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2014年4月 2日 (水)
Roberts, J.H., Kayande, U., Stremersch, S. (2013) From academic research to marketing practice: Exploring the marketing science value chain. International Journal of Research in Marketing.
マーケティング・サイエンス(MS)はマーケティング実践にインパクトを与えているか、という実証研究。ただの引用分析ではなく、調査をやっている。妙に面白かった。
まずフレームワークとして、MSバリュー・チェーンなるものを提示する。それは次の3つの要素からなる。
- (1)知識生成。インプットは先行研究や心理学などの基礎研究領域、アウトプットは論文である。関与するのは、研究者と仲介者(後述)。
- (2)知識変換。インプットは論文、アウトプットはツールである。関与するのは研究者、仲介者、マーケティング・マネージャーのすべて。
- (3)知識適用。インプットは論文とツール、アウトプットは意思決定である。関与するのは研究者、仲介者、マネージャーのすべて。
ここで仲介者(intermediaries)というのは、リサーチ・ファーム、戦略コンサル、マーケティング・コンサル、企業のMS部門。きっと日本でこの研究やったら、市場調査会社は外されて代わりに広告代理店が入るでしょうね。悔しいのう、悔しいのう(はだしのゲン風に)
論文もツールも意思決定もたくさんあるので、絞り込みを行う。
まず意思決定。MSのジャーナルや教科書をみてリストを作り、体系をつくって、実務家や専門家と相談して、次の12エリアに絞った由: ブランド、新製品、マーケティング戦略、広告、プロモーション、価格、販売、営業部隊、チャネル管理、顧客選択、顧客関係、マーケティング投資、品質管理。
つぎにツール。同じやり方で次の12個に絞る: セグメンテーション、知覚マッピング、調査ベース選択モデル、パネルベース選択モデル、発売前市場モデル、新製品モデル、マーケティング反応モデル、営業部隊配置モデル、顧客満足モデル、ゲーム理論モデル、顧客生涯価値モデル、メトリクス。
最後に論文。この手続きがすごくしつこくて可笑しいのだが(本文中の数式の本数を数えてみたり、専門家にアンケートしたり...)、要するに、影響力のある論文を100本選び、さらに実務と研究の両方でインパクトがありそうな上位20本を選ぶ。ここ、面白いので、全部挙げます。
- Green & Srinivasan (1990) J.Mktg. コンジョイント分析。
- Louviere & Woodworth (1983) JMR. 累積データの選択モデルらしい。
- Aaker & Keller (1990) J.Mktg. ブランド拡張。
- Cattin & Wittink (1982) J.Mktg. コンジョイント分析のレビュー。
- Guadagni & Little (1983) Mktg.Sci. 題名は「スキャナデータのためのブランド選択のロジットモデル」。スキャナデータってそんな昔からあるのか...
- Mahajan et al.(1990) J.Mktg. 新製品普及モデルのレビュー。
- Rust et al. (1995) JMR. 題名から見て、サービス品質と財務の話らしい。
- Hauser & Shugan (1983) Mktg.Sci. 題名は「防衛的マーケティング戦略」。どういう内容なのかなあ。
- Fornell, et al.(1996) J.Mktg. ACSIを振り返る、というような題名。
- Griffin & Hauser (1993) Mktg.Sci. おおお、有名な"VoC"論文だ。
- Day (1994) J.Mktg. 題名は「マーケティング駆動的組織の諸能力」。
- Punj & Stewart (1983) JMR. クラスタ分析のレビュー。えええ... あれ有名な論文だったのか...
- Fornell (1992) J.Mktg. SCSBっていうんだっけ? スウェーデンのACSIみたいなやつ。
- Vanheede et al. (2003) JMR. プロモーションによる売上増のうち何割がブランドスイッチか、という奴。ええええ? これも前に読んだけど、そんなに有名な論文だったの? 門外漢にはわからないものだ...
