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2014年12月 1日 (月)
Berg, J.E. & Rietz, T.A. (2003) Prediction markets as decision support systems. Information Sysytems Frontiers, 5, 79-93.
アイデア先行・夢先行で進めてきたが、ええかげんにきちんと先行研究を当たらねばなるまい。というわけで、待ち行列をすっ飛ばして目を通した。選挙の予測市場の論文。ずっと前に読んだTziralis & Tatsiopoulos(2007)のお勧めリストにも、M先生のリストにも出てくる。著者らはアイオワ大、IEM(Iowa Electronic Markets)の中の人らしい。掲載誌についてはよくわからないんだけど、IF 0.85と書いてあったから、メジャー誌ではなさそう。
[まずIEMの話がひとしきりあって...]
以下では、ある未来の出来事について、他の出来事の下で(conditional on other events)予測するのが目的である予測市場を"conditional prediction market"と呼ぶ。これはただの予測市場よりも意思決定支援の役に立つことがある。たとえば、政党が大統領選の候補者を選ぶときとか(党員に人気がある人ではなくて、「もし誰々が候補者になったらうちの党が勝てるか」を予測しないといけないから)。
予測市場は決定支援の役に立つ。なぜなら: (1)動的な予測を連続的に更新してくれる、(2)トレーダーたちの情報を蓄積してくれる、(3)過去の研究によれば正確な予測が得られ (4)他の手法より良い、(5)個々人のバイアスを取り除いてくれる、(6)いろんな問題を予測できる。
というわけで、IEMの96年大統領選市場に注目しましょう。共和党はドールじゃなくてコリン・パウエルを候補にしておけばよかったんです。
未来の[量的な]アウトカムを$V_1, V_2, \ldots, V_n$とし、その和を1とする(ここでいえば民主党と共和党の得票率)。市場の清算配当金[liquidating devidend]がそのアウトカムの線形関数になっているペイオフ構造の市場のことを線形市場という。
これに対し、可能な[カテゴリカルな]アウトカム$E_1, E_2, \ldots, E_m$の生起と清算配当金を結びつけて、確率を予測する場合もある。これを勝者総取り市場と呼ぶことにする。
では、conditional予測市場の場合はどうなるか。未来のアウトカム$V_1, V_2, \ldots, V_n$、別のアウトカム$E_1, E_2, \ldots, E_m$を考える。予測対象となるのは条件つきアウトカム $V_i | E_j$。これを清算配当金と結びつける。
96年大統領選では、民主党はほぼクリントン一択だったのに対して、共和党にはたくさんの候補がいた。予備選の有力候補はアレクサンダー、ドール、フォーブス、グラム。パウエルも出ると思われたんだけど、95年11月に不出馬宣言。グラムは96年2月、アレクサンダーとフォーブスが3月に降り、残るはドールと、ブキャナンという弱い候補だけとなった。
さて、IEMではこの間に3つの市場を開いた。
- (1)パウエル指名市場。パウエルが共和党大会で候補者指名を受けるかどうかの勝者総取り市場。contract[証券のことであろう]は次の2種類: P.YES(党大会でパウエルが指名されたら1ドル配当), P.NO(されなかったら1ドル配当)。
- (2)大統領選市場。いろんな候補が最終的に勝つかどうかの勝者総取り市場であった。証券は: CLIN(クリントンが最多得票なら1ドル)、OTDEM(民主党のクリントン以外の候補が最多得票なら1ドル)、REP(共和党の指名候補が最多得票なら1ドル)、ROF96(その他の候補が最多投票なら1$)。
- (3)大統領選得票率市場。これはちょっとややこしい。まず、共和党/民主党の得票率を共和党候補で条件づけて予測する市場としてスタート。証券は{ドール、フォーブス、グラム、他の指名候補}の4人について次の2種類、計8種類。たとえばドールについて、V.DOLE(共和党指名候補がドールとなったとき、共和党指名候補の得票率x1ドルを配当)、CL|DOLE(共和党指名候補がドールとなったとき、民主党指名候補の得票率x1ドルを配当)。市場の途中で「他の指名候補」からアレキサンダーを分離独立させて、計10種類。で、3月のスーパーチューズデーでドールを除く8種類の証券がbecome worthless and were delistedと書いてあるから、紙くずになったということであろう。
結果。
- パウエル指名市場ではP.YESの価格が上昇、不出馬の報が流れたときは約0.60であった。いっぽう大統領選市場でのCLIN価格は低落を続けていた(パウエル不出馬の時点で約0.20、その後急上昇)。不出馬までの68日間で2つの価格には強い負の相関がある。嗚呼、共和党はパウエルを説得すべきであった。
- 得票率市場でのV.DOLEの価格は、(ドールが指名される確率)x(ドールの下でのドールの得票率)であると考えられる。いっぽうCL|DOLEは(ドールが指名される確率)x(ドールの下でのクリントンの得票率)。従って価格の和が(ドールが指名される確率)となる。この指標の推移を、大統領選市場でのCLIN価格の推移と比べると正の相関があった。またドール支持の代議員数の推移とCLIN価格の推移にも正の相関があった。嗚呼、共和党員はどうにかしてドール以外の誰かを支援すべきだった。
- V.DOLE / (ドールが指名される確率) = (ドールの下でのドールの得票率) となる。これを(ドールの下でのクリントンの得票率)から引いて、「スプレッド予測」とする。証券となっている全共和党候補についてこの時系列を描くと、基本的にドールは常に負けっぱなし。他の候補は変動が激しいが、最大値の時系列も平均の時系列も、常にドールよりまし。嗚呼、以下同文。
論文後半に長大なappendixがついていたが、パス。
感想:分析のくだり、2本の時系列を単純に比べて、相関があったとか回帰係数が有意だったというような分析をしているのだが、これ、時系列分析の手法として大丈夫なのだろうか。これってグレンジャー因果とかの出番なのではないかしらん...
えーと、予測市場の先行研究のうち、これまでにメモを取って読んでブログに載せたのは、日本語を別にすれば、この論文, Soukhoroukova, Spann, & Skiera (2011)の奴、Spann & Skiera (2003)のレビュー, Tziralis & Tatsiopoulos (2007)のレビュー、Pennock et al.(2001)のScienceのLetter, それからEly Dahanさんの奴。くそう、道は遠いぜ。昔と違って、最近は一本目を通すのも一苦労なのだ。
論文:予測市場 - 読了:Berg & Rietz (2003) 条件つき予測市場による意思決定支援