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2014年8月 6日 (水)
Popper, R. (2008) How are foresight methods selected? Foresight, 10(6), 62-89.
役所や研究機関や企業が未来予測 (foresight) を行うことがあるけど、EUの欧州委員会の下に世界中の未来予測を集めてデータベース化している機関があり、そのデータベースを使って「未来予測の手法がどうやって選ばれているか」を調べました、という論文。いささか酔狂な問題設定のような気もするが、まあこんな研究はそうそうできないだろう。
調べた未来予測事例は886件。なにをもって一件と呼ぶのか、具体例がないのでピンとこないんだけど、たとえば文科省の科学技術予測調査を一件と数える、という理解で正しいかしらん。それとも、あるアドホックなプロジェクト(ナンタラ審議会の提言とか)をもって一件と数えるのかなあ。
各事例は単一ないし複数の未来予測手法を使っている(平均6個だそうだ)。
さて、著者は未来予測の手法を整理する枠組みというのを持っていて("Forecast Diamond")、それによれば、これらの事例で使われていた手法は24個に分類される。それぞれの手法は、定性的手法、定量的手法、準定量的手法、に分類できる(「性質」)。さらに、それぞれの手法について、情報源がcreativity, expertise, interaction, evidenceのどれか(4つを足すと100%)という特徴が与えられている(「ケイパビリティ」)。この枠組みに基づいて件数を集計しましょう。
さらに、各事例にも属性をふる。
- 「ジオR&D文脈」属性 (要するに地域。欧州大国、北米、アジア、欧州中規模国、豪、欧州小国、南米の7つ)
- 「予測領域」属性(8つ)
- 「テリトリスケール」属性(地域レベルか国際レベルか)
- 「時間スケール」属性(2010まで, 2011-2020, など5つ)
- 「スポンサーシップ」属性(政府、非国家機関、調査機関、ビジネス)
- 「ターゲット集団」属性(政府、リサーチコミュニティ、企業、NGOなど8つ)
- 「参加スケール」属性(オープンか否か)
- 「アウトプット種類」属性(政策提案、トレンド分析、シナリオ、など6個)
- 「手法ミックス」属性(異なる手法をどうやって組み合わせて使っているか)。
で、各属性ごとに件数を集計しましょう。
結果はいろいろと長いのだが、申し訳ないけど本題にはあんまり関心がないので省略。チャートをみていると、アジア(日韓)はあんまり文献レビューをやらず、ブレインストーミングやモデリングやインタビューが大好きなんだそうです。
というわけで、後半はパラパラめくっただけで済ませたんだけど、むしろ関心があるのは、24個の未来予測手法、そしてそれを整理する著者の枠組み "Foresight Diamond" である。事例において使用頻度が高い順に、Diamond上の位置を拾っていくと...
- 文献レビュー。4つの情報源のうち、これはevidenceに基づく手法である。
- 専門家パネル。expertise。
- シナリオ。creativity。
- トレンド外挿/メガトレンド。過去-現在-未来のトレンドを考える。evidenceだがexpertise寄り。
- 未来ワークショップ。interaction。
- ブレインストーミング。interaction。
- インタビュー。ちょっとevidence寄りのexpertise。
- デルファイ。interaction寄りのexpertise。
- キー技術。これからキーとなるであろう技術のリストをつくる。expertise。
- 質問紙/サーヴェイ。これは4つのケイパビリティに対してニュートラル。
- 環境スキャニング。社会とか技術とか経済とかについて、観察して検討して監視して体系的に記述する手法。evidence。
- エッセイ。ある未来イメージについて、そこに至ったトレンドとか、ステークホルダーの役割とかを詳細に記述する手法。creativity。
- SWOT分析。ニュートラルだがややcreativity寄り (なぜだろう?)
- 技術ロードマッピング。expertise。
- モデリングとシミュレーション。もちろんevidence。
- バックキャスティング。ある想像上の未来から出発し、そうなった道のりを逆向きに考える手法。expertiseだがcreativity寄り。
- ステークホルダー・マッピング。どのステークホルダーにとってなにが利益か、を分析していく。interation。
- クロスインパクト/構造分析。「この変数はこの変数に影響するよね」というふうに書きこんで行ってマトリクスをつくる手法、だそうである。interactionだがevidence寄り。
- ビブリオメトリクス。文献の定量分析。evidence。
- 形態分析。問題とその解決策をマッピングする手法、とのことである。ニュートラル。
- 市民パネル。interaction。
- リレバンスツリー。問題から出発して階層的に分解していく手法だそうな。QCで使う魚の骨みたいなやつかなあ。expertise。
- 多基準分析。いろんな施策について、複数の基準で星取表のようなものをつくるらしい。ニュートラル。
- ゲーミング。説明を読んでいると、どうやら机上演習というような意味合いらしい。creativity。
へー。いろいろあるものね。
論文:マーケティング - 読了: Popper (2008) どんな未来予測でどんな予測手法が使われやすいか