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2014年11月27日 (木)
北條雅一(2001) 学力の決定要因: 経済学の視点から. 日本労働研究雑誌, 53(9), 16-27.
先日読んだAntonakis, et al.(2010) が強烈に2SLS推しだったので、実際に2SLSを使っている研究を見てみたいものだと思い、とりあえず見つけたもの。中等教育における学力の規定因についての実証研究である。
そうそう。10年ほど前、ちょっとした趣味で調べたことがあるのだけれど、学級サイズが学力に及ぼす効果って、意外にもはっきりしてないのである。社会的決定にエビデンスは大事だけど、エビデンスがいつも手に入るわけじゃない、という例のひとつでろう。
教育の生産関数分析(学力を規定する諸要因についての実証分析)は1966年アメリカのColeman報告がはしり。レビューにHanushek(1997, Edu.Eval.Policy Anal.)というのがある。研究が多いのは学級サイズの効果だが、結果はまちまち。操作変数法を使った因果分析はAngrist&Levy(1999,Q.J.Econ)が最初だそうで、海外でも案外歴史が浅いようだ。国内では2000年代後半以降。
この論文の著者はTIMSS(国際数学理科教育動向調査)を使った生産関数推定なんかをやっているそうで、この論文もTIMSS1999,2007の日本データを使っている。中二、公立校のみ。TIMSSの標本設計は学校-学級の層化二段抽出、学級の数は学校あたり1~2、抽出した学級の子どもは全員調べる。
以下のモデルを推定する。学校$s$の学級$c$の生徒$i$の数学ないし理科の標準化得点$A$について、
$A_{isc} = X_{isc} \beta + \alpha Z_{sc} + \varepsilon_{isc}$
説明変数ベクトル$X$は以下を含む。個人レベルでは、性別、生まれ月、家庭の蔵書数、所有物、父母の最終学歴。学級レベルでは、教師性別、修士号有無、教職年数。学校レベルでは、生徒数、都市規模、「経済的に恵まれない生徒の比率」(←具体的にはなんのことだろう?)、習熟度別授業実施有無。で、$Z$はその教科の学級規模。
本命は$\alpha$の推定なんだけど、あいにく学級規模$Z$には内生性がある。そこで操作変数法の登場である。法律では学級あたり生徒数は40人を標準にすることになっているので、学年生徒数を$E$、整数に丸める関数をintとして、学級規模サイズの予測値は
$Z^p_{sc} = \frac{E}{int[(E-1)/40] +1}$
これを実際の学級規模$Z_{sc}$の操作変数として2SLS推定。
1999データと2007データそれぞれについて、数学と理科の成績を説明。家庭変数の係数がより強くなっている由。残念ながら、やっぱし、そうなんですね。
学級規模の効果は有意でなかった。しかし著者は引き下がらず、個人変数と習熟度別授業実施有無の交互作用を片っ端から投入して再推定。あんまりきれいな結果じゃないけど、習熟度別授業をやると家庭環境の効きが弱くなる由。
感想:
- 操作変数がひとつだから、これだと丁度識別モデルだと思うんだけど...それでいいのか...
- 習熟度別授業有無も内生性があるのでは? 注によれば、実施有無を説明するプロビット回帰でどの説明変数も有意でなかったそうだが、それは内生性がないことに証拠になるだろうか...
- データの構造からいって階層モデルにするのが筋だと思うんだけど...「誤差項の学校内の相関に頑健な標準誤差」を推定したとあるが、これは具体的には何を指しているのか。不勉強でわからないぜ。
ま、専門家のなさったことだから、これで大丈夫なのだろう。
論文:データ解析(-2014) - 読了:北條(2001) 子どもの学力のモデルを2SLSで推定