« 読了:三菱総研 (2015) 教育の投資効果 | メイン | 読了:Zeeelenberg & Pieters (2004) 顧客不満の裏にある感情の効果 »
2015年6月 3日 (水)
紺田広明・清水和秋 (2015) 動的因子分析による個人内変動のモデル化:心理時系列への同時分析の適用. 行動計量学, 42(1), 69-80。
届いたばかりの行動計量学の最新号に載っていたので、ごはん食べながら読んだ。ありがたや、ありがたや。動的因子分析についての日本語の資料はあまり多くないし、心理系の方の書いたものはなおさらだ。
動的因子分析の定式化はいろいろあって、大きく分けて、因子時系列と指標時系列の間にラグつきのパスを引くタイプの定式化と(心理だとMolenaarさんとか)、因子時系列に自己回帰とかをいれる定式化(NesselroadeさんたちいうところのDAFSモデル)がある。この論文、最初の概観ではMolenaarさんが出てきたので前者かと思ったのだが、本編はDAFSのほうであった。
ええと、提案モデルは以下のとおり。
観測変数ベクトルを$y_t$、因子ベクトルを$f_t$とする。測定モデルは素直に
$y_t = \mu+ \Lambda f_t + u_t $
と組む。切片も負荷も時間不変。
で、因子時系列をARMA(p, q)と捉える。
$f_t = \sum_i^p A_i f_{t-i} + z_t + \sum_j^q B_j z_{t-j}$
あああ、めんどくさい... なんでMAなんていれるの... と神を呪ったが(すいません、単に私の頭が悪いだけです)、ブロック・トープリッツ行列を起こすやり方でAmosでできる由。Mplusでもできますわね。
被験者6人に、98日から163日にわたり、毎日調査に回答してもらう。項目はBig Fiveの情動性と外向性(←考察を読むと、別に気分の代理変数として適当に使っているわけじゃなくて、パーソナリティが変動すると真面目に考えておられる模様)。各6項目、7件法評定。調査票の冊子をつくって郵送で回収。(←うわあ、スマホにアプリ入れて経験サンプリング、とかじゃないんだ。大変だな...)
予備分析としてキャッテルのP-テクニック因子分析をやっているけど、そこはあまり関心ないので、申し訳ないけどスキップ。
提案モデルをあてはめます。
ARMAの次数は決め打ちするんだけど、結局 AR(p) にした由 (←ありがとう先生! そうですよ、MAなんて入れたらわけわかんなくなりますよ...)。ブロック・トープリッツ行列を作ってAmosでモデルを組んだ。因子数は2、各因子につき3項目に絞った。因子パターンは時間不変かつ個人間不変に制約するが、因子の共分散と因子間のラグつきパスは自由推定。ああそうか、被験者を群と見立てて、因子共分散と因子の自己回帰構造を群間異質にするわけか。
結果は省略するけど、情動性は自己回帰が強い、おとついの影響を強く受ける人がいた(気の長い人なのかな)、外向性と情動性のラグつきパスが人によって違っていて、これは機制の個人差を捉えているのだろう... というような内容であった。
なぜ因子共分散や因子間ラグつきパスの被験者間等質性を調べないのかしらん? SEMの枠組みでやってんだから簡単に適合度を比較できるだろうに。きっとそういう問題意識の研究じゃなくて、はなっから個体記述志向の研究なんだろうな。
ともあれ、勉強になりましたです。こういうのが日本語で読めるのは嬉しいです。感謝、感謝。
いくつかメモ:
- ブロック・トープリッツ行列の起こし方について、第一著者がRでの方法を日本語で紹介しておられる由。関西大の心理の紀要。
- 調査票の回答スタイルの研究に、田崎・二ノ宮(2013, 社会心理学研究)というのがあるらしい。あっちゃー... 2013年の雑誌原稿のために自分なりに頑張って徹底的にレビューしたはずだったのに、全然!気が付かなかった。残念。その時点では未刊だったのかもしれないが、日本語の論文ってgoogleスカラーとかではなかなか引っかからないので、見落としていた可能性も否定できない。
論文:データ解析(2015-) - 読了:紺田・清水 (2015) 動的因子分析でパーソナリティの時間変動をモデル化する