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2014年12月16日 (火)

Krishna, A., Schwarz, N. (2014) Sensory marketing, embodiment, and grounded cognition: A review and introduction. Journal of Consumer Psychology, 24(2), 159-168.
 仕事の都合で読んだ。
 表題通り、この雑誌のこの号はSensory marketing, embodiment and grounded cognitionという特集号で、これは編者の序文。なお、この号への寄稿は以下の通り。

うーむ、sensory marketingっていうと、こんな感じのとりとめもない話になっちゃうのかしらん...
 以下、内容のメモ。

研究小史。70年代、認知への情報処理アプローチが支配的になった。その反動として、社会的認知研究においては認知への感覚・動機づけの統合が試みられたが、感覚や身体情報が(たとえば)意味ネットワークのノードとして取り込まれただけで、アモーダルな表象という基本的想定に根本的に挑戦するものではなかった。この流れは「情報としての感覚」アプローチとして今に至っている[←これはSchwarzという人の言い回しらしい]。
 脱文脈化されたアモーダルな精神という想定に反旗を翻す流れとしては、まず状況的認知とそれに関連した立場。感覚経験と抽象概念が共有しているメタファに注目する立場。そしてすべての心的行為をモダリティ・スペシフィックなシミュレーションとしてみる立場[Barsalouのこと]がある。

情報としての身体経験。[心拍が写真の魅力を増すとか、ペンを咥えてマンガを読むとどうこうといった研究の紹介があって...] よく知られた認知現象も身体的基盤を持っている。たとえば単純接触効果とか。[1]をみよ。
 感覚も外的情報に影響される。たとえば、被験者に広告文章を読ませたあとで食べ物を食べさせると、文章が複数の意味を持つものであったほうが、感覚的な思考が誘発され、食べ物がおいしくなる[どういうことだろう... Elder & Krishna, 2010, JCR]。

感覚経験、心的シミュレーション、刺激属性。消費者の錯覚についての研究は昔からあった。最近では目標指向的行動の観点から錯覚の問題がふたたび注目されている。たとえば、モノの大きさの錯覚がモノの選択には影響するが、モノをつかむときの握力には影響しないとか。バックパックを背負っていると坂は急に見え、友達がいるとなだらかにみえるとか。50年代ニュールック心理学以来の、知覚の動機づけバイアスの再訪だ。[2]はこの系統。
 状況的認知の観点から、知覚が行為をアフォードしシミュレーションを引き起こすという研究も多い。メタ認知的経験の感覚運動的基盤についてもっと検討が必要だ。とはいえ、すべてのシミュレーションが同じルートを辿るわけではない。アフォーダンスで起きることもあれば、共感と感情的処理で起きることもあれば、内省で起きることもあろう。
 食物の概念的処理が味覚を処理する脳領域を活性化させるという話もある。[3]とか。
 刺激の感覚属性が思考・感情・決定に影響するという研究も多い。視覚がいちばん多い。[4][5][6]をみよ。触覚もある。[7][13]をみよ。操作は難しいが匂いもある。

メタファ。一番多いのは物理的暖かさと社会的暖かさの連合の研究。[8][9][10]。また、[5]は明るさと熱と感情、[11]は水とエネルギーとの連合に注目している。
 空間の垂直方向が持つメタファ的連合の研究も多い。[12]をみよ。
 物理的清潔さと道徳的清潔さのメタファ的連合の話は、Zhong & Liljenquist(2006, Science)にはじまる。[13]はこの延長線上にある。
 最後に、[14]はメタファ的意味が創造性を促進・阻害することを示している。[←これってもはや特集の趣旨とずれ始めているのでは...]

結語。情報処理モデルの全面的な対抗案を出せないからと言って研究の価値が下がるわけじゃないだろう。アンドレ・ジイドいわく、浜辺の灯りを見失うことなしに新大陸は発見できない[←大きく出たね...]。
 いっぽう、本特集号に投稿された70本以上の論文のほとんどが、大きな概念的問題を提出しようとしないどころか、自分たちの知見が既存の研究にどのような点で挑戦しようとしているのかを同定しようとさえしていなかった。それはそれでちょっとどうかと思うぞ。[←ははは]

論文:マーケティング - 読了:Krishna & Schwarz (2014) センサリー・マーケティングと身体化認知

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