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2014年2月18日 (火)

 流れ流れて市場調査関係の仕事をしているが、この分野には、市場にある製品に対する消費者の知覚を二次元空間の布置で表現して(「知覚マップ」などという)、製品開発やら広告やらに役立てよう、という発想がある。調査に基づき製品が布置する空間をつくっておいて、消費者に好まれている製品は西の方角にあります、この方角に新製品を投入すれば売れるでしょう、とか。現行製品はもうちょっと北に動かしたほうがいいんじゃないですか、とか。もっと図々しく、知覚マップ上の位置で上市後のシェアを説明しちゃおう、なんていう考え方もある。そういうわけで、消費者調査データの空間表現という課題は、単に多変量データの視覚化というだけにとどまらない深刻さを持っている。
 そういう文脈でよく引き合いに出されるのが、現在ある外資系市場調査会社が提供しておられるPERCEPTORなるソリューションで、これは元をたどれば製品開発研究の神様 Glen Urban の論文に始まっている。なんでも、Urbanの弟子Blanchardが起こした会社がNovaction、彼はのちにこの会社を上述の会社に売った、といういきさつだそうです。

Urban, G.L. (1975) PERCEPTOR: A model for product positioning. Management Science, 21(8), 858-871.
 というわけで、仕事の関係で興味をひかれ、Urbanの元論文に目を通して見た。とはいえ、もう40年近い月日が経っているから、現在PERCEPTORという名前で売られているソリューションとはほとんど関係ないだろう。ほとんど考古学的な興味である。

えーっと... まずシェアを分解する。ある新製品が獲得する長期的な市場シェアをm, ターゲット集団におけるトライアル購買率を t, トライアル購買者におけるシェアを s として
m = ts
認知・配荷の下でのトライアル確率を q, 長期的な認知率を w, 長期的な配架率を v として
t = qwv
2状態マルコフモデルを考える。ブランド番号 i を買った人が、次に j を買う確率を p_{ij}とする。世の中に、当該の新製品 1 と, そのほかすべて 2 しかないとしよう。ブランドスイッチによって購買頻度が変わったり買いたい製品がなかったりしないと仮定すると、トライアル購買者におけるシェア s はマルコフモデルの定常状態、すなわち
s = p_{21} / (1 + p_{21} - p_{11})
になる由。そうなんですか、はい、信じます。

 では、どうやってqを求めるか。
 製品と知覚のジョイント・スペースを考える。ブランド b の認知-未購買者からみた、ブランドbの次元 y における座標を x_{by}、理想点の座標をI_yとする。製品座標x_{by}は非計量MDSなり因子分析なり判別分析なり、どうやって求めてもいいんだけど、因子分析で求めるならば
x_{by} = \sum_a f_{ya} r_{ba}
ただし、aは属性, f_{ya}は因子得点の係数、r_{ba}は標準化した平均評定である。理想点座標 I_yのほうは、Carrol & ChangのPREFMAPなり、「理想のブランド」についての評定値の因子分析なりで求めるがよろしい。
 このくだり、消費者間異質性は一切考えていないわけだけど、考えたかったら適当にグループ分けしてやんなさい、とのこと。この時代の論文なので、異質性をモデルに組み込む気はないわけだ。
 で、この製品のトライアル購入確率は、理想点からの平方距離 d^2_Bの一次関数だと考える。
q = \alpha_0 + \alpha_1 d^2_B
ただし、この距離はさっきの知覚空間ではなくて、それをT_{yz}で回転した空間から求めるとのこと。すなわち、
x'_{bz} = \sum_y x_{by} T_{yz}
I'_z = \sum_y I_y T_{yz}
と回転しておいて、各次元に重み h_z をつけて
d^2_B = \sum_z h_z (x'_{bz} - I'z)^2
だそうである。回転行列 T_{yz} と重み h_z はPREFMAPで求めよ、とのこと。うーん、ここでわざわざ回転するくらいなら、最初からPREFMAPで空間をつくっておけばいいんじゃないかしらん...?

 リピート購入確率 p_{11} も、同じやり方で認知-トライアルの空間を作っておいて、
p_{11} = \tilde\alpha_0 + \tilde\alpha_1 \tilde{d}^2_B
と考える。なお、p_{21}は「経験的に決定される」。つづきを読んでわかったが、直接聞いちゃうのである。

 こうして新製品の長期的市場シェア m が推定される。では、そのシェアはどの競合製品からやってくるのか。
 まず、想起集合に入りやすい競合製品は、その分シェアが奪われやすい。また新製品に近い奴は、その分奪われやすい。というわけで、既存ブランド b のシェアの低下 k_b は、その想起率を e_b, マップにおける新製品との距離をD^2_{bB}として
k_b = m * (e_b / D^2_{bB}) / (分子の合計)
うーん... ここでいうマップってのは、誰にとってのマップなのだろうか。トライアル購買者かなあ...

