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2015年8月10日 (月)
Pauwels, K., Currim, I., Dekimpe, M.G., Ghysels, E., Hanssens, D.M., Mizik, N., Naik, P. (2005) Modeling Marketing Dynamics by Time Series Econometrics. Marketing Letters, 15(4), 163-183.
マーケティングにおける計量経済学的時系列モデルのレビュー。いわばDekimpre & Hanssens (2000)のアップデート版といったところ。2004年の講演を基にしているのだそうだ。
面白かった点をいくつかメモ:
- MIDAS回帰 (Mixed Data Samplingの略)。測定頻度が異なる複数の時系列を一気にモデル化するのだそうだ。へー。触れるものすべて金に変えちゃうんですかね。
- Factor VAR モデル。説明を読むと動的因子分析のような話だが、どうちがうのかしらん。Pauwels et al.(2004) という学会発表が挙げられている。
- Lemmens et al. (2005 Int.J.Forecasting): 変数の数がすごく多いときのグレンジャー因果性検定。
- 政策の変化は計量経済モデルのパラメータ・構造を変えるので、変化前のパラメータ推定を政策変化のインパクトの評価に使うのはおかしい。これをルーカス批判(Lucas Critique)という。マーケティングにもこの批判はあてはまる。対策としては:
- 時変パラメータモデルは解決にはならない。パラメータが一定だという仮定が、反応関数が一定だという仮定にシフトしただけだから。
- インパルス応答関数の分析のように、政策変化がデータ生成過程を変えないという想定を明示的にする、というのがひとつの方向。
- 過去データで超外生性を検証するという路線もある[ルーカス批判があてはまるかどうかを調べる、という意味らしい]。例として Naik & Raman (2003 JMR)。
- モデルをリッチにする。構造VARモデルとか。
- 最近では手法がVARベースのモデルから拡張している。カルマン・フィルタを活用して、広告のwearoutをモデルに取り入れるとか(Naik et al, 1998 MktgSci)、交互作用効果を導入するとか(Naik, Raman, & Winer, 2005 MktgSci.)。周波数分解アプローチとか。階層ベイズ誤差修正モデルとか、ベイジアンVARとか。[た、助けて...]
- 時系列の分野は基礎概念の定義が意外に曖昧である由。たとえば、短期効果と長期効果とはなにか。インパルス応答関数が収束する値が長期効果だという人もいれば、インパルス応答関数の下面積が長期効果だという人もいる。弾力性は線形モデルで推定すんのか、log-logモデルで推定してもやっぱり弾力性なのか、とか。
- たとえ単位根検定を通過したって、市場反応におけるレジーム・チェンジがあると実質的に推論できることがある。その場合の方法としては、動的インパルス反応関数を使うとか、moving windowsを使うとか。
へー、いろいろあるのね...
論文:マーケティング - 読了:Pauwels, et al. (2005) マーケティングにおける時系列モデルレビュー in 2005