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2014年5月 8日 (木)
先日読んだ論文で、「正直に答えないと、正直に答えてないなってわかっちゃうよ」と信じ込ませて回答させると、回答が社会的に望ましい方向に歪むバイアスが消え、正直に答えるようになる、という現象のことをbogus pipelineと呼んでいた。へええ、と思って調べてみたら、ちゃんと有斐閣の心理学辞典にも載っている用語なのであった。ご、ごめんなさい...知りませんでした... (←正直な回答) ないし、一般教養の心理学のコマを持ってた頃は覚えてたけどすっかり忘れてました... (←社会的に望ましい回答)
Roese, N.J., & Jamieson, D.W. (1993) Twenty years of bogus pipeline research: A critical review and meta-analysis. Psychological Bulletin, 114(2), 363-375.
というわけで、今度の原稿の役に立つかもしれないのでめくってみたレビュー論文。Psychological Bulletinなんて、昔なら大層気が重かったけど、いまは昼飯のついでに楽々と目を通せる。それだけ真剣さが減ったということである。
いくつかメモ:
- オリジナル(Jones & Sigall, 1971, Psycho.Bull.)の手続きでは、印象的な外見をした生理モニタリング・マシーンを提示し、これであなたの真の態度が測れますと教示。手法の通称はここからきている(「魂へのパイプライン」なのだ)。被験者の身体に装着し、キャリブレーションと称した課題をやって信じ込ませる(その前に別の実験者が聴取しておいた答えをこっそり使って騙す。せこい)。で、リッカート尺度上で「質問に対するマシーンの出力を当ててください」という課題をやる。とはいえ、後続研究における手続きは多様で、たとえば最後の課題で単に自分について回答させるという手続きもある。
- 研究史を3期に分けてレビュー。
- 第1期(1970-1974)は提案から普及の時期。ボーガス・パイプライン(BPL)は自己呈示のバイアスを除去する手続きと捉えられ、人種の知覚と対人魅力の研究に用いられた。とはいえ、この頃からいろいろ批判はあった。
- 第2期(1975-1981)は、その解釈をめぐって大いに揉めた。これは印象管理理論 vs. 認知的不協和理論の対立だったのだそうだ。手続きによる回答の変化を、前者は印象管理戦略の産物と捉えたのに対し、後者は認知的不協和低減の動機付けの高まりと捉えた(つまり、正直に答えるようになったんじゃなくて、本物の態度変容が起きている)。さらに、装置を装着しちゃうとなんか社会的に望ましくない回答をしなきゃならないような気がしてくるんじゃないですか、という穿った批判もあった(面白いなあ。Arkinという人だそうだ)。なお、たいていの研究は、単に回答の変化を調べたり社会的望ましさ尺度との相関を調べたりしているだけなんだけど、いろいろ工夫して「真実を答えるようになるか」を調べた実験もあって、やはりBPLのせいで真実を答えやすくなる由。
- 第3期(1982-1991)になると、他の領域でBPLを確立済のツールとして使う例が増えてくる。また、意見の報告ではなく事実の報告をさせる例が増える。80年代後半から社会心理学での利用例は激減。いっぽう、薬物使用を自己報告させる際のツールとして盛んに用いられるようになり、手続きも簡略化された。bogusじゃなくて本物の生理的測定をやっちゃうこともある(なるほど、薬物使用ならありうるなあ)。
論文後半はメタ分析。そこまでの関心はないので、スキップ。
著者らいわく、確かにBPLは社会的望ましさバイアスを除去していると考えられる。最近使われてないけど、BPLは有益な道具です。でも測定対象があまり強くない態度であるときは気を付けたほうがいい。云々。
本筋とあまり関係ないんだけど、締めくくりの一節が面白かった。「この重要な手法がほとんど打ち捨てられてしまっている理由を、別の角度から説明できるかもしれない。社会心理学におけるBPLの栄枯盛衰は[...]研究における流行りすたり(faddishness)の教科書的な例であるように思われる。[...]BPLの適用にはもともと、認識論的的な諸問題、妥当性に関する諸問題が備わっている。これらの問題は、確かに困難ではある。しかしそうした困難さは、一見明白にみえる知見の後ろにいつだって隠れているものだ。過去の研究者たちがそれに直面していようが、していなかろうが、そのことは変わらない。本論文で取り上げた諸問題に取り組むことで、将来の研究者たちが来たるべき研究においてBPLの相対的利点を活用できるようになることを望む」。
いやー、それにしても、オリジナルの凄そうなマシーンってどんなのだったのか、見てみたいなあ。ネットに原論文が落ちていたのをめくったけど、写真は載ってなかった。
論文:調査方法論 - 読了: Roese & Jamieson (1993) ボーガス・パイプライン・レビュー