« 読了:今井・水山 (2014) コンジョイント分析の架空製品についての予測市場 | メイン | 読了:岩崎 et al. (2015) ツイッター上の炎上を予知する »
2015年1月28日 (水)
Hoeffler, S. (2003) Measuring preferences for really new products. Journal of Marketing Research, 40(4), 406-420.
本当に新しい製品 (RNP) の消費者評価の正確性を上げる手法を考えました、という論文。資料作成の都合で読んだ。
先日読んだZhao, Hoeffler, & Dahl (2012)と同じく、イントロの論理構成がつかみにくいのだけれど...
いわく、製品学習の方法として、カテゴリ・ベース学習、アナロジー、心的シミュレーションがあるだろう[←ここの導入に唐突感があるんだよなあ...]。RNPの場合は後ろのふたつが効くだろう。
また、RNPの使いやすさ評価の誤差源として、次の3つがあるだろう: (1)不確実性。(2)現在の消費行動に変化が生じる点。(3)意図されたベネフィットを実現されるベネフィットに翻訳する際に、過去経験も不偏な情報源もなく、ネットワーク外部性についてもわからないという点。[←3つある、と云いながら、3つめがやたらに盛りだくさんだ]
というわけで(どんなわけだ)、研究を3つ。
研究1. RNPの評価において不確実性は高いか。
RNPとINP (漸進的新製品)のペアを4つ用意。たとえば「3Dカメラ」と「デジタルコンピュータカメラ」で一ペア。
MBA学生30名。ひとりの被験者に4ペアからRNPを二個、INPを二個提示。それぞれについて、(1)製品の記述を読ませ、(2)ベネフィットを60秒間think aloud、その後、自分の評価の不確実性などを9件法で評定。(3)欠点を60秒間think aloudし、不確実性などを評定。(4)社会的含意を60秒間think aloudし、また評定。(5)最後に関心とかを評定。[←MBAの学生だから難しいことを尋ねても答えてくれるだろうけど、消費者行動論の研究としてどうなの?]
結果。ベネフィット評価の不確実性、欠点評価の不確実性、社会的含意の不確実性、メーカーにベネフィットを実現する能力があるかどうかの不確実性、メーカーが欠点を克服できるかどうかの不確実性、メーカが社会的含意に影響を与えられるかどうかについての不確実性、の6項目についてのMANOVA。RNPのほうが不確実性が高い。云々。
なおthink aloudのプロトコルをみると、RNPではたしかにアナロジーを使ってました、云々。
[途中から読み飛ばした。論文の構成上必要であることはわかるけど、なんだかタメにする実験という感じで、正直付き合いきれない]
研究2。ここから俄然面白くなってくる。消費者調査でいうところのホーム・ユース・テストをやるのだ。
被験者は一般市民(完全に回答したのは44人)。P&GのDryelというRNPと(ドライヤーでドライクリーニングできるんだってさ)、Short WipesというINPを使用。
- ステージ1. 製品のTVCFを見せる。
- ステージ2. まず、要因操作のための課題。次の4水準。
- 心的シミュレーション。次の9点について1分ずつ考えさせる: 購入決定への感情的反応、価格とのその変化の可能性、現使用製品からのスイッチのコスト、製品使用法学習の難しさ、その製品を使うと代わりになにかしなくてよくなることがあるか、製品の使いやすさを限定する可能性がある諸側面、その製品のパフォーマンス、製品を使用している人に対する周囲の反応。
- 心的シミュレーション+自由形式アナロジー。心的シミュレーションとほぼ同じだが、その新製品についてではなく、過去に経験したよく似た新製品について考えさせる。
- 心的シミュレーション+マーケター提供アナロジー。まず文章を読ませる。Dryelの場合はこんな感じ: Dryelはドライ・クリーニングが必要な衣類を扱う方法を変換します。それはちょうど、使い捨ておむつがおむつのビジネスを変えたのと同じです。昔はおむつと云えば...云々云々。で、心的シミュレーションをやるんだけど、その設問のなかにもいちいちおむつへの言及がはいる。[←かなりうざい課題だ。被験者の皆様には同情するね]
