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2014年11月19日 (水)
Kreuzbauer, R., Malter, A. (2005) Embodied cognition and new product design: Changing product form to influence brand categorization. Journal of Product Innovation Management. 22, 165-176.
ちょっと用事があって目を通した論文。
デザインはブランドにとって大事だ。なぜか。(1)魅力的な製品デザインはブランド評価を上げる。(2)そもそもデザインというのは、製品とブランドのカテゴリ化を促進し消費者の信念を形成するための主要な武器だ。
本論文はさらに次の点を主張する。(3)デザインは、人が製品とどのように物理的に相互作用できるかを伝達する。消費者は環境の物理的な諸特徴から、行為のタイプがアフォードされているのを知覚しているのであり、製品・ブランドのアフォーダンスが、製品の知覚やブランドのカテゴリ化において重要な役割を果たしている。だから製品デザイン要素を通じてブランドのカテゴリ化を変えることができる。
この提案の背後にあるのがembodied cognitionである[ここでGrenberg(1997BBS), Glenberg et al.(2003BBS)を挙げている]。この理論によれば、知識・思考は環境との相互作用から生じる。知覚から行為まで、あらゆる認知活動はすべて環境との相互作用であり、みんな同じ原理を共有しているのだ。
ブランド拡張の研究によれば、親ブランドと拡張ブランドが同一のカテゴリのメンバーだと知覚されたとき、両者は「適合」する。でも認知科学者いわく、カテゴリってのは文脈依存なものだし[Barsolou(いろいろ), Cohen&Basu(1987JCR), Ratneshwar et al.(1991JMR)]、メンバーが増えればカテゴリ知識も変わる。
物理的なモノのカテゴリ・メンバーシップは主に形で決まるといわれている[Barsalou(1992,"Cognitive Psychology")]。ってことは、新製品は既存製品と形が似ているときにそのブランドのファミリーとして受け入れられやすくなるのではなかろうか[Block(1995,J.Mktg), これ面白そう]。
視覚的デザイン属性がブランド認知やカテゴリ化に影響するかどうか、従来のブランド研究では説明できない。なぜなら従来、ブランド知識は連想的意味ネットワークであると考えられており、その意味内容は抽象的であってモダリティを欠いているからだ[←ずいぶん荒っぽいご批判のような気がするけど...エピソード記憶の意義を無視する人はいないだろうに]。いっぽうembodied cognitionの理論によれば[ここで挙げているのは、Barsolou(1999BBS, PSSを提唱した論文), Edelman(1992, "Bright Air, Brilliant Fire"), Grenberg(1997BBS), Zaltman(1997JMR)]、ブランド知識が意味ネットワークとして表象されているわけがない。モノと状況の意味ってのはそれらと身体との相互作用に基づいているのだ。だからそのブランドのアフォーダンスを理解することが大事なのである。
ここで役立つのがBarsolouのPSS(知覚シンボルシステム)理論である。いわく、知覚シンボルとはモノを知覚したときに生じる神経活動の記録であり、モーダルなシンボルであって、フレームとして組織化されている。それは全体論的なものではなくて要素的なものだ。たとえばバイクのデザインは、記憶において「バイク全体」として保持されているのではなく、ドアとかフェンダーといった知覚シンボルからなるフレームとして保持されている。フレームは(属性ー値)のセットからなる構造であり、構造的不変性を持っていて(椅子の背中は絶対にシートより上、とか)、属性の値は互いに相関している(丈夫な靴は高い、とか)。認知システムがシミュレーションを行うことができるのはフレームのおかげだ(クルマのフレームのおかげで、たとえば新しいデザインをつくったりすることができる)。
実験。バイクに詳しい人に集まってもらい、バイクのキー・デザイン要素を表す(属性-値)のセットを決めた。たとえば「エクゾーストパイプの形」というのが属性で、まっすぐな形やまがった形が値である。6個の属性、各属性につき値が2水準、これでバイクのデザインをだいたい表せる。各属性の2つの値はそれぞれオフロードっぽいやつとシティバイクっぽいやつである。[写真を見てもさっぱりわからん。まあ信じるしかなさそうだ]
仮説1. あるカテゴリを示す値を多く含むデザインは、そのカテゴリのメンバーであると知覚される。
仮説2. アフォーダンスと関係ない属性を加えても、メンバーシップはかわらない。
属性を操作してバイクのシルエットを4枚つくった。A.タイヤはシティバイクでフェンダーはオフロード。C.両方オフロード。D.両方シティバイク。B. Dと同じだが色が違う。被験者は学生43名、ひとりに4刺激を提示し、それぞれについてオフロードかシティバイクかを両極7件法で評定させた。
結果。D, A, C&Bの順にシティバイクだと評定された(仮説1を支持)。BとCには差がなかった(仮説2を支持)。
。。。この論文のなにが衝撃的かといって、風呂敷が広い割に、実験が息を呑むくらいにチャチである点だが(単に「オフロードバイクっぽい形のバイクはオフロードバイクだと評定されました」という話ではないですか)、きっとこの業界の慣習かなにかで、形だけでもデータを取らないといけないとか、なにかそういうヨンドコロない事情があるのだろう。実験のくだりはみなかったことにしたい。
えーと、前半の理屈の部分はとても興味深く読んだ。"embodied cognition"というのは認知科学における一種の流行語であったかと思うのだが、この概念のもともとの面白さは、「クールに心的表象を操作しているだけのようにみえる認知活動が、実は身体と深く結びついているのよ、いやー意外だよね」という点にあったのではないかと思う。いっぽう、探してみるとマーケティング分野でもたまにembodied cognitionという言葉が使われているようなのだが、そこではこのようなニュアンスが失われ、単にsensoryとかperceptualというような意味で用いられている模様で、うむむむむ、と思っていた。やっぱしこういう視点もあるのね、よかった。
著者らの主張に照らしていえば、モノの形のちがいであっても身体的相互作用において意味を持たないちがいはカテゴリ化に効かないはずだ(奥さんのほうのTverskyの80年代の研究にそういうのがあったと思う)。また、身体動作の心的シミュレーションを促進したり抑制したりする実験手続きもありそうなものだ。いろいろ面白い実験ができるだろうに。
話の筋からいえば、なにもBarsalouのPSSという難しい概念を用いなくてもよかったのではないかと思うのだが、それはこの論文のコアの主張に限ればの話で、著者らは認知的アーキテクチャまで含めたビジョンを提示したかったのだろう。
考察で触れられていた面白い話。新製品デザインのプロセスにおいて身体化された制約をイメージすることでデザインの魅力が増す、というような研究があるらしい。Dahl et al.(1999JMR)。 この路線の話、ひょっとしたら面白いかも...
論文:マーケティング - 読了:Kreuzbauer & Malter (2005) 身体化された認知と新製品開発