンバも区別がないですよね。確率変数というのもそのようなものです。知らない人にとってはどれも似たようなものだけど、統計学の知識があれば、正規分布とか二項分布といった区別がつくのです。
  9. 完全な球体。地球は完全な球体ですか? 太陽は? ビリアードの球は? 完全な球体なんてどこにも存在しませんよね。統計モデルもそういうものです。
  10. 1ダースの卵の重さ。そのバラツキは、1個の卵の重さを量ってそれを12倍した値のばらつきとは違いますよね? このように、同一の確率分布に従うk個のランダムな値を合計したものは、1つの値をk倍したものとは異なります。
  11. 的(まと)。推定量が不偏であるということは、弾が的の中心のまわりに当たるということ、推定量の分散が小さいということは、弾がまとまった場所に当たるということです。不偏であることが常に最良とは限りません。
  12. 裁判。裁判の目的は、被告が無実だということの論証ではなく、無実だという仮説と矛盾する証拠があるかどうかし調べることです。証拠がないなら有罪にはなりませんが、被告の潔白が証明されたわけではありません。帰無仮説も同じことです。
  13. 指の本数。有意水準5%というのは、ただのキリのよい数字です。私たちの手に指が6本あったら、きっと6%になっていたでしょう。
  14. 傘を忘れることと、見通しのきかない山道で反対車線を走ること。降水確率が10%の日、家に傘を忘れたら取りに戻りますか? 戻らないでしょう? 見通しのきかない山道で、対向車が来る確率が低いからといって、反対車線を走りますか? 走らないでしょう? 全ての決定において誤りの確率を揃えようとするのはおかしいです。
  15. X線写真。お医者さんはX線写真を見るとき、健康な人のX線写真を思い浮かべ、それと比較します。これが基準分布です。幸運にも、既知の確率分布が基準分布のとき、検定統計量のある値がそれに合致している程度を定量化することができます。これがp値です。
  16. 双眼鏡の倍率。サンプルサイズとはそのようなものです。
  17. 100回のうち95回、本当のことをいう人。信頼区間とはそのようなものです。
  18. 正しい推定を出力するコンピュータの数。コンピュータ・ルームで各学生に正規乱数列を与えて、たとえば50%信頼区間を計算させます。で、真の平均を伝え、自分が求めた信頼区間のなかにそれが入っていた学生に挙手させると、だいたい5割くらいの学生が手を挙げるでしょう。
  19. スープを味見するスプーン。スープの味見は小さじで十分。鍋が大きくても関係ありません。サンプルサイズと母集団とはそのようなものです。
  20. 鍋をよくかき混ぜること。味見の際に大事なのはそれです。標本は無作為でなければなりません。
  21. 川の深さ。川を歩いて渡るとしましょう。どこかに足がつかない箇所があるとわかったら、その他の場所の水深を調べても仕方がありません。このように、サンプルサイズを増やすことが推定値の有用性を高めるとは限りません。
  22. 血液検査。血液型を調べる場合、たった一滴の血液で十分です。どの血液の一滴を調べても同じだからです。このように、パラメータの推定に必要なサンプルサイズは、母集団における変動の大きさによって決まります。
  23. 消防士の数と火災被害。集まった消防士の数が多い火事ほど被害も大きいでしょうが、そこに因果関係はありません。このように、相関と因果は異なります。
  24. 試験のためのコンサルタント。あなたはいま試験を受けなければなりません。出題範囲には100個の事柄が含まれていて、あなたはどれも知りません(←すごい状況だ)。そこで、友達を二人連れて行くことを許可します。どんな友達を連れて行きますか? まず一人目は、たくさんの事柄を知っている友達を選びましょう。では二人目は? 2番目に物知りな友達じゃなくて、1番目の友達が知らないことを知っている友達を選ぶのがよいでしょう。回帰における変数選択とはそのようなものです。
  25. ゴミを捨てるとき。大事なものを捨ててしまわないよう注意しましょう。残差もそれと同じ。大事な情報が含まれていないかどうか注意しましょう。

25個もあるなら、少しはこみいった話も出てくるかと思ったのだが、案外に入門も入門レベルな話題ばかりであった。統計学を教えているピンからキリまでのいろんな人に、「講義用の必殺のジョークをひとつ教えてください」という郵送調査をやったら、いろいろ面白かろう。

論文:データ解析(-2014) - 読了:Behar, Grima, & Marco-Almagro (2013) 統計学を教えるための25のたとえ話

rebuilt: 2020年11月16日 22:58
validate this page