 後半は実例。まず、データ収集。
 6つの製品カテゴリについて、想起ブランド数、想起集合サイズ、売上の80%を占める上位ブランド数を調査。シャンプーだと、想起ブランド数30, 想起集合サイズの中央値4, 上位20ブランドで売上の80%、だったそうだ。
 次に、想起集合にあるブランドについて、一対比較の類似性判断、選好判断、ブランド評価を聴取する調査。
 で、インタビューでもって、obtain bipolar brand rankings on the scales generated by the semantic procedures だそうだ。よくわかんないけど、要するにSD法的なブランド評価項目群を作るんでしょうね。ここまでが準備。
 いよいよベース調査。対象者に、想起集合、類似性判断、既存ブランドのsemantic scales上での評定、選好評価(恒常和法でやるらしい)、ブランド選択、を求める。
 で、コンセプト・テスト(concept awareness surveyと呼んでいる)。別の対象者に、新製品の絵とコンセプト文を見せて、この新製品と既存製品についてベース調査と同内容を聴取。
 最後に、いわゆる使用後評価(if the brand idea looks reasonable after the concept surveyと書いてある。どうやらコンセプト・テストの対象者とは別らしい)。新製品を実際に使用させた後、ベース調査と同内容を聴取。選択課題で新製品を選ばなかった人に、購入確率を直接評定 (これが p_{21}になる)。

 推定。
 さっきの説明とダブっているんだけど、著者いわく、まずは知覚の異質性を考えなきゃいけない。そこで、等質な対象者群をつくってそれぞれについて分析しなさい。方法は、非計量データのINDSCALで得たウェイトで人をクラスタリング (類似性判断の非計量MDSをやるということであろう)、評定データから得た因子得点のクラスタリング、ないしQ-type 因子分析。ううむ、時代だなあ...
 知覚マップは、類似性判断の非計量MDS、ないし、行を人x認知ブランド, 列をブランド評価項目にとったデータの因子分析で求めるのがよい、両方やって比較しなさい。実例としては、たとえばカテゴリ「カナディアン・ビール」で(←それってカテゴリなのか?)、8製品、17項目の評定を求め、2因子を抽出、ヴァリマクス回転でpopular軸とstrong taste軸を得た。因子得点の平均を製品の座標にした。いっぽうMDSもやって... 云々。
 で、PREFMAP。理想点モデルとベクトルモデルを試す。よくわからないんだけど、理想点モデルには3通りのオプション(Phase I, II, III)がある、云々。ビールの例では、どのやりかたでもpopular軸が選好にとって重要であった。
 最後にシェアのためのパラメータの推定。ブランドをケース、選択率を従属変数にして回帰する。マップ自体は市場の平均的知覚であり、実際には個々人の想起集合が異なるので、なんか掛けたり割ったり工夫しているけど、まあいいや、省略。
 最後に、実際のシェアとの比較。だいたい当たった由。

 いやー、細かいところはよく理解できなかったし、いずれにせよ仕事の足しにはならないけれど、時代のちがいが感じられて面白かった。
 なにしろ話が素朴すぎて、これじゃ学術論文なんだか実務家向けガイダンスなんだかわからない。こんな論文は、いまMarketing Science誌をめくっても絶対載っていない(現代の論文は、よく言えば、非常に高度に洗練されている)。マーケティング・サイエンス黎明期の息吹を感じますね。この頃はきっと面白かっただろうなあ。
 PREFMAPの細かい話が説明もなく引き合いに出されて、よく理解できなかったのだけど、おそらく当時においては常識的な知識だったのだろう。関係者も少なく、ソフトも少なく、みんなが同じソフトを使っていたのかもしれない。

 特に関心をひかれたのは、ブランド評定が人xブランドx項目の三相データになっているのを、人xブランドを行、項目を列にして縦積みしなさい、とはっきり書いているところ。Srinivasan, et al. (1989)いうところの total analysis, Dillon, et al.(1985) いうところの extended data matrix アプローチである。いまどきこういう縦積みを推奨する専門家はいないんじゃないかと思うが、マーケティング・リサーチの実務ではですね、これが今でも広く、ひろーく使われているように思うのです。ああいうの、UrbanさんやHauserさんが源流じゃないかと思っているのだけれど、よくわからない。因子分析の歴史ということでいえば、50年代にはすでにOsgoodらが三相データを散々分析していたはずだが、あれも縦積みしていたのだろうか。
 ブランドの項目評定の因子分析と類似性評定のMDSを比較して一致することを確認すべし、なんてアドバイスも、初めて聞いた(どっちでもいいから良いほうを使いなさいという話ではなく、手続きとして比較が推奨されているのである)。それとこれとは全然別物だろうと思うんだけど。多変量解析手法ユーザのこういうスタンスも、案外、時代とともにどんどん移り変わっていくものなのかもしれない。

論文:マーケティング - 読了:Urban (1975) 製品ポジショニングの最新鋭モデル PERCEPTOR

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