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2014年7月10日 (木)
仕事関連で目を通した論文のメモを総ざらえ。これでたぶん全部だと思うんだけど...
Brown, S.P., Stayman, D.M. (1992) Antecedents and consequences of attitude toward the ad: A meta-analysis. Journal of Consumer Research, 19, 34-51.
有名な雑誌に載っていた広告プリテストに関する研究報告に目を通してみたら、これがもうなにがなんだか分からない内容で、お嘆きであった皆様(俺だ)、お待たせしました。類似した問題を扱っている断然マトモな論文を発見。救われた思いである。
たとえばARF copy testing projectの研究報告では(←こないだ読んだ奴だよ、全くもう)、広告効果の最良の指標は広告への好意度であると示唆された。ああいう報告はどのくらい頑健なのか。広告への態度がブランドへの態度に及ぼす影響は、なにに媒介されていて、どのくらい強いのか。メタ分析しましょう。という論文。
広告への態度を測っている43本の論文を集めた。ここ、ちょっと面白いのでメモしておくと... 集めた期間は1981年から1991年6月まで。なぜ1981年かというと、広告への態度という構成概念が登場したのが、Mitchell & Olson (1981, JMR), Shimp (1981, J.Adv.)なのだそうである(←意外に歴史が浅い...)。まずは、JCR, Adv.Cons.Res., JMR, J.Adv., J.Adv.Res., J.Mktg, J.Acad.MS., Current Issues & Res. in Adv. の8誌から集めた。さらにABI InformとPsychlitを探したが、もう見つからなかった(前者はProQuestが持っているDB。後者はかつてAPAが出してたPsycLITのことでは?)。さらに、bibliographiesや個人的伝手で探したのを追加した。とのこと。
研究の数は47個。2変数の関連性の効果量指標として単相関を使う。不幸にして単相関が報告されていない場合は検定統計量から無理矢理でっちあげる(詳細略)。
研究の特性として次の11点に注目する。(1)広告への態度を測っている項目は単一か複数か。(2)対象者は学生か。(3)広告への感情(feeling)を操作しているか、個人差を調べているだけか。(4)単一の感情を調べているか、複数の感情を調べているか。(5)提示するブランドは既知か。(6)製品は一般的な反復購買製品か。(7)広告は印刷物かTVか。(8)広告は他の材料のなかに埋め込まれているか。(9)広告に対するあなたの反応を調べますと教示しているか。(10)被験者内計画か被験者間計画か。(11)研究の関心の中心は広告への態度か。
結果。
関連性を検討されることが多い5つのペアについてみると(研究数は12~33件)、測定誤差修正後の相関係数の中央値は、<広告への態度-ブランドへの態度>間で0.68, <感情-広告への態度>0.55, <広告の認知-広告への態度>0.48, <広告への態度-購入意向>0.36, <広告への態度-ブランドの認知>0.32。(←ここでいう認知(Cognition)って、どういう項目なんだろう?)
相関係数の等質性を調べると、どのペアでも等質性がない。そこで、11個の特性のそれぞれで研究を分割し、サブグループごとに相関の分布を調べて比較する(←分割した結果、研究数1なんて箇所も出てくるんだけど、結構強気に読み解いている...)。その結果は:
- (1)広告への態度を複数の項目で測っても、相関係数はそんなには上がらない。せいぜい<広告態度-ブランド態度>の相関が上がったくらい。
- (2)対象者が学生だと相関が上にぶれるペアがある: <感情-広告態度>、<広告認知-広告態度>、<広告態度-購入意向>。
- (3)感情を操作しない方が、<感情-広告態度>の相関は高くなる。
- (4)複数の感情を測っても、<感情-広告態度>の相関は変わらない。
- (5)既知のブランドだと、<広告態度ーブランド態度><広告態度-購入意向>の相関は上がるが、他のペアの相関は上がらない。広告への態度がアウトカムに与える効果はブランドの既有知識があるときに強くなると解釈できる。
- (6)商品が一般消費財だと、<感情ー広告態度><広告態度ーブランド認知>の相関が下がる。いっぽうアウトカムへの相関には効かない(←なるほどね。一般消費財の場合、広告に伴う感情的経験によって広告への態度を変えるのはやや難しいが、広告への態度がブランドへの態度形成に及ぼす影響が低いとはいえないわけだ)
- (7)TV, (8)埋め込み, (9)教示なしのほうが、<感情-広告態度>の相関が高く<広告態度-購入意向>の相関が高い。これはメッセージの精緻化の程度が低いからだと解釈できる。しかし<広告態度-ブランド認知>の相関は低くなるし、<広告態度-ブランド態度>の相関には効かない。理由はよくわからん由。
- (10)被験者内計画と被験者間計画で相関が違う箇所がある。理由をいろいろ考察しているけど省略。
- (11)論文の焦点が広告への態度だと、<感情-広告態度><広告態度-ブランド態度><広告態度-購入意向>の相関が上がる。公刊バイアスである。はっはっは。
以上を回帰分析で再検討(省略)。また、4つのパスモデルを比較して、dual mediation 仮説というのを支持している。すなわち、広告認知→広告態度というパスと、ブランド認知→ブランド態度→購入意向というパスがあって、広告態度からブランド認知とブランド態度の両方にパスが刺さる(でもブランド態度からの広告態度への逆向きのパスはないし、広告態度から購入意向へのパスもない)、というモデル。
dual mediation 仮説という考え方のどこが面白いのかピンとこなかったのだが、考察を読んでみると、どうやら対抗馬としてフィッシュバイン・モデルがあるようだ。ああそうか、フィッシュバイン流にいえば、ブランドへの態度はブランド属性についての信念と評価で形成されるわけだから、広告への態度からブランドへの態度に直接パスが刺さるという示唆はこれに反するわけだ。とはいえ、このパスはあまり強くない点に注意せよ、むしろブランド認知を経由した間接効果が大きいのだ、とのこと。
その他、結果のひとつひとつについて丁寧に考察しているけど、省略。
なるほどねえ。。。
この論文だけでは、個別の構成概念を測定している項目についてイメージしにくいのだけれど、それは私がこの種の研究を読みつけていないからであろう。この論文でのメタ分析の手法が現在でも通じるかどうか、よくわかんないけど、まあそれも枝葉の話だ。ともあれ、頭がすっきりしました。
だいたい「広告プリテストで得られる指標のうち購入意向と最も関連しているのは広告への好意度か?」なんて、ああいう問いの立て方自体が軽薄なんだよな!と意を強くした次第である。実務家だからどんなナイーブな問いを立てても良いってことにはならないですよ。答えはブランドの既有知識によっても広告メッセージの精緻化レベルによっても財の性質によっても変わってくる。その構造を理解することが、結局は実務的にも有用な示唆をもたらすのだ。うむ!
論文:マーケティング - 読了:Brown & Stayman (1992) 広告への態度は何に影響され何に影響するのか