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2014年5月11日 (日)
輿論と世論―日本的民意の系譜学 (新潮選書)
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佐藤 卓己 / 新潮社 / 2008-09
あまりに面白すぎてうんざりし、途中で放り出してしまう本、というのがあるように思う。この本もそんな一冊で、読みかけのまま三年ほど書棚の奥にあった。このたび意を決して無理矢理読了。
輿論(ヨロン, public opinion)と世論(セロン, popular sentiments)を区別すべきだ、という主張を軸に、戦後言論史を縦横に語る。
いくつか覚え書き。
- たとえば小山栄三という人。戦前にナチス・ドイツの新聞学を日本に紹介、39年に大学から官庁に移り、戦時宣伝研究の第一人者に。終戦直後の9月、彼はGHQから出頭命令を受け、「国民の世論はどう変化したでしょうか」と問われる。彼はすでにギャラップ調査などアメリカの科学的調査に通じていた。占領軍に能力を買われて国立世論調査所初代所長に。のちに立教大に戻り、世論調査協会会長などを歴任する。この人に限らず、戦時宣伝研究と戦後マス・コミュニケーション研究は意外なほどに連続している。著者いわく、輿論調査は戦後民主化の産物ではない、それは「戦前からの密輸品」である。へええええええ。
- 海軍技術研究所は戦争心理対策本部を持ち、東京帝大文学部心理学科出身のスタッフを擁していた(兼子宙、池内一ら。なんと、のちの社会心理学のビッグ・ネームではありませんか?)。彼らはレヴィンのゲシュタルト心理学を学んでいた(レヴィン自身はユダヤ系で、すでにアメリカに亡命していたんだけど)。戦後彼らが設立したのが輿論科学協会(なんと、いまでも健在ですね)。民間調査機関ではあるが、設立資金は農水省の農村情報調査員の予算から割かれた。彼らはギャラップより一年早く無作為抽出法の選挙予測を行っている。
- 占領下日本では世論調査が盛んに行われた。たとえば祝祭日を決める際、総理庁は大規模な「祝祭日に関する世論調査」を行っている。こうした世論民主主義はGHQへの牽制でもあった。占領終了後、国立世論調査所は行政整理で時事通信社調査室と合併、現在の中央調査社となる(へえええええ)。
- 東京オリンピック前後の世論の変化について、藤竹暁による研究がある由。NHK放送世論研究所「東京オリンピック」(1967)所収。こ、これは... どうにかして読んでみなきゃ...
日本近現代史 - 読了:「輿論と世論」