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2014年8月 5日 (火)
R.A.フィッシャーの統計理論―推測統計学の形成とその社会的背景
[a]
芝村 良 / 九州大学出版会 / 2004-03
近代統計学の父(?) R.A.フィッシャーの研究とその社会的文脈を辿る、統計学史の本。著者の博論だそうです。
面白かった箇所をメモ:
帰無仮説や有意水準といった新しい概念を導入し、従来明示的でなかった統計的検定の手続きを形式化したフィッシャーの業績は、高度な専門的知識を持たず、農事試験の現場から得られた洞察力を理解する経験を持たない農業従事者と、これらを持つ専門家間での実験結果の解釈をめぐるコミュニケーションの規則としての機能を、有意性検定に付与したといえる。従来、フィッシャーの有意性検定論は専ら「科学的な帰納的推理の論理」から論じられてきたといってよい。しかしながら [...] 農事試験の領域においてフィッシャーによって展開された有意性検定が、この領域で受け入れられていった過程は「科学的な帰納的推理の論理」だけでは説明がつかない。このことは[...]農事試験の目的が、純粋な科学上の目的で行う実験と同一視できないことと関連がある。従って、フィッシャーの有意性検定について論じる際は、それに対して資本化された農業における農事試験の論理が相当程度影響していることに留意する必要がある。(p.87)
[検定論をめぐるフィッシャー-ピアソン論争について、両者の] 相違点は、①検定の目的の違い、②自由度の概念の有無、③有意水準の設定の有無=明確な判定基準の有無、および④帰無仮説の明示化の有無の4点が挙げられる。[...フィッシャーの] 有意性検定では[分散分析の変動の分解を通じた]帰無仮説の棄却=標本特性値の有意性の査定が目的であるのに対し、K. ピアソンの検定論の目的は経験分布と理論分布との乖離=誤差の小ささを確認することであった。[...] つまりK.ピアソンは誤差の存在を観測の失敗ととらえ、誤差を大数観察により減少させようとしたのに対して、フィッシャーは誤差の存在を認め、それを正確に推定しようとしたのであり、ここに誤差に対する認識の相違が確認できる。[...②もここから説明できるという記述があって...] 残る相違点③④からは、フィッシャーが有意性検定の手続きの形式化を志向したことが窺えるが[...] この志向は当時の農事試験が抱えていた問題と関連している。[...フィッシャーは] 誰の手によってもただ一つの結論しか導かれない実験計画法に立脚して農事試験を行うことによって、肥料を購入する人々への説得をより容易にすることを狙ったものと解釈できるのである。(p.108-110)
へぇ-...
とこのように、一貫して数理統計研究と社会的要請との関係を重視して書かれた本であった。勉強になりましたです。
データ解析 - 読了:「R.A.フィッシャーの統計理論」