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2015年4月10日 (金)

Jenkins, M., & McDonald, M. (1997) Market Segmentation: Organisational Archetypes and Research Agendas. European Journal of Marketing, 31(1), 17-32.
 ちょっと気になることがあって目を通した。論文自体は手に入らなかったが、ネットに落ちてたdraftで読んだ。
 マーケット・セグメンテーションの実践を類型化する(記述的な)フレームワークを提供します、という論文。セグメンテーションに関する資料をみていると、横軸に組織へのセグメントの統合、縦軸に組織の顧客駆動性をとったマトリクスが載っていることがあるけど、その元になった論文らしい。

 まず、セグメンテーションの理論的な「べき」論と実践とはかなりちがうよね、という話があって...
 4つの事例を紹介 (きちんとした事例研究というよりは逸話の紹介)。

というわけで、セグメンテーションの実践にはいろいろあって、次の2軸で整理できる。

というわけで、セグメンテーションの組織論的な元型(archetype)として次の4つを考えることができる:

 インプリケーション。これは記述的枠組みであって、どのタイプのセグメンテーションが望ましいのかは別の問題。今後の研究課題としては...

... イントロにこんなことが書いてあって、すごく面白かった。

この[従来の理論的な]議論は以下の点を想定している。まず、セグメントが客観的で同定可能な実在であり、すべてのマネージャーと組織が、それらの「世の中に」存在するセグメントを利用できる、という想定。そして、セグメンテーションとはマネージャーが市場における自らの効率性を最大化するために取り組むプロセスなのだという想定である。これらの想定に対し、2つのレベルで異議を申し立てることができる。第一に、セグメンテーションへのこうしたアプローチは、組織のケイパビリティや構造について明示的に考慮していない。[...] 第二に、セグメンテーションは実証的分析に先行して行われるプロセスというわけではなく、むしろ市場空間の見る上でのひとつのパースペクティブだとみなしうる場合もある。この観点では、組織は市場を多様なグループに分けることを通じて、自らの環境についての「理解」を得ようとしているのだということができる。

二点目を読んで大喜び。そうそう!そうですよね!
 ときどき、消費者を統計的に分類しようとする私に対して「『実務的』なセグメンテーションには同定可能性と接近可能性と利益可能性と実行可能性が必須だ」なあんて、コトラーの守護霊インタビューのようなことを仰る方がいらっしゃるんですけど、接近可能性や実行可能性がない分類でも、消費者の多様性を理解するための視点として十分に役に立つことがある。それでその場の用が足りてしまうことも少なくない。さらに、その場の用が足りるかどうか、実際に分類してみせるまでは誰も判断できないことさえある。
 別の云い方をすると、実務家が語る実務なるものをあまり信じてはいけない。実務というのは案外実務的ではない。優れた人であっても、自分が本当に行っていること、自分が本当に求めているものは、案外わからないものなのである。

 ところで...
 この論文は、マーケティング実践を記述的に類型化するという視点から組織論に踏み込んでいるところが面白いんだけど、マーケティングについて規範的に語る中で「組織かくあるべし」と踏み込む人も多い。ああいうマーケティング視点からの組織類型って、経営学的にもなんらかの実証的な対応物があるもんなんですかね? たとえば、企業XXX社のデータを集めて調べたところ、消費者視点に基づき顧客セグメントに密接に対応する組織を構築している企業のほうが収益性が高かったですとか、持続的に成長してましたとか、従業員の抜け毛が少なかったですとか(すいません冗談です)、そういう対応関係があったりするのだろうか? 申し訳ないですが、マーケティングの観点から見た組織のありかたの望ましさは、実は企業の業績や運命そのものにはあまり関係していないのではないか、マーケティング学者の「云いっぱなし」的組織論に過ぎないんじゃないか、という素朴な疑念を拭えない...。
 いや、それはそれで別にいいんですけどね。「云いっぱなし」な理念型を提出するのも大事な仕事なのかもしれませんし、経営的なインパクトはとても小さいけどマーケティングの文脈では意義があるという概念だってあるのかもしれませんし。単なる好奇心であります。

論文:マーケティング - 読了:Jenkins & McDonald (1997) セグメンテーションの組織論的類型

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