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2015年6月 4日 (木)

Zeelenberg, M., Pieters, R. (2004) Beyond valence in customer dissatisfaction: A review and new findings on behavioral responses to regret and disappointment in failed services. Journal of Business Research, 57, 445-455.
 前から気になってストックしていたんだけど、このたびちょっと機会があって目を通した。著者については全然知識がないが、Bagozziと共著があるし、雰囲気的にも心理畑の人であろう。google scholar上の被引用回数は結構高め。

 サービス利用を通じて生じた感情は顧客満足やその後の行動にどう影響するか。著者ら (Bagozzi, et al. 2000. in "The why of consumption") の整理によれば、モデル化のアプローチがふたつある。

というわけで、後者を推します、という論文。
 この研究では後悔と失望に焦点を当てる。理由: (1)意思決定において重要だと思われるから。[詳細略] (2)似てるから。(3)著者らがこれまでも研究してきたから。
 なお、顧客不満が失望だけでなく後悔によっても決まるという研究はすでにある。

 概念モデル。不満ののちの行動として次の4つに注目する。

 調査。パネルから961人が参加。モデムで調査票を送り返送してもらった、とある。時代だなあ。
 サービスに不満を感じて後悔した経験を思い出してもらう。後悔してたら失望もしてるだろうが、その逆はいえないだろうから、という理屈[←あれれ...いいのかなあ? 過去エピソードを後悔で足切りしているわけで、選択バイアスが起きないだろうか?]。で、そのときの気持ちについて聴取。後悔、失望、不満について各2項目。その後の行動について、クレーム4項目、クチコミ3項目、スイッチング3項目、慣性2項目。すべて7件法。
 結果。失望と後悔で不満を説明する回帰をやるとどっちも効いている。スイッチング・クレーム・クチコミ・慣性を目的にした多変量重回帰をやると[←それが重回帰の繰り返しよりも偉いのだと一段落使って述べている。微笑ましい]、失望・後悔・不満はすべて有意。細かく見ると、不満と失望はスイッチングとクレームとクチコミに効く。後悔はスイッチングとクチコミに効き、さらに慣性に効く(後悔しているとむしろなにもしなくなる)。クレームには効かない。

 考察。
 特定感情アプローチは有用だ。満足-不満は行動に効く(感情価アプローチで考えられていたよりももっと)。
 さらに、特定感情が行動に直接効く。後悔はスイッチングを引き起こすがクレームは引き起こさない[ここで後悔がクチコミに効いちゃった理由についてごちゃごちゃ言い訳しているが、省略]。失望はクレーム、クチコミ、スイッチングを引き起こす。別の種類の感情もきっと特有の効き方をするだろう。怒りとか。
 この研究では、行動の中に慣性というのを入れてみたが...[ちょっと面白い話だけど、疲れたので詳細略]。
 なお、感情価アプローチがダメだといっているわけではない。Larazus(1991, "Emotion and Adaptaion")がいっているように[←おおっと... こりゃ心理出身の人だな]、感情をグローバルな少数次元で説明するのは倹約的だし、たいてい有効でもある。いっぽう感情をカテゴリで説明する立場だけがもたらすリッチな洞察もある。Frijda(1986, "The emotions")いわく、これら2つの見方はレベルが違うだけだ。特定の行動傾性のレベルでは感情はカテゴリだし、出来事の価値なり緊急性なりへの反応というレベルでは感情は連続的次元の集合だ。云々。

 調査についてはもやもや感があるし(しょせん想起法でしょ? とか、ふつうならもう一指標増やしてSEMでやるよね...とか)、結果は当たり前っちゃあ当たり前なのだが(あるサービスに失望するとクレームにつながるが、そのサービスを選んだことを後悔していてもクレームにはつながらない。そりゃそうだ)、本題は理論枠組みのほうだろう。ストーリーが明快な、良い論文であった。勉強になりましたです。
 実をいうと、感情の話だわ、途中でcognitive appraisalというキーワードが出てくるわで、これは途中から適応論的な話が出てくるんじゃないか... 進化の過程でどうのこうのというお話が始まるんじゃないか... と戦々恐々としていたのだが、出てこなかった。助かった。苦手なんです、ああいうの。

 この論文の考察の焦点は、決定後の感情をポジ-ネガでみるかもっと細かく見るかにみるかという点にある。でもそれはちょっと置いておいて。あたっているかどうかわかんないけど、勝手にこの研究を自分なりに位置付けしちゃうと...
 世の中には顧客満足が大事だという人がいっぱいいる。ところが、実際に顧客満足が高いと儲かるの? 顧客は離脱しないの?といわれると、ああそうだともという説もある一方、そうでもないよ、満足が高くても顧客は平気で離脱するよ、という指摘も多い。これに対するひとつの説明の方向は、満足じゃなくて別の態度指標、たとえば推奨意向を測りなさい、そっちは顧客行動と関連するであろう、という方向で、NPSのライクフェルドさんとかがそうだ。もうひとつの方向は、満足だけじゃなくて別の規定因も押さえなさい、たとえば知覚リスクも測りなさい、という方向。第三に、満足-不満ってのはそもそも多次元的なんだ、という方向に踏み込む手もある。嶋口のアンサティスファクション/ディスサティスファクションの区別がそうだ。
 この論文は、不満だけじゃなくてその規定因であるネガティブ感情の種類を押さえなさいといっていることになるので、2本目のラインだろう。そもそも不満には複数種類あるという3本目のラインにはならないようだ。ストーリー上の細かいちがいかもしれないけど、CS調査を企画する立場からは気になるポイントである。

 もうひとつ、面白いなあと思ったのは、後悔がスイッチングとクチコミに効くがクレームには効かない、という点。もし、サービスの利用経験がネガティブであることを所与として、それを顧客自身の決定に帰属させ後悔へと転化させる手段がありうるならば(PCパーツのメーカーみたいに徹底した自己責任を訴求するとか)、それはマーケティングの上でどういう意味を持つのか。スイッチングは仕方ないけど、少なくともクレーム処理は減らせるかなあ? 後悔が引き起こすクチコミがどういうクチコミかを知りたいところだ。

 本筋からは離れちゃうけど、決定後の後悔って面白い問題だなあ。私が修士の院生のころ、まだ行動経済学のコの字もなかったころにも、すでに不確実下意思決定の後悔最小化理論というのがあって(Looms&Sugdenだっけ...)、当時の友人と、喫茶店のようなところでその含意についてその熱く語り合った思い出がある。なにかCS-ロイヤルティの調査に活かせるような気がするんだけど、よくわからない。だいたい、あれがどこの喫茶店だったかも思い出せない。当時はコーヒー代なんて気軽に払えなかったはずだけど。

論文:マーケティング - 読了:Zeeelenberg & Pieters (2004) 顧客不満の裏にある感情の効果

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