- 課題なし。
- ステージ3. 試用前評定。関心、価格提示購入意向、購入見込み、新しさを評定。
- ステージ4. 試用。製品を家に持って帰って6週間使わせる。日記も書かせる。
- ステージ5. 試用後評定。ステージ3とだいたい同じ。コンジョイントももう一回やる。
実験計画は、心的シミュレーションの操作(4水準, 被験者間), 製品タイプ{INP, RNP}(被験者内), 測定のタイミングが試用{前, 後}(被験者内操作)。[←あれ? INPとRNPは被験者内操作なのか... じゃステージごとに2製品について考えたり聴取したりのかな... なにか読み落としているのかも]
結果。被験者ごとに、20製品に対する評価の試用前後での相関を求め、これをシミュレーションの水準のなかで平均する。INPでは0.59から0.69, 有意差なし。RNPでは、単なるシミュレーションで0.72, 自由形式アナロジーで0.57, マーケター提供アナロジーで0.55, コントロールで0.61。対比をいろいろつくって検定してるんだけど、要するに試用前評価の予測的な正確さが単なるシミュレーションで上がりアナロジーの追加で下がる、ということであろう。購入意向の変化も調べているんだけど、INPで予測が正確、RNPで不正確、という感じ。
考察するに、アナロジーが不適切だったんじゃないか。ソース-ターゲット間のマッピングがちゃんとできてなかったんじゃないか。できていたとしても転移ができてなかったんじゃないか。
研究3.
被験者はMBAの学生(完全に回答したのは55人)。INPはなしで、IBMのTransNoteというRNPを使う。ラップトップとスキャナが一緒になったようなものらしい。
- ステージ1. 製品の説明を読ませる。
- ステージ2. 要因操作のための課題。次の2水準。
- 心的シミュレーション。教室、ビジネスミーティング、旅行における製品の使い方を各3つ挙げさせ、絵を描かせたらしい。
- 課題なし。
- ステージ3. 試用前評定。評価とか関心とか。
- ステージ4. 試用。一部の被験者は、3週間のうち1週間だけ家に持って帰って使える。
- ステージ5. 試用後評定。
実験計画は、心的シミュレーション(2水準, 被験者間), 試用有無(2水準、被験者間), 測定のタイミングが{前, 後}(被験者内操作)。[←試用しない被験者のことをWOM条件とかっこよく表現していて、笑ってしまった。クチコミしてるとは限らないじゃんか]
結果。面倒なので読み飛ばしたけど、心的シミュレーションによって事前評価の予測力は向上する。試用すると予測力は下がるんだけど、心的シミュレーションをやっているとそんなに下がんない。というような話らしい。
。。。お世辞にも綺麗な結果とはいえない研究なんだけど、実在するRNPを借りてきたり、ホームユースをしたりする手間を考えたら、文句はいえない。論文の書き方がごちゃごちゃして好きじゃないけど、これも好みや慣れの問題であろう。ともあれ、頭が下がりますです。
気持ち悪いのは、研究2の結果の表をよくみると、RNPの試用後購入意向が心的シミュレーション群で低い、という点。ひょっとして、試用前の心的シミュレーションの影響が6週間後も続いているのではないか。とすると、試用後評価を「正解」と見立てて試用前評価で予測する、という枠組みが疑わしいことになる...
イントロの部分からメモ:
- 製品学習におけるアナロジーの使用: Gregan-Paxton & John (1997 JCR)
- 製品学習におけるメンタル・シミュレーションの使用: Phillips (1996 in "Adv.CB"), Shiv & Huber (2000 JCR), Walker & Olson (1997 Res.CB), Sujan et al. (1997 Conf), McGraw & Mellers (1997 Conf), Taylor et al. (1998 Am.Psych.) [←製品使用というよりストレス・コーピングの文脈の話らしいけど、これは読んどいたほうがよさそうだ]
論文:マーケティング - 読了:Hoeffer (2003) 消費者に革新的新製品のコンセプトを評価してもらう際に使用場面を心的にシミュレーションしてもらったら評価が正確になる、といいなあ