- Hunt & Morgan (1995) J.Mktg. 「競争の比較優位理論」。
- Anderson, Fornell, & Lehmann (1994) J.Mktg. これもスウェーデンのCSモデルの話。CSって一大領域なんだなあ。
- Simonson & Tversky (1992) JMR. 出ましたTversky! 選択の文脈効果。それにしても、これってMSの論文だということになるのか。心理学者が賭場を荒らしに来た、という風には考えないのかな。
- Boulding et al. (1993) JMR. 「サービス品質の動的プロセスモデル:期待から行動意図へ」。へー。
- Parasuraman, Zeithaml, & Berry (1985) J.Mktg. サービス品質についてのレビューらしい。
- Keller (1993) J.Mktg. 顧客ベースブランド・エクイティの論文。
ちなみに、研究方面のインパクトと実務方面のインパクトを比べると、研究で高く実務で低い例は、20本には選ばれてないけどMorgan & Hunt (1994)「リレーションシップ・マーケティングの関与-信頼理論」。研究で低く実務で高い例はAaker&Keller (それ、なんとなくわかるなあ...)。どちらでも高い例はGuadagni & Little (1983)。だそうだ。
上位20本、テーマがかなり重複しているけど、そういうものなのかしらん。同じ著者が複数回でてくるのもちょっと不思議だ(Fornellが3回、KellerやHauserが2回)。案外に研究者の層が薄い世界なんかもしれない。それにしても、いやー、こうやって無責任に高いところから眺めるのはなんだか楽しいなあ。日本の先生方も、ひとつ頑張ってくださいまし。(←大きな態度)
で、調査。
- マネージャー調査。対象者は94名、マーケティング・マネージャーが集まる組織の協力で集めたそうだ。12個のツールの影響力、MSの12エリアの影響力、意思決定の12の分野が企業にとってどれくらい重要か、について評価を求めた。
- 仲介者調査。Mktg.Sci.に論文を載せてたり、学会に来たりした人、34名。所属は、マッキンゼー、ニールセン、ミルウォード、GM, IBM, キャンベルスープなど。マーケティング実践に対する、20本の論文の影響力、12個のツールの影響力、意思決定の12の分野におけるMSの影響力、について評価を求めた。
- 研究者調査、84名。調査項目は仲介者と同じ。
- 20本の論文の著者に調査。その論文を書く際に影響を与えた他の研究者はいましたか? その論文の背後にある重要なアイデアや先行研究は? その論文を書く際にマネージャーの影響はあったか? その論文の背後にある実務的なアイデアは? その論文を書く際にマネージャーと協力しましたか? その研究を普及させるためになにか努力しましたか? 当時のあなたのキャリアのステージは? その論文が影響力を持ったのはなぜだったと思いますか?
結果。すごくこまごまと書いてあるので(気持ちはわかる。データ収集大変だったもんね)、ポイントだけ。
- 意思決定分野:
- 企業にとって重要だと評価されたのは、まずは価格。いちばん低かったのはプロモーション。ほか、B2BとB2Cでかなりちがう。
- MSが影響を与えていると評価された分野はどれか。マネージャー/仲介者/研究者のいずれも、ブランド、価格などを高めにつけた。研究者はプロモーションをもっとも高くつけたが、マネージャーはプロモーションを一番低くつけた(プロモーション研究者の方、かわいそうに)。3群の一致を調べると、研究者と仲介者、仲介者とマネージャー、研究者とマネージャー、の順に一致が高い。
- マネージャーの評価に基づき、横軸に企業にとっての重要性、縦軸にMSの影響をとって、分野が布置する散布図を描く。B2B/B2C別に描くと、どちらも正の関連がありました。(重要な分野に影響を及ぼせていてよかったね、という楽観的な主旨であろうか、それとも、どいつもこいつも企業人が重要だと思っている分野に群がりおって、というシニカルな主旨か)
- ツール: 実践に影響を与えていると評価された上位3位は、研究者によればセグメンテーション、知覚マッピング、顧客生涯価値モデル。仲介者によればセグメンテーション、調査ベースの選択モデル、累積ベースのマーケティングミクスモデル。マネージャーによればセグメンテーション、メトリクス、CSモデル。というわけで、セグメンテーションを除きかなり評価が異なる。とかなんとか。
- 論文: 20本の論文への認知率は、研究者で7~9割、仲介者で5~9割程度 (企業勤務だけどほとんど研究者のような人たちなのであろう)。実践へのインパクトの評価は、研究者と仲介者でだいたい一致するんだけど、大きくずれるのもあって、Simonson & Tversky なんかは仲介者のほうが高く評価し、いっぽうFornell (1992) は研究者のほうが高く評価する。へえー。
- 著者調査の結果。省略。
- 意思決定、ツール、論文における2004年からのトレンドについて。省略。
考察。MSは大事な分野でお役にたっている模様です(楽観的な主旨であったか...)。研究者のみなさん、インパクトのある研究を追求するのは悪いことじゃありません。トップ20論文の著者様たちにいわせれば、コンサルティングとの共生、そしてgoing againt the grain at the right time が大事みたいですよ (←良いタイミングで時流に抗する、というような意味合いかしら)。云々。マーケティング・マネージャーのみなさん、本論文をMSの入門資料として役に立ててください。云々。
というわけで、細かいところは飛ばしてざっと目を通しただけだけど、読み物として楽しく読了。
感想。実践者が研究者に期待するのは、現在の業務に寄与するfirmな理論的基盤や有用なツールである場合もあれば、通念を揺り動かす斬新な洞察や問題提起である場合もあるだろう。だから、研究者があさっての話をしていると実践家が「いや今日や明日の話をしてくださいよ」と思うこともあるし、逆に研究者がよかれと思って一生懸命すぐに役立ちそうな話をしているのに、実践家が「いや今日・明日のことは我々のほうが良く知っている、中途半端に現実に色目を使った話をしないで、むしろあさって・しあさってのことを考えてくださいよ」と思うこともある。こういう行き違いは実践と研究が接するどの分野でも起きることで、マーケティングも例外ではないと思う。
この論文は、研究についても実践についても今日・明日のレベルに注目していて、筋が通っていると思う。でもこれとは別に、あさって・しあさってのレベルに注目することもできるのではないか。つまり、MSがビジネスを変えることがあるか、実践家はビジネスの変革に際してMSになにか期待するか... という問題設定もありうると思う。
論文:マーケティング - 読了:Roberts, Kayande, Stremersch (2013) マーケティング・サイエンスはマーケティング実践にインパクトを与えていると思いますか